pharmacist's record

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SGLT2阻害薬と心血管イベント

SGLT2阻害薬は発売当初は副作用がニュースになったりしてイメージがあまりよくなかったように思いますが、昨年のEMPA-REG(エンパグリフロジン(ジャディアンス)の大規模臨床試験EMPA-REG - pharmacist's record)による影響か、欧米では高評価のようですね。
国内では相変わらずDPP4iの一人勝ちですが、プライマリケアのDrもSGLT2iを処方するようになってきて糖尿病治療薬の処方傾向が変わってきているのかな?と思う今日この頃。

SGLT2iについておさらい
Sodium-glucose cotransporter 2 inhibitors for type 2 diabetes: a systematic review and meta-analysis. - PubMed - NCBI
Ann Intern Med. 2013 Aug 20;159(4):262-74.
T2DMを対象としたRCTのメタアナリシスにおいて、

SGLT2i vs プラセボ(45 studies/n=11,232)
HbA1c -0.66%(95%CI -0.73 to -0.58%)

SGLT2i vs 他の治療薬(13 studies/n=5,175)
HbA1c -0.06%(-0.18% to 0.05%)
body weight -1.80kg(-3.50 to -0.11 kg)
SBP収縮期血圧 -4.45mmHg(-5.73 to -3.18 mmHg)
尿路感染症Urinary tract infections OR1.42(1.06 to 1.90)
生殖器感染症genital tract infections OR5.06(3.44 to 7.45)
低血糖リスク similar

LIMITATION:ほとんどの試験がバイアスリスクが高い
結論:SGLT2iの長期的な成果と安全性への影響は不明。


こちらはBMJに掲載されたネットワークメタアナリシス
SGLT-2 receptor inhibitors for treating patients with type 2 diabetes mellitus: a systematic review and network meta-analysis. - PubMed - NCBI
BMJ Open. 2016 Feb 24;6(2):e009417
SGLT2i単独のRCTと、メトホルミンとSGLT2iを併用したRCTのメタアナリシス
試験期間は最低24週
Risk of biasを見ると質の高いRCTを選定した模様。
table1~3に各RCTの概要が載っています。
研究によって対象としたBMIは異なり、25前後のもあればBMI30越えの肥満患者を対象としたRCTもあるようです。

結果の一部を抜粋すると、
単独群ではカナグリフロジン300mgがもっともHbA1c低下、体重減少については各薬剤で大差無し、SBP減少はカナグリフロジン300mgで6mmHg低下、エンパグリフロジン10mgで2.6mmHg低下。
ネットワークメタなので妥当性は良くわかりません。あまりきちんと読んでないので、詳細は原著のフルテキストをご確認ください。


ここまで代用のアウトカムを評価したものばかりでしたが、ランセットから心血管イベントを評価したメタアナリシスが出てました(残念ながらフルテキストは読めず)
Effects of sodium-glucose cotransporter-2 inhibitors on cardiovascular events, death, and major safety outcomes in adults with type 2 diabetes: a s... - PubMed - NCBI
Lancet Diabetes Endocrinol. 2016 Mar 18. pii: S2213-8587(16)00052-8.
背景:SGLT2iはT2DM患者の血糖値、血圧、体重を減少させるが、LDL、泌尿生殖器感染症urogenital infectionsを増加させる。心血管イベントに対する有効性の方向がある一方で、DKAや骨折のリスクの可能性もある。
研究デザイン:T2DMを対照としたSGLT2iと他の治療薬を比較したRCTのメタアナリシス
プライマリアウトカム:MACE(major adverse cardiovascular events)
7日間以内の試験は除外

<結果>
6つのregulatory submissions(承認申請)(n=37,525)と57のpublished trials(n=33,385)のデータを解析。
7つのSGLT2iのデータが提供された。

relative risk(95%CI)
MACE 0.84(0.75-0.95)
心血管死cardiovascular death 0.63(0.51-0.77)
心不全heart failure 0.65(0.50-0.85)
全死亡 0.71(0.61-0.83)
非致死的心筋梗塞non-fatal myocardial infarction 0.88(0.72-1.07)
狭心症angina 0.95(0.73-1.23)
非致死的脳卒中non-fatal stroke 1.30(1.00-1.68)
生殖器感染症genital infections 承認申請regulatory submissions RR4.75(4.00-5.63),scientific reports RR2.88(2.48-3.34)

心血管アウトカムや死亡についての異質性 I2<43%

心血管イベントのハイリスクT2DM患者にとってSGLT2iは有益性が高いとの結論ですが、SGLT2iの効果の明らかな違いはないものの有効性の結果はEMPA-REGによるものであり、安全性については定量化が困難。やはりSGLT2iの真価が確定的となるには、エンパグリフロジン以外のSGLT2iの大規模臨床試験の結果待ちというところでしょうか。

EMPA-REGの影響で、少しずつ使用が増えてきているようですが、間違った使い方をして副作用など起こさないよう適正使用に努めたいものです。
「SGLT2阻害薬の適正使用に関する委員会」から:日本糖尿病学会 The Japan Diabetes Society
「SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation2014.8→2016.5.12改訂 追記あり」より、
・SGLT2iとインスリン製剤の有効性と安全性は治験で検討されていないので特に低血糖に注意。あらかじめインスリンを相当量減量
・SU剤との併用の場合は、減量(グリメピリド2mgを超えての使用例→2mg以下に減じる、グリベンクラミド1.25mgを超えての使用例→1.25mg以下に減じる、グリクラジド40mgを超えての使用例→40mg以下に減じる)
・高齢者は慎重投与とし、発売から3ヶ月間に65歳以上の患者に投与する場合には、全例登録→【2016年5月12日改定 75歳以上の高齢者あるいは65歳から74歳で老年症候群(サルコペニア、認知機能低下、ADL低下など)のある場合には慎重投与】
・脱水防止の指導、利尿薬との併用は推奨されない→【2016年5月12日改定 脱水防止の指導。利尿薬の併用の場合には特に脱水に注意する】
・シックデイ時は休薬
・脱水は脳梗塞リスクとなる(ヘマトクリット著明な上昇の例あり)
・薬疹(概ね2週間以内)、尿路性器感染症に注意
・糖尿病薬の併用は、SGLTの他に、2剤程度までの併用が推奨される→【2016年5月12日改定 この文面は削除となる】
DKAの報告があるため、インスリン分泌能低下例ではとくに注意が必要。極端な糖質制限や清涼飲料水多飲が原因となることあり(脱水防止の水分摂取で清涼飲料水の取りすぎは不適)

要注意だなと思ったのが、脱水防止のための飲料として清涼飲料水のとりすぎはDKAの懸念があるというところかなと思いました。
アドヒアランスが悪い患者さんにはちょっと使いにくい薬剤かも。プライマリケアのDrが使用を躊躇する理由は注意事項が多いことなんじゃないかなとも思います。
RCTでは患者さんへの指導が徹底されているようなイメージがあるのですが、リアルワールドでは使用上の注意を守ってくれないような患者さんもいると思うのでその点は考慮する必要があるかもしれませんね。


ちょっとだけ補足(H28.4.7)
SGLT2iは最初にとりあげたメタアナリシスのとおり体重減少も期待できる薬ではあるのですが、処方開始から短期間ですみやかに体重が○○kgも減少した!という場合、それは単に脱水をきたしているだけという可能性もあるので注意が必要。そんな急激に体重が減るわけないですもんね。SGLT2i開始からの体重変化をチェックして、急激な減量がみられた場合は脱水の可能性があり、脱水対策の指導が必要かもしれません。