pharmacist's record

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夜尿症にデスモプレシンと抗コリン薬の併用

ちょっと気になる論文を見つけたので取り上げます(アブストのみですが)。

内容はブログタイトルのとおりなんですが、どうなんでしょう。実際、このような処方は見たことがないのですが、いざ処方がきたら…。
そもそも抗コリン薬って何のことでしょうね。イミプラミンのような三環系?…ではないですよね。オキシブチニンとかプロピベリンのような薬でしょうか。

Combination therapy with desmopressin and an anticholinergic medication for nonresponders to desmopressin for monosymptomatic nocturnal enuresis: a... - PubMed - NCBI
Pediatrics. 2008 Nov;122(5):1027-32.
背景:デスモプレシンDesmopressinはmonosymptomatic primary nocturnal enuresis(単一症状の一次性夜尿症)の適応で承認された薬。デスモプレシンで十分な効果が得られない夜尿症に抗コリン薬を追加した併用療法の有効性を検討。

研究デザイン:DB-RCT
P:デスモプレシン最大用量が無効の一次性夜尿症の小児(下部尿路症状や腸機能障害をもつ小児は除外)
E:デスモプレシン+徐放性抗コリン薬
C:デスモプレシン+プラセボ
O:1週間の夜間の尿失禁の記録
治療期間:1ヶ月

<結果>
41名が登録。7名がノンコンプライアンスで除外。

プラセボと比較して併用群はthe mean number of wet nightsが有意に減少
おもらしのエピソードが66%減少


<感想>
アブストにはほとんどなにも書いてないですね…。
抗コリン薬が何なのかも書いてない。
7名脱落したそうですが解析対象となっているのか…。ITTの記載はないので、除外ですかねぇ…。
そもそも症例数がとても少ないです。
安全性の面はどうなのかもまったくわかりませんね。

気になるから取り上げたはいいものの結局よくわからない…。
まあ、フルテキスト購入して読めよ!て話なんでしょうけど…。


もう1個ありました。こっちのほうがいいかな。
Desmopressin and oxybutynin in monosymptomatic nocturnal enuresis: a randomized, double-blind, placebo-controlled trial and an assessment of predic... - PubMed - NCBI
BJU Int. 2012 Oct;110(8 Pt B):E381-6.
研究デザイン:DB-RCT
P:monosymptomatic nocturnal enuresis(単一症状の夜尿症)の小児(6~13歳、平均10.6歳)
E:Oral melt Desmopressin plus oxybutynin5mg 61名
C:Oral melt Desmopressin plus placebo 59名
O:"プライマリアウトカム"としての表記はないが、おもらしの回数により定義されたresponderの割合と思われる
治療期間:4週間
COI:なし

<患者除外基準>
daytime incontinence(日中の尿失禁)
voiding more than eight times per day or less than three times per day(排尿回数;1日8回以上or3回未満)
encopresis or constipation(遺糞症・便失禁or便秘)

<治療失敗>
non-responseとpartial responseを治療失敗とする
それぞれの定義は、
non-response:wet nights/week 0-49%減少
partial response:wet nights/week 50-89%減少

これは試験デザインがわかりにくいですね。
Fig1を見るのがわかりやすいと思います。

206名をまず、デスモプレシン120μgと240μgにわけて2週間舌下投与
就寝30~60分前に服用、就寝2時間前~夜間は200cc以上の水分をとらないよう依頼

・120μg101名:[Full response35名]→除外、[Partial response46名、Non-response20名]→240μgに増量65名:[Full response13名]→除外、[Failure53名]→ランダム化
・240μg105名:[Full response38名]→除外、[Partial response49名、Non-response18名]→計67名Failure→ランダム化

53+67=120名をランダム化
・E群61名:Full13名、Partial15名、Non33名
・C群59名:Full3名、Partial7名、Non49名

結果はこんな感じとなっています。

まずデスモプレシン単独でのFull responderが半数切るんだなぁ…と。
120μgと240μgで差がないのも意外。これは年齢や体重によって120μg or 240μgに割り当てたからかなぁと思いましたがそんな記載は見当たらず、table1に120μgと240μgの平均年齢が同じことから、用量依存性が認められなかった模様。
と、思いきや、120μgのFailure群を240μgに増量でFull response20%…。単なる時間経過で改善か?なんて気もしてしまいます。増量無しで120μgで継続でもそれなりに改善したのでは?とも。

で、Full responseが得られなかった120名に本題のDB-RCTがはじまります
上記だとわかりにくいかと思うので、表にすると、

+オキシブチニン プラセボ
Full response 13名(21%) 3名(5%)
Partial response 15名(24%) 7名(12%)
Non-response 33名(55%) 49名(83%)


たしかにオキシブチニン併用のほうが効果が認められていますが、Non-response(1週間あたりのwet nightsが0~49%のみ減少)が過半数を占めています。

夜尿症の治療に詳しくなくて恐縮なのですが、これはもしや薬物療法には限界があるということでしょうか。

ちなみにオキシブチニン(ポラキス®)は夜尿症の適応はなく、「小児への投与」は安全性未確立


こちらはデスモプレシンへのオキシブチニン上乗せ(C)とトルテロジン上乗せ(E)の比較
Comparison of combined treatment with desmopressin plus oxybutynin and desmopressin plus tolterodine in treatment of children with primary nocturna... - PubMed - NCBI
J Renal Inj Prev. 2015 Sep 1;4(3):80-6.
トルテロジン優位な結果。
ただ、こちらはランダム化はされてるようですが、盲検化(blinding)の記述が見当たらず。
Funding/Supportは製薬メーカーではない模様


デスモプレシンvsオキシブチニンのDB-RCT
Desmopressin versus Oxybutynin for Nocturnal Enuresis in Children in Bandar Abbas: A Randomized Clinical Trial. - PubMed - NCBI
Electron Physician. 2016 Mar 25;8(3):2187-93
P:5歳以上の夜尿症66名(平均年齢7歳
E:デスモプレシン60μg/2days→60μg/day→120μg/day
C:オキシブチニン5mg
O:(プライマリという明記はない)frequency of nocturnal enuresis per week
試験期間:6ヶ月
追跡率:100%
finding:Hormozgan University of Medical Sciences
COI:なし

結果は、table2を見ると一目瞭然でデスモプレシンのほうが改善

有害事象は、

デスモプレシン39名(1ヶ月後、6ヶ月後) オキシブチニン27名(1ヶ月後、6ヶ月後)
Xerostomia口腔乾燥 0%、0% 70.4%、11.1%
Xerophthalmia眼球乾燥 0%、0% 7.4%、0%
Constipation便秘 5.1%、0% 22.2%、29.6%

抗コリン薬のオキシブチニンの有害事象が印象的
オキシブチニンによる口渇は最初は高頻度、半年後には慣れてくるのか訴えは少なくなる(そうは言っても10%とやや高頻度)一方で、便秘は半年後で微増。慣れてくるというものではないようです。

デスモプレシン推しですが、COIは無い模様。


日本夜尿症学会の夜尿症診療のガイドラインでは、
夜尿症診療のガイドライン
メタアナリシスで有効性が示されてるのは三環系抗うつ剤、抗利尿ホルモン(デスモプレシン)のみ。
抗コリン薬のプロピベリンやオキシブチニンの記載もあります。
小児安全性未確立としながらも、小児用量の目安あり(塩酸オキシブチニン2~3mg、塩酸プロピベリン10mgを夕食後or就寝前。日中尿失禁もあれば、体重25kg以上では、オキシブチニン2~3mg,塩酸プロピベリン20mgを1日1回または2回)。正式な適応はないため保険請求上は注意が必要。


こちらはコクランレビュー
Drugs for nocturnal enuresis in children (other than desmopressin and tricyclics). - PubMed - NCBI
Cochrane Database Syst Rev. 2012 Dec 12;12:CD002238
インドメタシンジアゼパムといった意外な薬が言及されていて興味深いですね。


最後に経口デスモプレシンのDI(添付文書、患者用リーフレット「ミニリンメルト®OD錠 12 0μg / 2 4 0μgを使用される皆様とご家族の方へ 夜尿症編 より)

<作用>
バソプレシンに作用し、水の再吸収を促進

<服用法>
・舌の下に置いて、水無しで服用動物実験では口腔粘膜からの吸収もみられたが、消化管でも吸収されるため、舌下錠ではなく口腔崩壊錠という扱いに)。水で飲み込むと効果が弱くなる可能性あり
食後服用で血中濃度が落ちるため、夕食後2時間以上たってから寝る前(排尿済ませた後)に服用。

<水中毒対策>
希釈性の低Na血症
症状;倦怠感、頭痛、悪心・嘔吐、けいれん等
対策:薬を服用する2,3時間前~翌朝まで飲水はコップ1杯程度。多めに飲んだ場合は服用をやめる。飲水制限の意味でも薬は水無しで服用。


6歳未満は安全性未確立。
夜尿症は自然軽快するので、定期的(3ヶ月くらい)に投与中断して夜尿状況を確認することとなっています。
安易に長期投与はしないように、ということですね。これは大事かと思います。