pharmacist's record

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クロザピン/オランザピンの副作用対策

クロザピンの適応は治療抵抗性統合失調症、投与開始18週は入院管理下で投与となっており、今まで一度もお目にかかったことがないのですが、副作用対策の論文が発表されたようです。

Double-Blind, Randomized, Placebo-Controlled Trial of Metoclopramide for Hypersalivation Associated With Clozapine. - PubMed - NCBI
J Clin Psychopharmacol. 2016 Mar 30.

背景:唾液分泌(流涎)過多Hypersalivationはクロザピンのコンプライアンス不良に繋がる頻度の高い不快な有害事象である。
目的:クロザピンによる流涎過多(HAC;hypersalivation associated with clozapine)のマネージメントとして、D2アンタゴニストの制吐薬メトクロプラミドの有効性を検討
研究デザイン:二重盲検ランダム化比較試験
P:唾液分泌過多を経験したクロザピン服用入院患者58名
E:メトクロプラミド10mg/日、効果がなければ30mg/日まで増量可(週当たり10mg増量)
C:プラセボ(1日3カプセルまで増量)
O:Nocturnal Hypersalivation Rating Scale and the Drooling Severity Scaleで評価したベースラインから試験終了時までの流涎の重症度
(セカンダリはClinical Global Impression-Improvement scale scores)
試験期間:3週間

<結果>
投与2週目で、プライマリアウトカムが有意に改善(P<0.004)
3週目で、the Drooling Severity Scaleで評価(P<0.02)
CGI-Iにおける大幅な改善(major improvement)は、
メトクロプラミド:20名(66.7%)
プラセボ:8名(28.6%)
(P = 0.031)

有害事象の報告は無し



もう1つ。こちらはオランザピンの副作用対策の文献
本命のメニエールに対する有効性が揺らいでいるベタヒスチンの登場です。
A Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled Pilot Study of Betahistine to Counteract Olanzapine-Associated Weight Gain. - PubMed - NCBI
J Clin Psychopharmacol. 2016 Mar 30.
背景:統合失調症の患者は、肥満率が高く、一般集団と比べ肥満と関連する罹病率、死亡率が高いとされている。オランザピンのH1受容体のブロックが摂食行動に関与するとされ、H1受容体アゴニストが抗精神病薬による体重増加を防止するという仮説を立てた。

研究デザイン:二重盲検ランダム化比較試験
P:統合失調症/統合失調性感情障害のオランザピン服用患者36名
E:ベタヒスチン48mg/日
C:プラセボ
O:ベースラインからの体重変化、オランザピンの有効性
試験期間:16週間

<結果>
ベタヒスチンのほうが体重増加が1.95kg少なかった("the betahistine group had less weight gain (-1.95 kg)")
("compared with placebo group (5.6 + 5.5 kg vs 6.9 + 5.6 kg, respectively)"この表記をどう解釈するのかよくわかりません…)
有害事象 ベタヒスチン(87.5%) vs プラセボ(85.0%)


もう1つベタヒスチン
Betahistine decreases olanzapine-induced weight gain and somnolence in humans. - PubMed - NCBI
J Psychopharmacol. 2016 Mar;30(3):237-41
背景:オランザピンはドパミンセロトニンのアンタゴニストとして統合失調症に対して有効だが、H1アンタゴニストとして体重増加や鎮静をもたらす。ベタヒスチンは中枢性H1アゴニストであり、脳内のヒスタミンに対するオランザピンの作用を減弱させることができる。ベタヒスチン高用量の使用を検討した
研究デザイン:ランダム化比較試験(二重盲検の記載はないが、プラセボを用いているため、オープンラベルではないと思われる)
P:48名の健康な女性
E:ベタヒスチン144mg/日(2週目からオランザピン開始、漸増にて10mg/日)
C:プラセボ(2週目からオランザピン開始、漸増にて10mg/日)
O:明確な記載はないが、体重変化と鎮静を評価する目的の研究と思われる
試験期間:4週間

<結果>
体重増加:ベタヒスチン1.24kg増 vs プラセボ1.93kg増
日中眠気(daytime Epworth sleepiness scores):ベタヒスチン1.82単位 vs プラセボ3.57単位

<結論>
健康な女性において、ベタヒスチンによりオランザピン起因の体重増加と傾眠を緩和した。



<感想>
3つ目の文献は健康女性に行われた試験です。筆頭著者が同じなので、3つ目の試験を踏まえて2つ目のRCTが実施されたのかもしれません。紹介の順序が逆でしたかね…汗

まとめると
・クロザピンの流涎過多にメトクロプラミドが有効
・オランザピンの体重増加にベタヒスチンが有効

という小規模トライアルのご紹介でしたが、有効性と安全性の証明するにはもっと大規模なRCTが必要かと思います。

クロザピンはまったくの無知なのですが、流涎過多の頻度は添付文書上によると国内臨床試験で安全性解析対象の77例中36例(46.8%)とかなり高頻度です。流涎による脱落を防げるならメトクロプラミドは安価ですし有用かもしれませんね。ただ1つ気になったのがメトクロプラミドのRCTでは、クロザピンそのものの有効性に影響がなかったかどうかの記載がアブストラクトにはありません。ちょっと気になりました(ベタヒスチンのRCTではオランザピンの有効性も評価項目となっています)。

オランザピンの体重増加は有名ですね。ここでまさかのベタヒスチンの登場でびっくりしました。メニエールに対して微妙…という報告(メニエール病によるめまいにベタヒスチンは有効? - pharmacist's record)が出たばかりでしたので。
これはもう少し人数を増やして試験期間を延ばして、RCTやってほしいですね。体重増加が防げるのは良いことなのですが、試験期間16週ですからね。もっと長期で継続したら結局ベタヒスチンとプラセボでほとんど差がありませんでした、ではちょっと微妙かな?とも。こちらは長期での有効性を検討して欲しいなと思いました。

この流れで思い浮かぶのがベタヒスチンでダイエットできるのか!?という点です(個人的に気になる!)。
"betahistine weight"で文献検索してみました。
Acute effects of betahistine hydrochloride on food intake and appetite in obese women: a randomized, placebo-controlled trial. - PubMed - NCBI
Am J Clin Nutr. 2010 Dec;92(6):1290-7
79名の肥満女性(平均年齢42歳、平均BMI35)に対して行われたDB-RCT。
ベタヒスチン低~高用量で空腹感、満腹感、食欲(Hunger, satiety, and desire to eat)や食事摂取量に有意な差はなかったという結果。
"Acute effects"の検討ということで服用期間は1日間(run in periodとあわせて2日間)のようです。
これではなんともいえませんね。

Effect of histaminergic manipulation on weight in obese adults: a randomized placebo controlled trial. - PubMed - NCBI
Int J Obes (Lond). 2008 Oct;32(10):1559-65.
研究デザイン:多施設ランダム化プラセボ対照比較試験
P:健康な肥満成人281名
E:ベタヒスチン(アブストラクトに投与量などの明記なし、いくつかの用量設定で介入した模様)
C:プラセボ
O:ベースラインからの体重変化、肥満関連疾患
試験期間:12週

<結果>
ベタヒスチン各用量で有意な体重減少は認められず
有害事象は群間差は頭痛のみ(頭痛を除いて有害事象に差は無いと記載あり)
サブ解析[50歳未満、非ヒスパニック、女性]:ベタヒスチン48mg/日(n=23) -4.24kg vs プラセボ(n=25) -1.65kg


サブ解析は悪い言い方をすれば後出しジャンケンかなと思うので、なんともいえないですね。若い女性には効くかもしれませんがベタヒスチンで痩せられるといった疫学研究が出てない(自分の知る限りでは)ことからもあまり期待はできなそうです…。
抗精神病薬による体重増加に有効性を見出せるかどうか、今後の研究に期待しましょう。


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