検査をせずに肺炎を予測できる? - pharmacist's record
以前、Diehrの肺炎予測ツール、バイタルサインによる予測などをご紹介しましたが、↓こちらも簡便でいい感じです。バイタルサインによる予測の変形版といった感じです。
A simple screening tool for identification of community-acquired pneumonia in an inner city emergency department. - PubMed - NCBI
Emerg Med J. 2007 May;24(5):336-8.
対象:呼吸器症状(咳・胸痛・息切れのいずれか)をきたした救急外来受診の患者
疾患:市中肺炎(CAP;community-acquired pneumonia)
都心の病院の救急外来の3ヶ月間のデータを解析(CAPの診断は胸部X線による)
<結果>
呼吸器症状をきたして救急外来を受診した1948名のうち、198名がCAPと診断。平均年齢48歳。
呼吸器症状
咳 | 74% |
息切れ | 70% |
胸痛 | 33% |
バイタルサインの異常
HR>100bpm | 62% |
体温>38度 | 46% |
SpO2<95% | 44% |
RR>20bpm | 42% |
上記いずれか(=感度) | 90%(CAP198名中179名) |
RR;respiration rate
咳、息切れ、胸痛のいずれかの呼吸器症状をきたした救急外来患者における、
バイタルサインの異常の感度・特異度・LR(95%CI)は、
感度sensitivity | 特異度specificity | LR+ | LR- | |
---|---|---|---|---|
HR>100bpm、体温>38度、SpO2<95%、RR>20bpm | 90%(85-94) | 76%(74-78) | 3.72(3.39-4.09) | 0.13(0.08-0.19) |
バイタルサインだけで完全に除外することはできませんが、上記のようなバイタルサインの異常がなければ肺炎の確率はかなり下がるようです。
ただし、セッティングが救急外来で平均年齢48歳という点には注意が必要です。
このセッティングとかけはなれた患者、たとえば高齢の在宅患者さんではあてはまらない可能性が高くなると思います。
ご高齢だと発熱しにくいといった話も聞いたことがありますが、高齢者の肺炎の臨床像は、若年者と比較してどのような違いがあるのでしょうか
Community-acquired pneumonia in older patients: does age influence systemic cytokine levels in community-acquired pneumonia? - PubMed - NCBI
Respirology. 2009 Mar;14(2):210-6
アブストラクトしか閲覧できませんが、65歳以上だと胸痛の訴えが少なく、altered mental status(精神状態の変化、意識変容)の発生率が高いとの記載あり。
Clinical features of pneumonia in the elderly. - PubMed - NCBI
Semin Respir Infect. 1990 Dec;5(4):269-75.
若年成人では一般的な発熱、悪寒、痰などの症状は高齢者ではみられないことがあり、意識障害が唯一の症状ということもある。高齢者では頻呼吸は高頻度だが、診断に有用なほど高感度ではない。
意識障害が唯一の症状のこともあると…。発熱や典型的な呼吸器症状がみられなくても肺炎ではないとは言い切れないということですね。ただ呼吸が速くなるという徴候は高齢者でも見られやすい症状のようです。
有用な肺炎スクリーニングツールがありますが、これらは若年成人のデータを元につくられているようです。高齢者がメインではありません。
訪問薬剤管理指導において、高齢在宅患者さんと接する場合、深く考えずに簡便なスクリーニングツールをつかって臨床判断をしようとすると的外れなことになってしまうかもしれません。○○スコアなどといったスクリーニングツールは簡便でわかりやすいのですが、患者背景の違いなども見極めた上で活用する必要があると思います。