pharmacist's record

日々の業務の向上のため、薬や病気について学んだことを記録します。細心の注意を払っていますが、古い情報が混ざっていたり、記載内容に誤りがある、論文の批判的吟味が不十分であるといった至らない点があるかもしれません。提供する情報に関しましては、一切の責任を負うことができませんので、予めご了承ください。

H.pylori感染と食道がんリスク

マジで!?という話を耳にしたので文献検索
この記事のタイトルから想像されるであろう結果とはまったく逆の結果が待っています。

Helicobacter pylori infection and esophageal cancer risk: an updated meta-analysis. - PubMed - NCBI
World J Gastroenterol. 2013 Sep 28;19(36):6098-107.
<イントロダクション>
食道がん(EC;Esophageal cancer)は主に食道扁平上皮癌(ESCC;esophageal squamous cell carcinoma)と食道腺癌(EAC;esophageal adenocarcinoma)で構成される8番目にコモンながんである。ヘリコバクターピロリ(H. pylori)はらせん状のグラム陰性菌であり、さまざまな消化器疾患の原因となっている。
過去のメタアナリシス(Cancer Prev Res (Phila). 2008 Oct;1(5):329-38. PMID19138977)では、H.pyloriの感染は、EACリスクと負の相関を示した(ESCCは関連なし)との報告だったが、近年の研究では相反するものもある。H.pyloriとECとの関連について、すべての適格な研究を含めたメタアナリシスを実施した。

研究デザイン:ピロリ菌感染の有無(E/C)と食道がんのリスク(O)との関連を調べたメタアナリシス

除外基準:正常な対照群の欠如、研究デザインが科学的/合理的でない、など。


評価者バイアス:データの抽出など2名の著者が独立して行っている。意見の不一致の際には、第3の研究者が議論に参加し、最終的な決定を行っている。

出版バイアス:"Search strategy"の項目に、Where data were missing, we contacted the authors for the relevant information.との記載があり、データの欠如に関して、論文の著者に問い合わせている。Begg’s testとfunnel plotsを使用。funnel plotは対称的で、ESCC(p=0.753)、EAC(p=0.621)。有意な出版バイアスはないと評価


<結果>
27報の文献が適合
出版年:1991 to 2012
地域:Western population(Finland, Germany and Ireland)=18study 、Eastern population(Iran and China)=9study

ESCC risk
Case/control(1961/5704)

OR(95%CI) I2
All(n=16) 0.83(0.63-1.03) 74.5%
Population-based(n=14) 0.79(0.59-1.00) 76%
Eastern(n=8) 0.66(0.43-0.89) 79.5%
Western(n=8) 1.02(0.80-1.25) 1.2%


EAC risk
Case/control (1330/4705)

OR(95%CI) I2
All(n=15) 0.59(0.51-0.68) 29.9%
Population-based(n=8) 0.62(0.52-0.73) 40.9%
Eastern(n=1) - -
Western(N=14) 0.60(0.52-0.68) 31%

  

<感想>
こんな報告があったとは知りませんでした。
日本の文献は1つしか含まれていませんが、ピロリ菌感染者のほうが、食道がんリスクが低いという結果。
日本はEastern populationに属することとなりますので、ESCCにおいても感染者のほうがリスクが低い傾向(ただし異質性高い)。

まあこれは介入研究ではないので、ピロリ菌を除菌したら食道がんリスクが増えることを示唆するわけではないという点は注意が必要です。

日本からこんなケースレポートも出ています。
Esophageal Adenocarcinoma Developing after Eradication of Helicobacter pylori. - PubMed - NCBI
Case Rep Gastroenterol. 2011;5(2):355-60.
ピロリ菌除菌成功は、胃十二指腸潰瘍の再発防止、胃がんリスク減少などの利点がある。
GERDやびらん性食道炎を引き起こす可能性があるが、数年かけて次第に悪化することはなく軽度であり、GERDリスクを理由として、除菌療法をやめるべきではない。
ただし除菌後は、GERD発症や、食道がんなどの合併症を考慮して長期的なフォローアップが必要。

との結語。


除菌後に食道がんリスクがどうなるか検討したRCTはあるのでしょうか?(パッと探したところみつかりませんでしたが…)

除菌の胃がん発生についてのリスクを検討したメタアナリシスがBMJに掲載されています。
Helicobacter pylori eradication therapy to prevent gastric cancer in healthy asymptomatic infected individuals: systematic review and meta-analysis... - PubMed - NCBI
BMJ. 2014 May 20;348:g3174.
健康なピロリ菌感染者を除菌することで、胃がんは減少[Risk Ratio0.66(95%CI 0.46 to 0.95)]。ただし、1つのスタディのweightが大きいです。胃がん死亡は、減少傾向[RR0.67(0.40 to 1.11)]。こちらも1つのスタディのweightが大きいものの、全体のイベント数が少ないこともあってか有意差はありません。
ここまで見ると、なかなかイイ感じですが、全死亡はRR1.09(0.86 to 1.38)I2=6%という結果。胃がん死亡は減少傾向なのに、全死亡はほぼ中央値。これはいったいどういうことなのでしょうね。もしかして、食道がんによる死亡が増えているなんてことはないよな?という疑問も生じます。すべての死因について解析してみて欲しいところですね。