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pharmacist's record

日々の業務の向上のため、薬や病気について学んだことを記録します。細心の注意を払っていますが、古い情報が混ざっていたり、記載内容に誤りがある、論文の批判的吟味が不十分であるといった至らない点があるかもしれません。提供する情報に関しましては、一切の責任を負うことができませんので、予めご了承ください。

スタチンと横紋筋融解症

循環器 中毒・過量投与・有害事象 相互作用

前回に引き続き、スタチンについてもう少し調べてみます。

スタチンといえば横紋筋融解症rhabdomyolysisが有名ですね。

重篤副作用マニュアル(重篤副作用疾患別対応マニュアル|医薬品医療機器情報提供ホームページ)によると、
骨格筋の細胞が融解、壊死することにより、筋肉の痛みや脱力などを生じる病態。
筋肉から血液に流出したミオグロビンにより腎臓の尿細管が障害されAKI(急性腎障害)を起こすことあり。
初期症状は
「手足・肩・腰・その他の筋肉が痛む、」
「手足がしびれる」
「手足に力がはいらない」
「こわばる」
「全身がだるい」
「尿の色が赤褐色になる」
などの症状

好発時期:抗生剤などでは投与初期に集中、スタチンにおいては、服用開始後、数週~数ヶ月を経過して徐々に発症することが多い。数年服用していても併用薬変更時に発症する場合がある。筋痛が先行することが多い。
(↑根拠となるデータの掲示がないですが、投与初期だけ注意すればいいというわけではない模様)

頻度は、"米国における調査ではスタチン服用者において筋肉痛は、2~7%で生じ、CK上昇や筋力低下は0.1%~1.0%で認められる。重篤な筋障害は0.08%程度で生じ、100万人のスタチン服用者がいた場合には、0.15名の横紋筋融解による死亡がでていることになる"
とのことですが、こちらも脚注がなく引用文献が見つからず…。

Mayo clinicの記事(Rhabdomyolysis from statins: What's the risk? - Mayo Clinic)によると(一般向けの記事のようです)
"the risk of developing rhabdomyolysis from statin therapy is very low, around 1.5 for each 100,000 people taking statins"
10万人あたり1.5回

Dynamedによると10万人年に3~4回


つづいて文献を探してみます。

Statin-induced myotoxicity: pharmacokinetic differences among statins and the risk of rhabdomyolysis, with particular reference to pitavastatin. - PubMed - NCBI
Curr Vasc Pharmacol. 2012 Mar;10(2):257-67.

"the incidence of rhabdomyolysis is approximately 3.4 cases per 100,000 person-years with standard-dose statin therapy"
3~4回/10万人年(Dynamedと同じですね)
他剤との併用によるリスク増について記載されてますが、細かいデータは残念ながらアブストには載ってません。
その他剤とは、
スタチンの代謝に関わるCYPを阻害する薬剤
スタチンを肝細胞に取り込む、有機アニオントランスポーター(OATPs;the organic anion-transporting polypeptides)と相互作用する薬剤
が挙げられ、各スタチン特有のプロファイルによりリスクの程度は異なるとのこと。


つづいて…、
スタチンの有害事象のメタアナリシスがありました!(ただし、アブストしか読めず…泣)
Statin-related adverse events: a meta-analysis. - PubMed - NCBI
Clin Ther. 2006 Jan;28(1):26-35.
研究デザイン:RCTのメタアナリシス(非ランダム化、有害事象のデータがない試験は除外)

P:脂質異常症の患者(一次予防、二次予防)
E:スタチン(atorvastatin, simvastatin,pravastatin, rosuvastatin, fluvastatin, lovastatin)
C:プラセボ
O:adverse events(AEs)

アブストラクトのみ
バイアスリスクについて評価できず。

<結果>
18試験、71108人、301374人年(person-years)

スタチン(n=36,062)
プラセボ(n=35,046)

スタチンvsプラセボ

OR NNT/NNH
any AEs OR1.4(95%CI 1.09-1.80) NNH197
心血管イベント OR0.74(95%CI 0.69-0.80) NNT27
CPK正常上限の十倍以上or横紋筋融解症(CPK>10 times the upper limit of normal or rhabdomyolysis) NA NNH3400
重度の横紋筋融解症 NA NNH7428

有害事象はアトルバスタチンに多く、フルバスタチンに少ない傾向
緊急性のない筋肉痛や肝機能数値上昇のような有害事象は報告された有害事象の2/3を占める(Nonurgent AEs such as myalgia and liver function elevations were responsible for approximately two thirds of AEs reported in trials)

アブストのみですが、NNHの記載もありますね。
3400名に投与すると1名に横紋筋融解症orCPK正常上限の10倍(2000IU/Lくらいでしょうか)をきたすということで、RCTのデータ解析では意外と多い結果となっています。

さて、ここまで日本人のみを対象としたデータはありませんが、アジア人はstatin muscle toxicityリスクが高いかもという報告(Clinical perspectives of statin-induced rhabdomyolysis. - PubMed - NCBI)もあり、リスクを過小評価しないほうがいいかもしれません。
ちなみに日本の書籍「薬がみえる」では、0.02~003%との記載でした(引用元の記載はないですが)。


最後にもうひとつ。こちらはフルテキスト読めます。
Safety of statins: an update. - PubMed - NCBI
Ther Adv Drug Saf. 2012 Jun;3(3):133-44.
スタチンの安全性についてのレビューです。

ミオパチーや横紋筋融解症などの筋毒性Muscle toxicityはスタチンの有害事象として重要。
<言葉の定義>

定義
Myopathyミオパチー 筋肉の疾患の総称
Myalgia筋肉痛 CK上昇のない筋肉痛や脱力感
Myositis筋炎 CK上昇を伴う筋症状
Rhabdomyolysis横紋筋融解症 CK上昇(典型的には、正常上限10倍)を伴う筋症状と、クレアチニン上昇(通常、褐色尿や尿中ミオグロビンを伴う)

by American College of Cardiology/American Heart Association/National Heart, Lung and Blood Institute Clinical Advisory

標準的な用量のスタチン投与にて、CK正常上限10倍以上を伴う筋痛/脱力感は典型的には1万人に1人未満。
高用量/相互作用によりリスク増加。
(Lancet. 2007 Nov 24;370(9601):1781-90. PMID: 17559928)

軽度なミオパチーはもっと頻度が多く、CKが10倍以上まで上昇しないmyalgiaは最大5%程度発生
(JAMA. 2003 Apr 2;289(13):1681-90. PMID: 12672737)

すべてのスタチン(シンバスタチン80mg/日を除く PMID: 19920157)においてミオパチーのリスクに群間差があるようにはみえない
(Cardiovasc Ther. 2012 Oct;30(5):e212-8. PMID: 21884002)

CYPの影響が少ないピタバスタチンは薬物相互作用によるリスク増が少ないと予想される(PMID:21682551)。

標準用量のスタチン(i.e. atorvastatin 10–20 mg, fluvastatin 40–80 mg, lovastatin 20–40 mg, pravastatin 40 mg, rosuvastatin 10 mg and simvastatin 20–40 mg)のRCTにおいてミオパチーのリスクは0.01%未満、プラセボと同等だったが、観察研究のデータでは、リスクが高い。臨床試験ではリスクが高い患者(相互作用など他のリスクがあるもの)は除外される。
観察研究では、myalgiaは10%程度まで起こりうるとされるが、横紋筋融解症はまれ。

<シンバスタチン>
20mg vs 80mg mean follow up 6.7 years
CK > 10 times ULN plus unexplained muscle symptoms:0.02% vs 0.9%
myopathy with CK > 40 times ULN plus evidence of end-organ damage:0% vs 0.4%
(Lancet. 2010 Nov 13;376(9753):1658-69. PMID: 21067805)
(↑シンバスタチンは高用量であきらかにリスク高くなっています。日本でこんな高用量使わないですが…)

<アトルバスタチン>
10mg vs 80mg or プラセボ(49試験のメタ n=14000)
myalgia;1.4% vs 1.5% vs 0.7%
横紋筋融解症は3群すべて発生なし
(Am J Cardiol. 2006 Jan 1;97(1):61-7. PMID: 16377285)

観察研究では、
アトルバスタチン40~80mg/日 7924名中14.9%に筋症状あり
同研究における他剤の頻度は、
シンバスタチン40–80 mg/日:18.2%
プラバスタチン40mg/日:10.9%
フルバスタチン80mg/日:5.2%
(これらの報告に、無症候性のCK上昇は含まれていない)
(Cardiovasc Drugs Ther. 2005 Dec;19(6):403-14. PMID: 16453090)

<ロスバスタチン>
発売当初、筋/腎障害が懸念されたがその後の試験や市販後調査において、用量40mgまでのロスバスタチンは他のスタチンと比べて筋毒性が強くないことが示された。
プラセボ対照RCTにおいて、最大用量40mgのロスバスタチンによるミオパチーが0.1%程度まで報告された。より高用量で、ミオパチーのリスクは増加しているようである。

<相互作用>

スタチン 阻害薬
CYP34 アトルバスタチン、シンバスタチン イトラコナゾール、CAM、EM、ベラパミル、GFJなど多数
CYP2C9 フルバスタチン、ロスバスタチン フルコナゾールなど
UGT ALL シクロスポリン、Gemfibrozil(フィブラート、本邦未発売)
P糖タンパク アトルバスタチン、シンバスタチン シクロスポリン、リトナビル、イトラコナゾール、EM、キニジンなど
OATP1B1 ALL シクロスポリン、リファンピシン、CAM、EM、RXMなど

[*http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4110822/table/table2-2042098612439884/]

<リスクファクター>
スタチンによるミオパチーのリスク増加の要因は、
・高齢
・女性
・小柄
・frailty(フレイル 高齢者の筋力や活動が低下している虚弱状態を指す)
甲状腺機能低下症
・肝障害/腎障害


さまざまな文献があって、混乱しますね。
総説としてはこちらの米国家庭医学会AFPのレビューもおすすめ。
Considerations for Safe Use of Statins: Liver Enzyme Abnormalities and Muscle Toxicitiy - American Family Physician
Am Fam Physician. 2011 Mar 15;83(6):711-716.

myositis:5.0 per 100,000 patient-years
rhabdomyolysis:1.6 per 100,000 patient-years
"these rates appear to be similar with all statins"
(横紋筋融解症の定義についてはTher Adv Drug Saf. 2012と同じように記載されています。)

ミオパチーのリスクファクター
Age older than 70 years
Drug-drug interactions
Female sex
High-dose therapy (greater than one-half the maximal recommended dosage)
Impaired liver/renal function (creatinine clearance < 30 mL per minute per 1.73 m2 [0.50 mL per second per m2])
Low body mass
Untreated hypothyroidism
(こちらでは"無治療の"と強調されており、コントロールされていれば甲状腺機能低下症はさほどリスクファクターとはならないのかな?と思いました)

相互作用についてtable2にまとまっており参考になります(国内の添付文書と同じではないので活用にあたっては注意)。

"The rate of rhabdomyolysis was 0.44 per 10,000 patient-years with statin monotherapy versus 5.98 when the statin was combined with a fibrate"
フィブラートとの併用でリスク増が示唆
(日本では原則禁忌の扱い。約10倍にリスクが増える模様)

脂溶性スタチン(シンバスタチン、アトルバスタチンなど)は、水溶性スタチン(ロスバスタチン、プラバスタチンなど)より筋毒性を引き起こす可能性が高いという仮説があるが、エビデンスはこれを支持していない。

といったところでしょうか。

で、本題はここからなんです(え!?ここから?という感じですが、前置きが長すぎました…)。
筋症状orCK上昇がみられたときの対応は?

これに対する1つの回答がAFPのレビューにありました。
f:id:ph_minimal:20160529185234j:plain
BMJ. 2008;337:a2286

うーん。
自分が悩ましいなと思うのは、とくに筋症状が強く出ているわけではないが、CKが上昇しているケースです。
さすがにCKが正常上限の10倍にもなればスタチン中止!となるでしょうけど、10倍とはまではいかないが、正常値を上回っている場合、どこまで許容できるのでしょう?
もちろん医師の判断になるのは言うまでもないですが、薬剤師もアセスメントできるようになりたいところです。

「リピトールを安全に処方していただくために リピトール服用時に留意すべきポイント」において、
「中村治雄 : 日本医事新報 2004 ; 4205 : 43-50」を参考文献として留意すべき所見と処置が記載されています。
CKについては、1000IU/Lで中止推奨(基準値の上限はだいたい200IU/Lといったところでしょうか)。
CK上昇をきたす運動などの既往がなく、500IU/Lを超えたら要注意。1~2週間のうちに再検査にて再度CKを評価。血中ミオグロビンもオーダーし、500ng/mLをこえていたら一時中止となっています。
あくまで参考に!ということでしょうけど、ある程度の目安があると助かりますね。

ちなみにCKは運動で変動するのですが、"マラソン10kmでCK値は4,000IU/L、ゴルフやこむらがえりで400IU/Lまで上昇する"とのこと…。そうなんですか。知らなかった。


運動と血清酵素
体力科学 Vol. 51 (2002) No. 5 P 407-422
この文献によると、そこまでCKが上昇するわけでもないような気もします。
Fig6にフルマラソンや5kmマラソン後の血清CKの推移が載っています。
CKがもっとも高値となるのがだいたい1日後。
n数は少ないですが、5kmマラソンではせいぜい500IU/Lまでの上昇。

フルマラソン(n=6)でも3000IU/Lまで上昇したのが男性1名のみ。他は1000程度。女性では数百程度でほとんど上昇してない例もあります。
結局は筋肉量に左右されるのでしょうけど、運動後の変動は個人差が大きいようです。


Effect of exercise on serum enzyme activities in humans. - PubMed - NCBI
Sports Med. 1987 Jul-Aug;4(4):245-67.
運動後24時間後がCK上昇のピークと記載あり


Creatine kinase monitoring in sport medicine. - PubMed - NCBI
Br Med Bull. 2007;81-82:209-30. Epub 2007 Jun 14.
こちらはフルテキスト読めますが、時間の都合により割愛


横紋筋融解症の病態と臨床
日本集中治療医学会雑誌 Vol. 16 (2009) No. 3 P 242-245
横紋筋融解症の病態についての文献です。
マラソンや体操などの持続的運動や熱中症てんかん・けいれん発作、DVTなどの非薬物性要因があげられています。
強直性間代性けいれん発作は数万単位の高CK血症をきたすことありとのことで驚きました。
たしかに激しいけいれんは筋肉が障害されるのでなるほどと思いました。


ちょっと脱線しましたが、CK上昇時の対応に戻ります。
こちらの文献にセリバスタチンで横紋筋融解症が多発したときの、米国の3学会の勧告内容が記載されています。
7.スタチンと横紋筋融解症
日本内科学会雑誌 Vol. 96 (2007) No. 8 p. 1646-1651
CKが正常上限の3~10倍に上昇したら、患者の症状の観察、血中CK値測定を毎週行い、さらに上昇する場合は、スタチンの減量/中止を行う。
CK値が正常上限の10倍以上に上昇した場合は直ちに中止。
血中CK値は個人差が大きいため、その推移をみる場合、スタチン投与前の値が基準になるので、投与前にCKを測定する
通常、スタチンによる筋障害は投与中止した時点で進行が止まり遷延することはない。

スタチン投与前のCK測定が推奨されていますが、実際どうなんでしょう?測定しているんですかね…?


いろいろ調べてみましたが収拾がつかなくなってきましたので強引に総括。

・スタチンによる横紋筋融解症は投与初期のみ起こるわけではなく、数週~数ヶ月後に徐々に発症
・横紋筋融解症の発生率は研究ごとに異なっておりはっきりしない(10万人あたりに数例というデータや、NNH3400というデータがある)。
・横紋筋融解症まではいたらない筋肉痛などの筋症状は数%程度(観察研究では10%台というデータも。ただし薬の関与によるものかはわからない)
・スタチンごとのリスク差はあまりはっきりしていない模様(ストロングスタチンのほうが高リスクという説も聞いたことがあるが、そのようなデータは見つからず)
・投与量が多いほうがリスクが大きいかもしれない(低用量と高用量でほとんど差がみられなかった研究もある)
・相互作用によりリスク増の可能性あり。フィブラートとの併用はリスクが約10倍。
・相互作用の観点から、各スタチンのプロファイルの違いも大事。
・CKは1000IU/L超えたらスタチン中止。500IU/L超えたら要注意でCK値の再測定も考慮。投与前との比較も大事。
・運動によりCK上昇(だいたい24時間後がピーク)、数日で数値が元に戻っていく。
・リスクファクターは小柄、高齢、スタチン高用量、甲状腺機能低下症など

超適当なまとめなので、原著をご確認ください!英語文献の誤訳もあるかも…(すみません)。
とくにCKのマネージメントは自信がないです。安易にCKカットオフ値を決められないのではないかと思います。
実際、先生方はどのようにアセスメントしているんでしょうね。病院勤務の方々のお話を聞いてみたいなと思う今日この頃です。

(別途、参考になる文献がみつかったら後日追記するかもしれません。)


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