pharmacist's record

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スボレキサントの有害事象(NNH)

薬剤師たるもの服作用のスペシャリストになりなさい!と行政から指導されたことがありますが、添付文書やインタビューフォームを読み込んでもスペシャリストにはなれないですよね。
高頻度の副作用はNNHを把握しておきたいと思う今日この頃。

過去にこんな記事も書きましたが、あまり有用なデータとはいえないような…
スボレキサント(ベルソムラ)市販後調査 - pharmacist's record


スボレキサントのメタアナリシス。有害事象のNNHが載っています
Suvorexant for Primary Insomnia: A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Placebo-Controlled Trials. - PubMed - NCBI
PLoS One. 2015 Aug 28;10(8):e0136910

研究デザイン:DB-RCTのメタアナリシス
P:Primary Insomnia原発不眠症
E:スボレキサント
C:プラセボ
O:
The primary efficacy outcomes:either subjective total sleep time(総睡眠時間) or subjective time-to-sleep onset(入眠までの時間;睡眠潜時) at 1 month
The secondary outcomes:other efficacy outcomes, discontinuation rate, and individual adverse events
(↑有害事象はセカンダリ。プライマリアウトカムは2つ。)

評価者バイアス
・Two authors independently extracted

出版バイアス
・without language restriction言語制限なし
・元論文が少なく、Funnel plotは検討されていない


<結果>
48の文献のうち、適合するのは3文献のみ(実質、4研究)

分析対象は、
Biol Psychiatry. 2016 Jan 15;79(2):136-48. PMID: 25526970(著者の情報にMerck Sharp & Dohme Corporationと記載あり)  
Neurology. 2012 Dec 4;79(23):2265-74 PMID: 23197752(著者の情報にMerck Sharp & Dohme Corporationと記載あり)
Lancet Neurol. 2014 May;13(5):461-71 PMID: 24680372(FUNDING:Merck & Co Inc.)

試験期間:1ヶ月(N=1)、3ヶ月(N=2)、1年(N=1)
COI:すべてMerckが関与している模様

[有効性]
総睡眠時間の改善はプラセボと比べて約20分の改善(だいたい40分vs20分)
入眠までの時間はプラセボと比べて7.6分の改善(だいたい20分vs12分)
(↑プラセボ効果もある程度期待できる模様。…とみせかけて、プラセボ効果だけでなく、ただ単に原発性不眠という病状が、試験に組み込まれてなんやかんやしているうちに不眠症自体がやや改善した?という可能性も…。無治療群との比較もあれば、真のプラセボ効果と言えるかもしれない…)

[有害事象と服薬中断]
患者数は2000~3000程度

risk ratio(95%CI) NNH
Discontinuation due to all cause 0.96(0.82–1.11)
Discontinuation due to intolerability 0.94(0.60–1.47)
Discontinuation due to inefficacy 0.76(0.53–1.10)
At least one adverse events 1.06(0.99–1.14)  
At least one side effects 1.58(1.35–1.85) NNH10(7–20)
Somnolence眠気 3.16(2.18–4.57) NNH14(10–25)
Excessive daytime sleepiness/sedation 3.34(1.08–10.32) NNH100(100–∞)
Fatigue 2.09(1.08–4.06) NNH50(25–∞)
Complex sleep–related behaviors 1.65(0.17–15.86)
Hypnagogic hallucination入眠時幻覚 2.31(0.38–13.95)
Hypnopompic hallucination覚醒時幻覚 1.65(0.17–15.86)
Abnormal dreams 2.87(1.10–7.52) NNH100(50–∞)
Suicidal ideation自殺念慮 1.72(0.24–12.13)
Events suggesting drug–abuse potential薬物乱用 1.05(0.67–1.65)
Fall転倒 0.84(0.44–1.62)
headache 1.13(0.85–1.51)
Dizziness 0.87(0.57–1.31)
Dry mouth 1.99(1.10–3.61)
Motor vehicle accidents/violations自動車事故/違反 1.16(0.52–2.60)

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4552781/table/pone.0136910.t003/


<感想>
メタアナリシスといっても解析された元論文が3~4報なので、ちょっと少ないですね。COIを調べてみると、すべて製薬メーカーさんの関与があるようです。
Funnel plotは一般に10以上の研究を含んだメタアナリシスにのみ使用されるとのことで、Funnel plotは検討されていません。各研究の試験期間が短いこともLimitationとして挙げられています。

inefficacy(無効)による服薬中断が少ない傾向ですが、そりゃそうですよね。プラセボより効かない薬が市場に出るわけがないでしょっていう…。
BZDと比較したらスボレキサントのほうがinefficacyのための中断は多いと思います。BZDの眠剤が効果がないから中止というのはほとんど経験ないですが、スボレキサントは1~2名はいたような気が…(自分の経験上の話なので、n数がとても少なく、信憑性は薄いですが)。
忍容性には問題がなさそうだ、というのは1つの知見かもしれませんが、これも個人的にはそのような症例(ふらつきによる中断)も経験があります…。
Abnormal dreamsのNNHは100(多く見積もると50)。これは参考になりますね。
意外とfatigue(疲労・倦怠)がNNH50と多いのが気になりました。

このデータが副作用のすべてというわけではないでしょうけど(COIありますし)、定量的なデータなので参考にはなりますね。


おまけ。
Psychomotor effects, pharmacokinetics and safety of the orexin receptor antagonist suvorexant administered in combination with alcohol in healthy s... - PubMed - NCBI
J Psychopharmacol. 2015 Nov;29(11):1159-69
健常者31名を対象に行ったアルコール(0.7g/kg)との併用についての二重盲検クロスオーバー試験

2時間後で比較すると、併用群のほうがreaction timeが増加(44 ms versus suvorexant , 24 ms versus alcohol)
ミリ秒ということでreaction timeとは反射的な反応時間みたいなことを指すのでしょうか…?
9時間後にはとくに差がないようです。
結論は、negative psychomotor effects(負の精神運動効果)のためアルコールとの併用は推奨しないとのこと。

まあ、そうですよね。
9時間後でとくに差がなかったようなことが書かれていますが、実際、交通事故ありましたよね…。
高齢者なのに1回20mg投与(BZDと併用)し、さらに日本酒1合…。翌朝に急な眠気で追突事故。
時間をあければ影響はないとは言えない可能性あり。reaction timeの延長もあったかもしれませんね。


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