pharmacist's record

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抗がん剤による口内炎に半夏瀉心湯は有効?

Double-blind, placebo-controlled, randomized phase II study of TJ-14 (hangeshashinto) for gastric cancer chemotherapy-induced oral mucositis. - PubMed - NCBI
Cancer Chemother Pharmacol. 2014 May;73(5):1047-54.

背景:PGE2レベルを減少させシクロオキシゲナーゼ活性に影響を与える半夏瀉心湯(TJ-14)は化学療法による口内炎(COM;chemotherapy-induced oral mucositis)を軽減する。TJ-14で胃がん患者のCOMを防止できるかどうか調べるためRCTを実施した

研究デザイン:二重盲検ランダム化比較試験
資金提供:サポートは非営利団体であるthe Epidemiological & Clinical Research Information Network(ECRIN)、著者のCOI無し

P:化学療法を受けている胃がん患者で、化学療法((S-1, paclitaxel, irinotecan, cisplatin, etc.)のスクリーニング中にCTCAEv4.0のグレード1以上の口内炎を発症した患者
E:半夏瀉心湯TJ-14 1日7.5g 分3(n=45)
C:プラセボ(n=46)
O:グレード2以上の口内炎の発生率、試験期間を通して口内炎がもっとも悪化していたときのグレード

服用方法:TJ-14 or プラセボを50mlの水に溶かして10秒間うがい(口腔をすすぐ)

除外基準:2週間以内の漢方の使用、薬剤アレルギーの既往、重度の便秘、妊婦、授乳婦など

口内炎(oral mucostis)のCTCAEグレード>

Grade 1 無症候性または軽度の症状;治療を要さない
Grade 2 中等度の痛み;経口摂取に支障はないが、食事の変更を要する
Grade 3 高度の痛み;経口摂取に支障あり
Grade 4 生命を脅かす;緊急処置を要する
Grade 5 死亡

<サンプルサイズ>
グレード2以上のCOMが、プラセボ35%、TJ-14で10%を想定し、各群42名で少なくとも80%の検出力と推定
脱落を考慮してサンプルサイズ90人必要

<患者特性>
男性:61~62%
平均年齢:68歳(36~89)
PS0:83~87%
PS1:9~11%
PS2:4~7%

※PS(Performance Status)
0:問題なく日常生活が制限なく活動できる
1:激しい活動は制限されるが、歩行可能、軽い家事や事務作業は可能
2:歩行可能で自分の身の回りのことはできる。作業はできない。日中の50%以上はベッド外で過ごす
3:限られた身の回りのことしかできない。日中の50%以上をベッドが椅子で過ごす
4:身の回りのことはまったくできない。完全にベッドか椅子で過ごす
http://ctep.cancer.gov/protocolDevelopment/electronic_applications/docs/ctcv20_4-30-992.pdf
上記30ページ


<結果>

TJ-14 プラセボ HR
≧grade2 COM 18名(40%) 19名(41.3%) -
duration of ≧grade2 COM - - HR0.97(0.41–2.29)
median duration of any grade of COM 9日間 17日間 HR0.598(95%CI 0.226–1.585)
Chemotherapy treatment failure 12名(26.7%) 10名(21.7%) -

 

<感想>
グレード1以上の口内炎発生期間は減少させる傾向であったと結論に記載されていますが、統計的に有意ではなく、プライマリエンドポイントについては有意差無しでほぼ同等という結果です。
セカンダリは口内炎の消失までの期間、有害事象の発生であり、結論でプッシュしているグレード1以上の口内炎の発生期間の減少傾向は一応セカンダリアウトカムと解釈して良いのでしょうか。

もっと大規模な試験が必要と結論されていますが、これは検出力不足なのでしょうか。一応、事前に見積もったサンプルサイズは確保されています。
グレード1を含んだ口内炎は減少傾向なので、もしかしたら多少は効果があるのかもしれませんが、その効果はきわめてマイルドなのかなぁといった印象です。

その他の文献としては、
A traditional Japanese medicine--Hangeshashinto (TJ-14)--alleviates chemoradiation-induced mucositis and improves rates of treatment completion. - PubMed - NCBI
Support Care Cancer. 2015 Jan;23(1):29-35
放射線療法(±化学療法)実施の頭頸部癌患者80名を対象としたレトロスペクティブなスタディでTJ-14と投与無しで比較、口内炎に有効という結論。
レトロスペクティブということもあり、RCTによる検討が必要と結論されています

Double-blind, placebo-controlled, randomized phase II study of TJ-14 (Hangeshashinto) for infusional fluorinated-pyrimidine-based colorectal cancer... - PubMed - NCBI
Cancer Chemother Pharmacol. 2015 Jul;76(1):97-103.
研究デザイン:二重盲検ランダム化比較試験
資金提供:サポートは非営利団体で、著者のCOI無し
P:化学療法(FOLFOX, FOLFIRI, or XELOXなど)実施の進行大腸がん患者で、スクリーニング中にWHOグレード1以上の口内炎を発症した患者
E:TJ-147.5g分3 50mlの水に溶かしてうがい (n=46)
C:プラセボ(n=47)
O:WHOグレード2以上の口内炎の発生率

WHO口腔内有害事象スケール
0:有害事象なし
1:ひりひりする、紅斑
2:紅斑、嚥下痛、潰瘍
3:潰瘍、広範囲なびらん、嚥下困難
4:経口摂取不可

<サンプルサイズ>
グレード2以上の口内炎発生、TJ-14で10%、プラセボ35%と想定。power80%、α0.10で各群42名必要
ターゲットサンプルサイズは90名

(その他詳細データは省略。フルテキストご参照ください)

<結果>

TJ-14 プラセボ relative risk(or p value)
incidence of WHO grade≧2 mucositis 48.8% 57.4% RR0.85(95%CI 0.57–1.26)
Duration of grade≧2 oral mucositis 5.5日 10.5日 p=0.018


というわけで、こちらも似たような結果になってます。プライマリは有意差無し(多少有意な傾向ではある)で、口内炎の発生期間が有意に減少。
抗がん剤による口内炎の評価ですがCTCAEグレードではなくWHOグレードを使用しています。
http://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1l09.pdf
WHOグレードについては上記12ページを参照しました。
抗がん剤による口内炎についてはこの重篤副作用疾患別対応マニュアル(H21.5)に対処法が記載されていますが、H21年ということもあってか半夏瀉心湯については記載されていません。

いくつか抜粋すると、
<自覚症状>
痛み・出血・しみる、口腔乾燥、赤くなる、腫れる、口が動かしにくい、飲み込みにくい、味がかわるなど

<発生頻度>
抗がん剤によりさまざまだが、概ね30~40%(頭頸部への放射線治療併用時ではほぼ100%)
抗がん剤投与後、数日~10日目ごろに発生しやすい

<リスク因子>
①歯磨きやうがいが不十分、歯周病、義歯不適合
②免疫低下(DM、高齢者、ステロイド使用など)
③栄養状態不良
放射線治療の併用
⑤喫煙

<予防法>
①含嗽(1日7~8回)
含嗽剤として
・アズレンスルホン酸ナトリウム水和物、重曹グリセリン、精製水に溶解)
・リドカイン塩酸塩、アズレンスルホン酸ナトリウム水和物、重曹(精製水に溶解)
・アロプリノール
スクラルファート
・アルギン酸ナトリウム
②口腔ケア
・歯磨き1日4回(歯磨き粉はメントールやアルコールを含まないもの)
・歯石除去
③口腔内の冷却(アイスボール)
④保湿
⑤禁煙


さて、半夏瀉心湯に戻りますが、重度の口内炎の発生率はかわらないかもしれないが、軽度の口内炎には有効かもしれないといったところでしょうか。口腔の保湿や口腔ケアなどの基本的な対策も行うことが大事だと思います。


その他にもいろいろ勉強になりそうな文献がありますので参考までに。
がん化学療法に使用される薬剤の口腔有害作用対策
歯科薬物療法 Vol. 32 (2013) No. 1 p. 33-35

化学放射線療法による口内炎に対する各種含嗽剤の応用
日本口腔腫瘍学会誌 Vol. 16 (2004) No. 2 P 49-55

https://www.jstage.jst.go.jp/article/kampomed/65/2/65_108/_article/-char/ja/
日本東洋医学雑誌 Vol. 65 (2014) No. 2 p. 108-114