pharmacist's record

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SJS/TENの初発症状のオッズ

SJS(Stevens-Johnson syndrome皮膚粘膜眼症候群)やTEN(Toxic epidermal necrolysis中毒性表皮壊死症)は重症薬疹として有名ですが、初期症状から見極めること(可能であれば)が重要だと思います。

過去の関連記事はこちら
LTG vs CBZ 皮疹の頻度は? / 交差性は? - pharmacist's record


副作用について調べるなら、まずはこちら、重篤副作用疾患別対応マニュアルでしょうか。
重篤副作用疾患別対応マニュアル|医薬品医療機器情報提供ホームページ
SJSとTENが別々でまとめられていてちょっと見難いですね(これらは一連の病態とみなすとされています)。
SJSとTENを対比させながらざっくりまとめていくと、

SJS TEN
発生頻度 1~6人/100万人 0.4~1.2人/100万人
皮膚症状の範囲 体表面積の10%未満 体表面積の10%以上

簡単に言うとTENのほうが重症です。
※体表面積については30%以上をTEN,10~30%はSJS/TENのオーバーラップ状態とするという説も。

SJS/TENともに主要徴候は同じ記載内容となっており、

発熱(38℃以上)
粘膜症状(眼の充血、口唇/粘膜(陰部など)のびらん、咽頭痛、排尿痛など)
多発する紅斑(進行すると水疱)

SJSのマニュアルによると、眼病変(両眼性)は他の部位の粘膜病変とほぼ同時あるいは半日~1日程度先行するとのこと


診断基準はこちら
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000089920.pdf
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000089941.pdf

主要所見(必須)が3つ。
SJS/TENともに「発熱」
びらんや水疱(TENでは表皮剥離も)の体表面積のカットオフは10%
SJSでは皮膚粘膜移行部の重篤な粘膜病変、TENではブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS)の除外が挙げられています。

重症度判定
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初期症状がわかっても、それらの症状がSJSやTENの可能性をどの程度高めるのかがわかりませんね。

そこでこちら。
SJS/TENの背景因子と初期症状を比較検討した国内の研究
中毒性表皮壊死症とスティーブンス-ジョンソン症候群の患者背景に関する研究
医療薬学 Vol. 32 (2006) No. 3 P 183-189

研究デザイン:ケースコントロール
調査対象:薬物の副作用と中毒に関する症例報告データベースCARPIS(Case Reports of Adverse Drug Reaction and Poisoning Information System)に登録されている症例

<ケース症例>
SJS/TENに関する記載のある症例は585件
使用された薬剤146種類。このうち発生件数5件以上の薬剤を抽出

32種類の薬剤:アスピリンアセトアミノフェン、アロプリノール、カルバマゼピン、ジクロフェナク、フェニトイン、アンピシリン、スリンダク、フェノバルビタールイブプロフェン、スルファメトキサゾール、サラゾスルファピリジン、ゾニサミドなど

これら32薬剤による症例が322件。
SJS/TENの診断基準などを基に、101症例をケース症例とする(平均年齢39歳)

<コントロール症例>
上記同薬剤32種によってSJS/TEN以外の皮膚障害が起こった1117症例を抽出
症例評価を行い、そのうちの590例をコントロール症例とする

<結果>
患者背景(単変量ロジスティック回帰分析)

項目 オッズ比(95%CI) オッズ比(多変量ロジスティック回帰分析;交絡を調整)
女性 1.24(0.81-1.90) -
感染症 1.70(1.10-2.59) 1.84(1.18-2.86)
膠原病 2.45(1.13-4.97) 2.58(1.14-5.44)
免疫低下状態 1.66(0.89-2.96) -
肝障害 0.32(0.08-0.88) -
腎障害 0.61(0.10-2.14) -
副作用歴/アレルギー歴 0.53(0.28-0.95) 0.48(0.25-0.87)
年齢 0.40(0.16-0.96) 0.38(0.15-0.94)


初発症状

項目 有症率(ケース症例) オッズ比(95%CI)
紅斑 39.6% 1.15(0.74-1.77)
掻痒 6.9% 0.17(0.07-0.34)
水疱 15.8% 2.73(1.43-5.04)
倦怠感 5.0% 1.01(0.34-2.46)
発赤 8.9% 1.60(0.70-3.31)
浮腫 7.9% 1.07(0.45-2.22)
呼吸困難 0% オッズ未記載(コントロールの有症率4.4%)
皮疹部の疼痛 3.0% 1.17(0.27-3.64)
眼の充血 12.9% 17.28(6.35-54.90)
嘔吐・吐き気 2.0% 0.90(0.13-3.31)
皮膚びらん 4.0% 2.17(0.59-6.49)
食欲不振 2.0% 1.06(0.16-4.04)
1.0% 0.53(0.03-2.75)
咽頭異常 11.9% 3.18(1.49-6.47)


<考察>
SJSでは、まず発熱や紅斑が出現。重症化してくると水疱、びらんを生じ、融合する。一般的には、眼・口腔粘膜・外陰部に粘膜疹を伴う。咽頭痛などの症状も発見に重要

通常の薬疹では掻痒を伴う場合が多いが、多形滲出性紅斑(EEM;erythema exsudativem multiforme)では掻痒感は軽度で違和感や疼痛を訴えることが多いとされており、TENやSJSも同様かもしれない。
受診した時点で、水疱、びらん、表皮剥離といった痛みを伴う訴えがあり、掻痒という症状を報告者が意識していなかった可能性もあるかもしれない


<感想>
・掻痒のオッズが低く、かゆみが初発症状の場合、可能性が低くなる
・眼の充血、咽頭症状が初発の場合、疑わしくなる。
・発熱はSJS/TENともに必須条件であるためかオッズの記載なし
・皮疹部疼痛は可能性が高くならない
・意外なことにアレルギー歴/副作用歴はオッズ低い。ただ膠原病はオッズ高い。
個人的に気になったのをまとめるとこんなところでしょうか。
とても興味深いデータで、とても勉強になりました。
このような副作用データの解析はとても大事だと思います!