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pharmacist's record

日々の業務の向上のため、薬や病気について学んだことを記録します。細心の注意を払っていますが、古い情報が混ざっていたり、記載内容に誤りがある、論文の批判的吟味が不十分であるといった至らない点があるかもしれません。提供する情報に関しましては、一切の責任を負うことができませんので、予めご了承ください。

メマンチンと不穏/攻撃性

メマンチンは中等度及び高度アルツハイマー認知症に適応を持つ薬ですが、添付文書の副作用の項目に、
精神症状(激越:0.2%、攻撃性:0.1%、妄想:0.1%、幻覚、錯乱、せん妄:頻度不明)があらわれることがあるので、異常が認められたら 投与を中止するなどの適切な処置を。と記載されています。

その一方で、認知症疾患治療ガイドライン2010では、
「メマンチンは情動不安定で攻撃的な行動に対して有効かもしれない」と記載(引用元
Pharmacologic management of neuropsychiatric symptoms of Alzheimer disease. - PubMed - NCBI Can J Psychiatry. 2007 Oct;52(10):630-46.)

ガイドライン上は、有効かもしれないと控えめな表現ですが、一般的にメマンチンは鎮静効果があると認識されていると思います。
添付文書の記載内容は違和感がありますね。

BPSDに対する有効性を検討した文献を探してみます。


Memantine for agitation/aggression and psychosis in moderately severe to severe Alzheimer's disease: a pooled analysis of 3 studies. - PubMed - NCBI
J Clin Psychiatry. 2008 Mar;69(3):341-8.
3つの大規模RCT(6か月)を分析。中等度~重度のAD(P)に対して、メマンチン(E)を投与したらプラセボ(C)と比べて、 agitation(不穏・興奮)/aggression(攻撃性)(O)はどうか?という分析の結果、

メマンチンvsプラセボ(at week 12) メマンチンvsプラセボ(at week 24/28)
agitation/aggression 55.3% vs. 43.1% 61.0% vs. 45.0%

不穏や攻撃性に多少効果がありそうですね。ただ、なにを基準に3つのRCTをとりあげたのかがわからなくて、もしかしたら有効性を示さなかったRCTもあるかもと思ってしまいました。


こちらはBPSDがアウトカム。
Efficacy of memantine on behavioral and psychological symptoms related to dementia: a systematic meta-analysis. - PubMed - NCBI
Ann Pharmacother. 2008 Jan;42(1):32-8. Epub 2007 Dec 4.
研究デザイン:Placebo-controlled, double-blind RCTのメタアナリシス (クロスオーバー試験、オープンラベルは除外)
P:BPSDのある認知症患者(probable Alzheimer's Disease)
E:メマンチン(すべてのRCTにおいて、投与量は20mg/日) (コリンエステラーゼ阻害薬との併用も含まれている。)
C:プラセボ
O:BPSD(NPIスコアで評価)
試験期間:1か月以上を選定基準とし、選定されたRCTの期間は24~28週

元論文バイアスは、Jadad scaleで評価
Two reviewers independently~の記載あり。意見の相違があればthird reviewerに相談。

<結果>
6RCTが選ばれ、試験前後のNPIスコアを評価した5RCTを分析。(n=1,750 participants)
6RCT中、3つはJadad score5点、残りの3つは2点。
プラセボ対照試験が4つ、並行群間試験が2つ。

メマンチンvsプラセボ:NPI scores (MD -1.99, 95% Cl -0.08 to -3.91 I2=55.93%)


初期のデータからはメマンチンはNPIスコアを減少させ、BPSDに効果があるよう示唆されていたが、現在のデータ(2008年時点)では、臨床的に有意なベネフィットがあるかどうかは不明という結論です。
NPIは10項目で120点満点。どの項目で差があったのか知りたいところではありますがBPSDに劇的に効くということはなさそうです。
とはいえ、悪化させるというわけではないので、添付文書の記載内容を見ると混乱してしまいます。

添付文書には副作用項目がありますが、これは厳密には臨床試験で報告のあった有害事象が記載されているだけであり、薬と関係ないであろう症状も記載されていると自分は認識しています(違ってたらご指摘くださいm(_)m。)
報告された有害事象が薬によるものなのか判断は難しいかもしれませんが、せめて、プラセボ投与群でおこった有害事象も記載してもらえれば良い判断材料になると思うのですが…(プラセボで報告ゼロなのに、実薬で報告が多ければ、“副作用”として注意すべき症状といえると思います)。

では、有害事象も詳しく記載されているメマンチンのプラセボ対照試験がないか探してみましょう。

こちらもADにおけるagitationに対する有効性を検討したDB-RCTですが、さきほど取り上げた論文から4~5年後に発表されたものです。
Efficacy of memantine for agitation in Alzheimer's dementia: a randomised double-blind placebo controlled trial. - PubMed - NCBI
PLoS One. 2012;7(5):e35185.
背景:ADにおけるagitation(不穏/興奮)はコモンな症状であり、患者のQOLの低下や介護者の苦痛(distress)と関連。もっともエビデンスのある薬物治療は抗精神病薬だが死亡率増加などの関連もありベネフィットは限られている。

研究デザイン:DB-RCT
P:介護施設(care-homes)や急性期の精神科病棟(acute psychiatric wards)の不穏症状(agitation)を伴うAD患者
E:メマンチン10mgを1日2回(5mgを2回から開始)
C:プラセボ
O:6週目のCMAIスコア変化(セカンダリ;12週目のCMAI、6,12週目のNPIなど)
試験期間:12週
資金提供:ルンドベック(Lundbeck メマンチン製剤Ebixa®を販売)

<選定基準>
SMMSE score 19以下のAD
2週間以上のagitation(CMAI score 45以上)

※SMMSE(Standardized Mini-Mental State Examination)
MMSEの改良版で30点満点、26点以上で正常、点数が低いほど重度
(Standardized Mini-Mental State Examination. Use and interpretation. - PubMed - NCBI Can Fam Physician. 2001 Oct;47:2018-23)

※CMAI(Cohen-Mansfield Agitation Inventory)
2週間以内の29項目の不穏症状を介護者が7点スケールで評価
(http://www.dementia-assessment.com.au/symptoms/cmai_manual.pdf 2ページ目参照)
何点満点なのかよくわからず…。
参考までに、このメマンチンのDB-RCTの"Randomisation and Masking"の項目に、agitationの重症度を(CMAI score <50, 51–55, 56–60, 61–65, 66–70, 71–75 and >75)で分けたといったような記載あり。


<除外基準>
4週以内のメマンチン使用
3ヶ月間未満のコリンエステラーゼ阻害薬の使用(use of a cholinesterase inhibitor for <3 months)
[抗精神病薬抗うつ薬、BZD、眠剤(hypnotic)、リチウム]の2週間以内の用量変更
パーキンソン病薬の使用
NMDAアンタゴニスト(アマンタジン、ケタミン、デキストロメトルファンなど)の同時使用
など

<ベースライン特性>
平均年齢:85歳
人種:ほとんど白人
平均MMSE:7.3
平均NPI:36~37
平均CMAI:68.3
コリンエステラーゼ阻害薬使用率:約20%
抗精神病薬:約40%
抗うつ薬:約60%
BZD:36~57%


<結果>
153名をランダム化、149名が治療開始
(3日間以上連続服薬拒否にて投薬中断/MethodsのMedicationより)

メマンチン74名中49名が試験完遂、63名解析
プラセボ79名中58名が試験完遂、72名解析
(脱落がやや多い印象)

6週目、12週目の各スコア

メマンチン プラセボ mean effect6週目 mean effect12週目
CMAI 68.3→52.5→53.5 68.3→55.6→57.3 -3.0(-8.3 to 2.2) -3.8(-9.1 to 1.5)
SMMSE 7.3→7.9→8.2 7.3→6.9→6.8 0.98(-0.04 to 2.0) 1.4(0.4 to 2.4)
NPI 37.1→19.8→18.4 36.1→26.4→27.8 −6.9(−12.2 to −1.6) −9.6(−15.0 to −4.3)


有害事象

メマンチン プラセボ
頭痛Headache 8(5.9) 6(4.7)
疲労Fatigue 21(15.6) 20(15.6)
傾眠Somnolence 37(27.4) 24(18.8)
錯乱Confusion 23(17.0) 25(19.5)
幻覚Hallucinations 8(5.9) 18(14.1)
便秘Constipation 7(5.2) 11(8.6)
嘔吐Vomiting 5(3.7) 6(4.7)
めまいDizziness 6(4.4) 1(0.8)
歩行異常Abnormal gait 15(11.1) 10(7.8)
けいれんSeizures 0 0
死亡Death 5(3.7) 7(5.5)


<感想>
メマンチンの関連が疑われる有害事象は、眠気、めまい、歩行異常といったところでしょうか。
agitation/aggressionの記載はないですが、幻覚はプラセボより少なく、錯乱もやや少ないという結果で、やはりどちらかといえばメマンチンは鎮静側に働く薬といった印象です。

それにしても有効性がプラセボと比較してイマイチな結果ですね。重度のAD患者に投与する意義は薄いかもしれないと思いました。これであの値段はちょっと…という感じです。


ちょっと発表年が遡りますが、もう1つレビュー文献を。
Update on the use of memantine in Alzheimer’s disease
Neuropsychiatr Dis Treat. 2009; 5: 237–247.
有害事象についての記載は以下のとおり。
The most frequently occurring adverse events with a higher incidence in the memantine group than in the placebo group were dizziness (6.3% vs 5.6%, respectively)
headache (5.2% vs 3.9%)
constipation (4.6% vs 2.6%)
somnolence (3.4% vs 2.2%)
hypertension (4.1% vs 2.8%)
ちょっと異なる結果ですね。こちらでは、頭痛や便秘が微増。血圧上昇の関連も示唆されているようです。
table2の「Adverse drug reactions」によると、Confusionがuncommon(≥1/1,000 to <1/100)として記載されています。


結局のところ、メマンチンが誘発するagitationやconfusionが絶対にないとは言えないので、もしメマンチン投与開始後(ほかに身体上の変化、環境変化など何も無い状況で)そのような症状が出た場合は、メマンチンが悪さをしているという可能性も考慮して、薬により誘発されたものかどうか総合的に判断しましょう、ということでしょうか。
副作用かどうかの判断は難しいですね。
判断材料が添付文書だけではあきらかに情報不足ではないかと…。
臨床試験のデータ(プラセボでの発現率)も必要だと思います。


以下追記(H28.5.5)
SNSにて、「メマンチンはドパミン作用もあり不穏になるリスクもある」とご指摘頂きまして、メマンチン誘発性の不穏の報告がないか探してみたところ、1つ見つかりました。
Retrospective study on agitation provoked by memantine in dementia. - PubMed - NCBI
J Neuropsychiatry Clin Neurosci. 2015 Winter;27(1):e10-3.
メマンチンで治療した196名の患者のカルテをレトロスペクティブに調査。
治療により誘発したagitationが11名(5.6%)
agitationを引き起こさなかった患者群と比較して、中枢神経系に作用する他の薬剤で同様の副作用歴を有する可能性が有意に高かった。
とのこと。
メマンチン誘発の不穏の報告もあるんですね。勉強になりました。

ご指摘いただいた先生、ありがとうございました。