整形領域で用いられるNSAIDsというとなんとなくジクロフェナクが強いイメージがありますが、実際のところどうなんでしょうか
よく用いられているセレコキシブとジクロフェナクを比較した文献を集めてみました。
Analgesic effectiveness of celecoxib and diclofenac in patients with osteoarthritis of the hip requiring joint replacement surgery: a 12-week, mult... - PubMed - NCBI
Clin Ther. 2008 Jan;30(1):70-83
研究デザイン:多施設二重盲検ランダム化ダブルダミー並行群間非劣性試験
P:間接置換手術を予定している股関節変形性関節症(OA;osteoarthritis)の患者(100mm VAS 40-90mm)
E:セレコキシブ200mg QD(quaque die,1日1回)
C:ジクロフェナク50mg TID(ter in die,1日3回),
O:ベースラインから6週間の歩行時の間接炎の痛みVAS(0-100mm)で測定
試験期間:12週
非劣性マージン:95%CIの上限がVAS10mm
<結果>
45歳以上の249名をランダム化
セレコキシブ126名中54名、ジクロフェナク123名中45名が有害事象や効果不足で治療中断
(セレコキシブ群1名は治療を受けず)
セレコキシブ71名、ジクロフェナク78名が試験完遂
歩行時の関節痛
セレコキシブ | ジクロエナク | 6週目のVASの平均差 | 12週目のVASの平均差 | |
---|---|---|---|---|
歩行時の関節痛(100mm VAS) | -20.0mm | -35mm | 14.4mm(95%CI 6.1 to 22.7) | 12.2mm(95%CI 2.2 to 22.1) |
有害事象の発生率 | 67/125(53.6%) | 66/123(53.7%) | - | - |
<結論>
セレコキシブ200mgQDはジクロフェナク50mgTIDに対する非劣性を示さなかった
という結論ですが、この研究の不思議なところはセレコキシブが1日2回投与ではないところ。なぜ1日1回なんでしょう…。国内の適応は1日2回なんですが…。
それにしても脱落が凄まじいですね。これはどう解釈したらよいのか…。脱落の原因の割合が各群においてどうだったのかが重要ではないかと思うのですが、アブストには記載がないですね。有害事象で脱落したのか、効き目が弱くて脱落したのか…。この違いは重要な気がします。
こちらは主に有害事象を評価した研究
A randomized, multicentre, double-blind, parallel-group study to assess the adverse event-related discontinuation rate with celecoxib and diclofena... - PubMed - NCBI
Scand J Rheumatol. 2009 Mar-Apr;38(2):133-43.
研究デザイン:多施設二重盲検ランダム化並行群間比較試験
P:60歳以上の膝関節/股関節OA患者 925名
E:セレコキシブ200mg once daily
C:ジクロフェナク50mg twice daily
O:PaGAA、PhGAA、PAAP-VAS、有害事象
試験期間:1年
<結果>
セレコキシブ | ジクロエナク | p value | |
---|---|---|---|
有害事象/検査値異常/死亡による脱落 | 27% | 31% | p=0.22 |
心血管系/腎臓の有害事象(cardiovascular/renal AEs) | 70/458 | 95/458 | p=0.039 |
肝臓の有害事象(hepatic AEs) | 10/458 | 39/458 | p<0.0001 |
こちらのほうが試験期間が長いです。長期服用となる場合も多いので、安全性を評価する上ではより長期の試験期間での検討が大事ですね。
COX2選択性のセレコキシブは心血管系の有害事象が懸念され、添付文書にも記載されましたが、ジクロフェナクとの比較ではとくにセレコキシブがリスクが高いというわけではなさそうです。
それにしてもなぜ心血管系の有害事象と腎臓の有害事象をまとめて表記したのでしょう。別々でデータを出して欲しかったですね。別々で出したらp値は0.05を上回ったとか?などと邪推してしまいます…。
どうもセレコキシブ推しな印象を受けてしまいました。
こちらはランセットより胃腸障害を比較した文献。ちょっとびっくりな結果
Celecoxib versus omeprazole and diclofenac in patients with osteoarthritis and rheumatoid arthritis (CONDOR): a randomised trial. - PubMed - NCBI
Lancet. 2010 Jul 17;376(9736):173-9
研究デザイン:多施設二重盲検ランダム化比較試験、ITT解析
P:OA/RA(rheumatoid arthritis)
E:セレコキシブ200mg twice a day
C:徐放性ジクロフェナク75mg twice a day + オメプラゾール20mg once a day
O:上部/下部消化管イベントの複合エンドポイント
試験期間:6ヶ月
資金提供:ファイザー
<患者選定基準>
ピロリ菌陰性
60歳以上
胃・十二指腸潰瘍の既往がある場合、18歳以上
<結果>
セレコキシブ(n=2238) | ジクロフェナク+オメプラゾール(n=2246) | ハザード比/p value | |
---|---|---|---|
上部/下部消化管イベント | 20名(0.9%) | 81名(3.8%) | HR4.3(95%CI 2.6-7.0) p<0.0001 |
胃腸有害事象による早期脱落 | 114名(6%) | 167名(8%) | p=0.0006 |
ジクロフェナクはPPIを併用しているのに、マジか!と。びっくりですよねぇ。
怪しいのはアウトカムの設定。
複合エンドポイントとなっています。
フルテキスト入手して読んでんでみると、table2にプライマリアウトカムの詳細が載っています。
セレコキシブ(n=2238) | ジクロフェナク+オメプラゾール(n=2246) | |
---|---|---|
胃十二指腸出血(Gastroduodenal haemorrhage) | 3名 | 3名 |
大腸出血(Large-bowel haemorrhage) | 1名 | 1名 |
胃十二指腸潰瘍やびらん(Gastroduodenal ulcer or erosions)による有意な貧血(Clinically significant anaemia) | 5名 | 20名 |
早期胃がん(Early gastric cancer)による有意な貧血 | 0名 | 1名 |
下部消化管出血(Lower GI bleeding)による有意な貧血 | 0名 | 1名 |
下部消化性潰瘍やびらん(Lower GI ulcer or erosions)による有意な貧血 | 0名 | 2名 |
小腸失血を含む潜在的な胃腸疾患由来と推定される有意な貧血(Clinically significant anaemia of presumed occult GI origin including possible small-bowel blood los) | 10名 | 53名 |
うーん。なんか怪しいですね。あきらかな消化管出血は両群ほぼ同等のようです。
ちょっとこれは解釈に要注意な感じですね。まあジクロフェナクはPPIを被せているわけで、それでもセレコキシブが有意に消化管出血が増えていないという点はすごいなと思います。
ただ、GIイベントに起因すると"推定される"貧血というアウトカムで大きな差がついていて非常にもやもやします。推定されるというのは誰がどのような基準で推定するのでしょうね。
インパクトの大きいアブストラクトほど冷静に判断、できればフルテキストを読んだほうが良さそうですね。複合エンドポイントの場合はその内訳もきちんとチェックする必要があると思いました。
他にもセレコキシブとジクロフェナクを比較した重要文献があるかと思いますがこのあたりで終了。
現在報告されているデータで判断すると、鎮痛効果はジクロフェナク推し、安全性はセレコキシブ推しという感じでしょうか。セレコキシブがPPIを併用したジクロフェナクと比べて胃腸障害が増加してないというのは評価に値するかなぁという感じ。心血管イベントについては他の文献も読まないと評価しづらいですね。
↓鎮痛効果については外用NSAIDsもジクロフェナクの有効性が高いようです。
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