pharmacist's record

日々の業務の向上のため、薬や病気について学んだことを記録します。細心の注意を払っていますが、古い情報が混ざっていたり、記載内容に誤りがある、論文の批判的吟味が不十分であるといった至らない点があるかもしれません。提供する情報に関しましては、一切の責任を負うことができませんので、予めご了承ください。

アロマターゼ阻害薬による関節痛に運動療法が有効?

アロマターゼ阻害薬の副作用として関節痛があげられます。

頻度は研究によってまちまちですが、
Aromatase inhibitor-induced arthralgia: a review. - PubMed - NCBI
Ann Oncol. 2013 Jun;24(6):1443-9.
によると、5~35%くらい(fig1)
リスクファクター:肥満、ホルモン補充療法や化学療法歴など

その他の文献として、
Management of arthralgias associated with aromatase inhibitor therapy
Curr Oncol. 2007 Dec; 14(Suppl 1): S11–S19.
こちらも参考になるかと思います。

アリミデックス®(アナストロゾール)の患者向けリーフレットを見ると関節を動かす運動やストレッチが推奨されており、DVDまであるようです。

運動療法がどの程度効果的なのかを検討した文献を調べてみました。

Randomized exercise trial of aromatase inhibitor-induced arthralgia in breast cancer survivors. - PubMed - NCBI
J Clin Oncol. 2015 Apr 1;33(10):1104-11.
背景:関節痛Arthralgiaはアロマターゼ阻害剤(AIs;aromatase inhibitors)で治療した乳がん患者において最大50%で起こるとされAIのアドヒアランス低下の原因となっている。

研究デザイン:ランダム化比較試験、ITT解析("Participants were grouped according to the intention-to-treat principle"の記載あり)
P:6ヶ月以上AIを投与されている閉経後乳がん患者
E:12ヶ月の運動療法
C:通常療法(通常の活動を継続、任意の運動指示なし)
O:関節痛(3つの異なる評価方法で3,6,9,12ヶ月で評価)

<選定基準>
・physically inactive (< 90 minutes per week of physical activity in past 6 months and no strength training in past year),
・6ヶ月以上AIを服用
・ホルモン受容体陽性ステージ1~3の乳がん(0.5~4年以内に診断)
・2ヶ月以上、関節痛あり[BPI(Brief Pain Inventory)におけるworst painのスコア ≥ 3 of 10]
・AI開始後に関節痛発生(既存の関節痛があった場合は、AIにより増悪)

※BPI(Brief Pain Inventory)
14項目のアンケートでがん患者の最悪の痛み、痛みの重症度、過去1週間の痛みの干渉(QOLのような意味合い)などを評価。スケールは0~10点
最悪の痛みworst pain:mild (score of 3 to 4), moderate (5 to 7), severe pain (8 to 10)
痛みの重症度pain severity:worst pain, average pain, least pain, and pain right nowの平均
痛みの干渉(pain interference):歩行、気分(mood)、睡眠など7項目を評価


<運動療法>
・local health clubにてトレーナー監督下で週2回のプログラムにそったトレーニング
・自宅にて週に150分の有酸素運動(aerobic exercise)
上記2つで構成

有酸素運動:外もしくはトレッドミルでのウォーキング(brisk walking)。自転車は不可。最初の1ヶ月は最大心拍数の50%程度、その後60%、80%と調整
筋力トレーニング:ベンチプレス、レッグプレスなど6項目を3セット

<サンプルサイズ>
BPI worst pain 1.5ポイントの変化をpower90%、α0.05で検出するためのサンプルサイズは各群60名


結果

<試験登録/除外/脱落>
1537名の乳がん患者を調査
1016名を電話でスクリーニング

・不適合ineligible 660名が除外
AI服用なしor有害事象などの理由で服用中止253名
関節痛 BPI<3 147名
他、身体疾患、精神疾患、英語がしゃべれないなど

・not interested 235名が除外
興味がない、時間がないなど

最終的に121名をランダム化
・運動療法61名、試験完遂45名
・通常療法60名、試験完遂38名

<ベースライン特性>
平均年齢:約60歳
平均BMI:約30
診断からの期間:約3年
AI服用期間:約2年

<介入のアドヒアランス

運動療法 通常療法
1週間あたりの身体活動
ベースライン 55分 61分
12ヶ月 222分 104分
体重
ベースライン 78.5kg 75.5kg
変化 -2.1kg +0.1kg

   
<結果>
ベースラインと12ヵ月後の変化

運動療法 通常療法 治療効果(control minus exercise)
Worst pain
ベースライン 5.6(5.2 to 6.2) 5.9(5.4 to 6.3)
12 months −1.6(−2.2 to −1.1) 0.2(−0.5 to 0.8) 1.8(0.9 to 2.6) p<.001
Severity
ベースライン 4.0(3.6 to 4.4) 4.2(3.7 to 4.7)
12 months −1.1(−1.6 to −0.6) 0.3(−0.2 to 0.8) 1.4(0.7 to 2.1) p<.001
Interference
ベースライン 2.9(2.4 to 3.4) 3.0(2.4 to 3.6)
12 months −1.1(−1.6 to −0.5) 0.4(−0.2 to 0.9) 1.4(0.7 to 2.2) p<.001


Use of Pain Medications
ベースライン:47%が鎮痛薬の使用を報告
12ヵ月後:39%が使用(17%が痛み止めを中止、8%が痛み止めを開始)
→運動療法と通常療法において差はみられず

関節痛によるAI服用中止
→両群2名ずつ。


<感想>
アクティブではない乳がん患者において、運動はAI誘発の関節痛の改善につながったとの結論ですが、まず、脱落が多いなぁという印象。試験完遂してない分が解析されているのかどうか最終結果のtable3を見てみるとn数の記載がありません。Statistical AnalysesにITTの原理に従って分類と記載されていますので、ITT解析されていると思うのですが…。

鎮痛薬の使用が許可されていることで、痛みの評価に影響がなかったのかな?という点も気になります("Use of pain medication did not confound the effect of exercise versus usual care on arthralgia. "との記載はありますが)

そして、この運動療法ってかなりガチな運動ですね。筋力トレーニングまでやってます。実際には、この運動自体が負担となってしまうので嫌だなという人もいるかもしれません。運動療法なんて嫌だという人はおそらくこの試験の参加に同意してないでしょうけど。

結果はBPIの10点スケールで1~2点の差なのであまり劇的な差といえないようです。少しでも痛みが軽減するのはすばらしいことなのですが、臨床的に意義がある差といえるかどうかは難しいところ。その程度の痛みの差より運動のほうが辛いわ、という人もいるかもしれませんね。

運動療法群においては体重がやや減少しているので、その恩恵もありそうな気もします(肥満はAIによる関節痛のリスクファクター)。

ざっくりとまとめると、
運動が苦じゃない方は、関節痛の改善が期待できるかもしれないので有酸素運動などしてみてはいかがでしょう?という感じでしょうか。