pharmacist's record

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BIP trial(ベザフィブラートvsプラセボ)の20年後フォロー

ベザフィブラートの20年フォローの観察研究が出たようです。

Bezafibrate for the treatment of dyslipidemia in patients with coronary artery disease: 20-year mortality follow-up of the BIP randomized control t... - PubMed - NCBI
Cardiovasc Diabetol. 2016 Jan 22;15:11
研究デザイン:RCT(BIP trial)の観察研究

BIP trialSecondary prevention by raising HDL cholesterol and reducing triglycerides in patients with coronary artery disease. - PubMed - NCBI Circulation. 2000 Jul 4;102(1):21-7.)

P:MI and/or stable angina pectoris(安定狭心症)の既往のある低HDL and/or 高TG血症3090名
E:ベザフィブラート400mg(n=1548)
C:プラセボ(n=1542)
O:致死的/非致死的MI or 突然死
試験期間:6.2年(5.3-6.8)
資金提供:ベーリンガー

<選定基準の脂質プロファイル>
TC:180-250mg/dL
HDL:45mg/dL以下
TG:300mg/dL以下
LDL:180mg/dL以下(50歳未満は160mg/dL以下)

<除外基準>
T1DM、重篤な心不全、不安定狭心症、肝/腎不全、脂質異常症治療薬服用中

※除外基準として、脂質改善薬服用が上げられており、さらに「Patients were allowed to take prescribed medications for cardiac and other conditions except for lipid-lowering drugs」とのことで、脂質改善薬の投与は認められていないようですが、Methodの終わりのほうに、Colestipolという脂質改善薬がベザフィブラート群57名、プラセボ群107名に追加投与との記述あり。食事療法でもLDL180以上のケースに適応された模様。

<ベースライン>
BIP trialのtable1より
男性:90%
平均年齢:60歳
平均BMI:27
平均TC:212
平均HDL:34.6
平均LDL:148
平均TG:145
MIの既往:78%
狭心症の既往:57%
DM:10%
喫煙:11~12%
脳卒中:1%
βブロッカー:38~40%
CCB:50~52%
血栓薬:70%
ACEi:12%
硝酸薬Nitrates:51%
利尿薬:14%

<結果>
511名(17%)が脱落(死亡・プライマリ発生以外の理由)。
そのうち373名(実薬群136名、プラセボ237名)はオープンラベルで脂質改善薬を服用した。
試験薬中止の理由は;事前に定義された脂質値を超えた1%~1.5%、有害事象両群約6%、患者希望両群7%、その他2~3%

ベザフィブラートの脂質改善効果は、HDL18%増加、TG21%減少

ベザフィブラート(n=1548) プラセボ(n=1542) p value
致死的/非致死的MI or 突然死(プライマリ) 13.6% 15% p=0.26
非致死的MI 9.7% 11.2% p=0.18
致死的MI 1.2% 1.1% p=0.87
突然死 2.8% 2.8% p=0.98
全死亡 10.4% 9.9% p=0.62
心疾患死(cardiac death) 6.1% 5.7% p=0.61


BIP trialでは、MI/突然死で有意差はみられず、全死亡や心疾患死亡はむしろ微増という結果。


(今回とりあげる研究は、このBIP trialのその後をフォローした観察研究です。)

study population:BIP trial参加者(BIP trialでベザフィブラートもプラセボも服用しなかった19名を除く)

BIP trialの研究薬剤中止後、平均8.2年追加で冠動脈疾患を観察(→この時点でも論文が出ているようです J Am Coll Cardiol. 2008 Jan 29;51(4):459-65)

その後、2014年に死亡率を調査、総データ数52,100人年

アウトカム:全死亡
COI:無し

<結果>

ベザフィブラート プラセボ 調整ハザード比(95%CI)
全死亡 917名/1548名(60%) 952名/1542名(62%) HR0.90(0.82-0.98)
全死亡(TG200mg/dL以上のサブ解析) NA NA HR0.75(0.60-0.94)

※TG200越えのn数は両群230名程度、死亡人数の記載見当たらず(Fig2でわかるかもですがちょっと見難くて…)。
MIの既往や、DMの有無は有意に死亡リスク上昇(詳細はtable2,3)

<感想>
まず、BIP trial。
選定基準の脂質、LDLやTGが高すぎる人は除外されている模様。
そして、心疾患の二次予防ですね。
ハードエンドポイントはいまいちな結果で、MI再発を防ぐ効果はあまりなさそうだなという印象。

そもそも今の基準で照らし合わせると、このBIP trialの患者さんたちはフィブラートではなくスタチンの適用となるんじゃないかっていう気も…(←この点は、20年フォローの文献でも言及されています)

そして、その後のフォローアップデータですが…。
まずはっきりさせておきたいのは、BIP trial終了後の患者さんたちはどのような治療を受けたかという点。
"after discontinuaion of the study medication"という記述からも、20年間、ベザフィブラートを服用していたわけではないと思われます。もちろん二重盲検は終わっているのでプラセボの出番も終わっているでしょう。

2008年のこちらも目を通してみます
Secondary prevention with bezafibrate therapy for the treatment of dyslipidemia: an extended follow-up of the BIP trial. - PubMed - NCBI
J Am Coll Cardiol. 2008 Jan 29;51(4):459-65
BIP trialからさらに8.2年延長してフォローし、その時点での報告ということですよね。

そのフォローアップ期間中にベザフィブラートとは別の(Nonstudy)、脂質低下薬(LLD;lipid-lowering drugs)が投与(ベザフィブラート52%、プラセボ57%)されたといったことがアブストに書かれています。
そのNonstudy LLDsは主にスタチンだそうで、table1に詳しい記載が。

びっくりすることに、Double-blind phaseにプロトコルに載っていたColestipol以外のLLDとして、スタチンがベザフィブラート群で7%、プラセボで11%…。これはいったいどういうことでしょう??BIPはColestipol以外の脂質改善薬の投与は認められていないはず。そしてBIPの脱落率は17%なので、脱落者全員がスタチンを服用したとしても、それを上回っているような…(どこか読み間違えていたら申し訳ございません、ご指摘お願い致します)。
BIP終了後のフォローアップで、スタチンはベザフィブラート群で51%、プラセボで55%。フィブラートは9~10%と両群ほぼ同等。
よくわからなくなってきましたが、試験終了後に両群スタチンの使用率が増えているのがわかります。


さて、2016年の文献に戻ります。
"We do not have information regarding medications or events after the cessation of the BIP trial beyond all-cause mortality nor can we account for changes in medical practice and management guidelines over the long follow-up period"
Limitationのこの記載からも、BIP study終了後の治療や疾病に関する情報を把握できていないと思われます。(2008年の文献で、多少その後の治療内容がわかりましたが)


BIPでは全死亡はほぼ同等というかややプラセボ有利だったのが、20年後ではベザフィブラート群有利になってはいます。ただその差は絶対リスク差で2%程度。20年も経って死亡というイベントが多く発生したことで、統計的な差が出やすくなったという側面もあるかもしれませんね。
この20年フォローアップのデータにて、糖尿病の早期治療で示唆されているようなレガシー効果があると言えるかどうかは自分にはちょっとわかりません。(レガシー効果 参考:1型糖尿病の厳格な血糖コントロール(DCCT/EDIC) - pharmacist's record)

20年間、盲検化されたままベザフィブラートとプラセボを飲ませたのであれば興味津々なのですが…(←そんな研究はないッ…はず)

スタチン全盛の時代にフィブラートの活躍の余地がどれほどあるか難しいところですね。スタチンとフィブラートの併用は原則禁忌で、一般的に推奨されている治療法ではないと思います。
争点となるのが、TGがとても高いケースでしょうか。
TG200mg/dL越えのサブ解析では、より死亡リスクが減っていたことから、中性脂肪に対する介入ももしかしたらなんらかの有益性があるのかもしれません。
(→ちなみに低HDLをターゲットにしたデータはこんな感じ。薬物治療で善玉コレステロールを増やすと寿命は延びる? - pharmacist's record

次に調べてみたいのは、「LDLが高くて、TGが"超!"高い場合、スタチンとフィブラートどちらが良いか?」ですね。あまり詳しく知らないのですがやはりスタチン一択なのでしょうか…?
いつになるかわかりませんが、気が向いたら調べてみる…かも…?