pharmacist's record

日々の業務の向上のため、薬や病気について学んだことを記録します。細心の注意を払っていますが、古い情報が混ざっていたり、記載内容に誤りがある、論文の批判的吟味が不十分であるといった至らない点があるかもしれません。提供する情報に関しましては、一切の責任を負うことができませんので、予めご了承ください。

RAS阻害薬でDKDの進行を遅らせる?/ 他の降圧剤との優位性は?

Early renin-angiotensin system intervention is more beneficial than late intervention in delaying end-stage renal disease in patients with type 2 d... - PubMed - NCBI
Diabetes Obes Metab. 2016 Jan;18(1):64-71.
目的:糖尿病性腎疾患(DKD;diabetic kidney disease)の早期発症から末期腎疾患(ESRD;end-stage renal disease)への進行のシミュレートモデルを開発/検証。DKDのステージごとのRAS(renin-angiotensin system)系の介入の効果を評価
研究デザイン:4つのRCT(BENEDICT,IRMA-2,RENAAL,IDNT)の統合解析
P:T2DM(アルブミン尿とeGFRと基にDKDのステージを分類)
E:RAS阻害薬
C:プラセボ
O:ESRD(defined as the need for renal replacement therapy (dialysis透析 or transplantation腎移植)

DKDステージ分類

early eGFR>60 ml/min/1.73 m2 かつ albumin:creatinine ratio(ACR)<30 mg/g
intermediate eGFR 30-60 ml/min/1.73 m2 もしくは ACR30-300 mg/g
advanced eGFR <30 ml/min/1.73 m2 もしくは ACR>300 mg/g

 
※参考(CKDガイドライン2012)
CKDの基準:タンパク尿0.15g/g・Cr以上(尿中アルブミン30mg/g・Cr以上)、eGFR60 ml/min/1.73 m2未満

尿アルブミン/Cr比(ACR)

正常 30未満
微量アルブミン尿 30~299
顕性アルブミン尿 300以上

  
GFR区分

G1 90以上
G2 60-89
G3a(軽度~中等度) 45-59
G3b(中等度~高度) 30-44
G4(高度) 15-29
G5(末期腎不全ESKD) 15未満

  

<結果>
ESRDへの進行までの期間中央値

プラセボ群(平均年齢60歳) RAS介入による発症延長 RAS介入による発症延長(若年群 平均45歳)
early 21.4年 4.2年 5.9年
intermediate 10.8年 3.6年 4.0年
advanced 4.7年 1.4年 1.1年

   

<感想>
きちんと血圧コントロールすることがESRDへの進行を遅らせるのか、それともRAS阻害薬がとくに優れているのか、この結果だけでははっきりしないのでは?という気もしますが、腎保護についてはRAS阻害薬は不動のポジションになっているようです。

今年、DKDの降圧第一選択は必ずしもRASでなくても良いのでは?と思わせるメタアナリシスが発表されています。
Diabetes mellitus as a compelling indication for use of renin angiotensin system blockers: systematic review and meta-analysis of randomized trials. - PubMed - NCBI
BMJ. 2016 Feb 11;352:i438
糖尿病患者(P)に対するRAS阻害薬(E)vs他の降圧剤(C)で、death, cardiovascular death, myocardial infarction, angina, stroke, heart failure, revascularization, and end stage renal diseaseなどのアウトカム(O)を比較していますが、ESRDはまさかのrelative risk0.99(95%CI 0.78-1.28)です。他のアウトカムもほとんど差がありません。
軽く目を通すと、DM患者への降圧療法(RAS阻害薬vs他の降圧剤)のサンプルサイズ100名以上、期間1年以上のRCTを選定基準とし、RAS阻害薬の有効性が確立している心不全患者は除外プラセボとの比較試験も除外。バイアスリスクについては、コクランのツールで検討。"Three authors independently assessed"の記載あり。言語制限なし。

こっちのメタアナリシスを大きく取り上げれば良かったと後悔するほどの内容ですね、これは。ちょっとびっくり。
国内のガイドラインも今後変わっていくのでしょうか…。


最後にESRD延長についての統合解析の元文献のPECOをまとめました。
<解析対象の各RCTの介入内容>
BENEDICT(Preventing microalbuminuria in type 2 diabetes. - PubMed - NCBI N Engl J Med. 2004 Nov 4;351(19):1941-51)
P:高血圧、T2DM(DMの既往歴は25年以下)、微量アルブミン尿無し(normal urinary albumin excretion)、40歳以上
E:①トランドラプリル2mg/日+徐放性ベラパミル180mg/日 ②トランドラプリル2mg/日 ③徐放性ベラパミル240mg/日
C:プラセボ
O:development of persistent microalbuminuria(微量アルブミン尿)

IRMA-2(The effect of irbesartan on the development of diabetic nephropathy in patients with type 2 diabetes. - PubMed - NCBI N Engl J Med. 2001 Sep 20;345(12):870-8.)
P:高血圧、T2DM、微量アルブミン尿(albumin excretion rate 20-200μg/min)、30~70歳 
E:イルベサルタン150mg/日or300mg/日
C:プラセボ
O:糖尿病性腎症(diabetic nephropathy)→定義はalbumin excretion rate 200μg/min以上orベースラインより30%以上の増加

RENAAL(Effects of losartan on renal and cardiovascular outcomes in patients with type 2 diabetes and nephropathy. - PubMed - NCBI N Engl J Med. 2001 Sep 20;345(12):861-9.)
P:T2DM、糖尿病性腎症(定義:尿中アルブミン/尿中クレアチニン≧300mg/g、sCr1.3~3.0mg/dL)、31~70歳
E:ロサルタン50-100mg
C:プラセボ
O:(sCr倍増、ESRD、死亡)の複合アウトカム。ESRDの定義は長期透析や腎移植の必要性

IDNT(Renoprotective effect of the angiotensin-receptor antagonist irbesartan in patients with nephropathy due to type 2 diabetes. - PubMed - NCBI N Engl J Med. 2001 Sep 20;345(12):851-60)
P:高血圧、T2DM、タンパク尿あり、Scr(男1.2-3.0mg/dL,女1.0-3.0mg/dL)、30~70歳
E:①イルベサルタン300mg/日 ②アムロジピン10mg/日
C:プラセボ
O:(sCr倍増、ESRD、死亡)の複合アウトカム。ESRDの定義は透析開始、腎移植、sCr6.0mg以上のいずれか。

この2001年あたりから尿タンパク抑制効果にてRAS無双時代が続いているのでしょうか?
BENEDICTもIRMA2も代用のアウトカム。RENAAL、IDNTは死亡やESRDも含まれてますが、sCr倍増という代用のアウトカムを含む複合エンドポイントです。しかもIDNTはESRDの定義の中にCr値に関する項目が入っています。

BMJのビックリなメタアナリシスを見たあとということもあり、IDNTが気になりますね。
介入群にARBとCCBが入っていますッ!ARBの優位性はどうだったのでしょうか!?

さて批判的吟味能力レベル1(初級)の自分の目でチェックしてみたいと思います。
IDNTのPECOは上記に述べたとおり。
・ACEi/ARB、CCB以外の降圧剤は必要に応じて使用可
・目標血圧 SBP135mmHg以下(スクリーニング時のSBP145mmHg以上の場合は、10mmHg以上の低下)/DBP85mmHg以下
・ITT解析(lost to follow upはイルベサルタン5例/579例、アムロジピン2例/567例、プラセボ4例/569例)
・平均年齢59歳、BMI30、
・イルベサルタン群とアムロジピン群の血圧の推移はほぼ同等(Fig1)
<結果>

イルベサルタン アムロジピン プラセボ
プライマリ複合アウトカム 32.6% 41.1% 39.0%
sCr倍増 16.9% 25.4% 23.7%
ESRD 14.2% 18.3% 17.8%
全死亡 15.0% 14.6% 16.3%

繰り返しますが、この試験ではESRDの定義としてsCR6.0mg/dL以上という項目が入っています
透析や腎移植を遅らせたのだとすれば、やっぱアムロジピンよりイルベサルタンだな!と思いますが、クレアチニン値の差だけで、ESRDにも有意差がついてしまったのだとすると、ちょっともやもやしてきますね。
全死亡も差がついてません。
sCr6以上という項目を除外して、透析と腎移植だけで差があったのか検討してみて欲しいなと思いました。
もちろんクレアチニン値なんて代用のアウトカムだからどうでもいいなどと言うつもりはなく、重要な指標だと思いますが、この差だけで評価してしまうとARBを過大評価してしまう可能性もあるかもしれません。

やはり、複合エンドポイントの評価は非常にもやもやするので、やはりプライマリはバシッと1つにしてガチンコ対決して欲しいですね。

なんかRAS阻害薬を否定する流れになっちゃってますが、別に駄目だとは思ってません。自分が患者だったらACEiあたり処方して欲しいかな?と思いますし。
ただ、「糖尿病には、RAS阻害薬が他剤より優れてるぜ!」というのはちょっと雲行きが怪しくなってきたなという印象です。CKDガイドラインは今後どうなるのか(現状はDM患者にはRASが第一選択)、などなど、この問題に関しては、今後の動向に目が離せませんね。