pharmacist's record

日々の業務の向上のため、薬や病気について学んだことを記録します。細心の注意を払っていますが、古い情報が混ざっていたり、記載内容に誤りがある、論文の批判的吟味が不十分であるといった至らない点があるかもしれません。提供する情報に関しましては、一切の責任を負うことができませんので、予めご了承ください。

NEJM Clinical Decisions(高齢AF患者の最適な血圧は??)

http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMclde1513565
NEJM Clinical Decisions November 9, 2015

Blood-Pressure Control

NEJMに掲載されている血圧コントロールをどうするかという課題です。
SPRINTも発表されたことですし、興味が沸いて読んでみました。


高血圧の女性75歳(Ms.Weymouth)
最近のニュースで血圧はより低い方が良いかもしれない“lower might be better”という報告を聞いたと述べている

病歴:軽度の間欠性跛行(intermittent claudication)、白内障(cataract)、高血圧、心房細動(AF)、末梢動脈疾患
薬剤服用歴:メトプロロール100mg、アピキサバン5mg×2、クロルタリドン25mg、アスピリン81mg、アトルバスタチン10mg
薬剤アレルギーなし
6年前に転倒により左手首骨折
喫煙なし
アルコール;1週間に赤ワイン1~2杯
運動:夫と一緒に定期的なウォーキング
仕事:10年前までパン屋で働いていた
趣味:ガーデニング

体重71kg、身長163cm BMI:26.8
HR:70~72(不整)
BP:136/72mmHg
心雑音なし

TC174mg/dL
LDL87mg/dL
HDL65mg/dL
Cr0.9mg/dL
eGFR65ml/min

ABI(ankle–brachial index)足首上腕血圧比
左:0.85、右0.95

※ABI=足首の収縮期血圧/上腕の収縮期血圧
通常足首の血圧がやや高いが下肢の動脈硬化で足首の血圧低下。ABI0.9以下で下肢動脈硬化が疑われる


<Treatment Options>
血圧の管理をどうする??
①現行の降圧療法を維持
②さらにSBPを下げるため、降圧療法を変更


という問題なのですが、まさにSPRINT trialの組み入れ基準に合致しています。
SPRINT trial(SBP<120 vs SBP<140) - pharmacist's record
降圧剤2種で130~170mmHg(Weymouthさんは降圧剤2種でSBP136で合致)
CVDリスク因子1つ以上あり(Weymouthさんは年齢が75歳ということで合致)

ちなみにWeymouthさんのフラミンガムリスクスコアは5~8%くらいで、さほど高くありません。
DMや脳卒中の既往は無し。AFありで、CHADS2スコアは、高血圧と75歳以上で2点。NOACを服用しています。

136/72mmHgということですが、Drが測定した診察室血圧であれば、家庭血圧が知りたいです。もっと低値で推移しているかもしれません。

高齢者を多く組み入れたSPRINT試験では、SBP120未満を目指した降圧療法でMI、脳卒中心不全、心血管死などの複合アウトカムを減少させましたが、Weymouthさんに降圧剤を追加するかどうかは悩ましいところです。

1点気になるのが、NOACとアスピリンを服用している点です。

(Weymouthさんは脳卒中の既往はないですが)脳卒中TIAの既往のある患者に対するペリンドプリルの脳保護効果を検討したPROGRESS試験では、72%が抗血小板薬を、10%が経口抗凝固薬を服用。出血性脳卒中は、SBP9mmHg低下で50%減少、SBP12mmHg低下で76%減少。絶対リスクは年間0.6%(ベース)vs0.3%(SBP9mmHg低下)vs0.2%(SBP12mmHg低下)。抗血栓薬投与中の血圧の適度な低下は出血性脳卒中のリスクを低下させる[1]。

血栓療法中のachieved follow-up SBPと出血の関係について[2]
頭蓋内出血はSBPの上昇に伴いハザード比HRが上昇(HR3~6)。
(頭蓋外出血とSBPの間には明確な相関はない)。
血栓療法中の頭蓋内出血のリスクが最も低いフォローアップSBPの中央値は113mmHg。

血栓療法における大出血と血圧の関係をみたコホート研究によると、

頭蓋内出血HR(95%CI)
SBP10mmHg増加(1~6ヵ月) 1.45(1.08–1.92)
SBP10mmHg増加(7~12ヵ月) 1.47(1.05–2.01)
DBP10mmHg増加(1~6ヵ月) 1.28(0.78–2.13)
DBP10mmHg増加(7~12ヵ月) 1.28(0.78–2.13)

カットオフ値は130/81mmHg
血栓薬による出血性脳卒中回避のため血圧コントロールが重要[3]

日本のガイドラインにおいてはエビデンスは十分ではないとしながらも、抗血栓薬服用中は頭蓋内出血の予防のために腎臓や脳の虚血に注意しながら、130/80mmHgを目途に降圧することが望ましいとしている[4]

[1]Stroke. 2005 Jul;36(7):1588-93. Epub 2005 Jun 9.
[2]Stroke. 2012 Jun;43(6):1675-7 (Fig2)
[3]Stroke. 2010 Jul;41(7):1440-4. Epub 2010 May 20.(BAT Study)
[4]JSH2014

頭蓋内出血のことだけを重要視すると、もう少し血圧を下げてもいいかもしれないという印象ですが、もっと総合的に考えなくてはいけません。

AFと血圧の関連はどうでしょう
AFのリスクファクターは加齢、高血圧、肥満、飲酒、心疾患など
Symptoms and causes - Atrial fibrillation - Mayo Clinic
(Mayo Clinicのサイトより)

45歳以上の女性(平均年齢55歳)における血圧とAFの関係をみたコホート研究[5]の結果は以下のとおり

SBP(baseline) 120mmHg 120–129mmHg 130–139mmHg 140–159mmHg ≥160mmHg -
AFリスク(HR) Referent 1.00(0.78–1.28) 1.28(1.00–1.63) 1.56(1.22–2.01) 2.74(1.77–4.22) -
DBP(baseline) <65mmHg 65–74mmHg 75–84mmHg 85–89mmHg 90–94mmHg ≥95mmHg
AFリスク(HR) Referent 1.17(0.81–1.69) 1.18(0.84–1.65) 1.53(1.05–2.23) 1.35(0.82–2.22) 2.15(1.21–3.84)
SBP(update) 120mmHg 120–129mmHg 130–139mmHg 140–159mmHg ≥160mmHg -
AFリスク(HR) Referent 1.14(0.89–1.46) 1.37(1.07–1.76) 1.71(1.33–2.21) 2.21(1.45–3.36) -
DBP(update) <65mmHg 65–74mmHg 75–84mmHg 85–89mmHg 90–94mmHg ≥95mmHg
AFリスク(HR) Referent 1.12(0.82–1.52) 1.13(0.83–1.52) 1.30(0.89–1.88) 1.50(1.01–1.88) 1.54(0.75–3.14)

10mmHgのSBP増加→AFリスクHR1.17(1.08–1.27)
10mmHgのDBP増加→AFリスクHR0.98(0.86–1.12)

血圧が高いほうがAFリスクは高くなる傾向にあるようです。
では、薬で血圧を下げたほうがAFリスクを減らせるかというと必ずしもそうとはいえないようです。
AFをアウトカムとしたRCTのメタアナリシス[6]において、降圧剤で血圧を下げることによりAFリスクを低下(RR0.90 95%CI 0.86-0.94)させるが、異質性が高い(P<0.001)。心疾患のない患者(RR1.02 CI0.88-1.18)、冠動脈疾患はあるが心不全なし(RR0.95 CI0.89-1.01)においては有意差がなく、心不全患者(RR0.81 CI0.74-0.87)では有意差あり。降圧剤の種類によるAFへの効果に差はなかったという結果。

重要なのはWeymouthさんのようなAF患者の最適な血圧はどのくらいか?という点なのですが、
全死亡をプライマリアウトカムとして設定した文献がありました[7]
AFFIRMのサブ解析でしょうか。全文フリーです。
SBP/DBPを10mmHgごとに分類してフォローアップしています。
AFFIRM試験のAF患者における血圧と全死亡の関係はU字カーブを描き(Fig1)、全死亡がもっとも低かった血圧は140/78mmHg。
血圧110/60未満に下げると全死亡増加(HR2.4 p<0.01, respectively, for SBP and DBP)
対象患者の約85%にワーファリンが投与されています(アスピリンは25%程度)。脳出血予防として血圧は低いほうが良いという説とはちょっと異なる結果です。

[5]Circulation. 2009 Apr 28;119(16):2146-52
[6]Europace. 2015 May;17(5):701-10.
[7]Am J Cardiol. 2014 Sep 1;114(5):727-36.


さて、ここまで調べてみて、こんがらがってきました。
この手の文献はたくさんありすぎてパンクしますね…(いろいろピックアップしたつもりですが、重要文献を見落としていたらすみません。)

で、結局、どうしろと…???という問題
これはDrの間でも意見がわかれそうですね。NEJMのコメント欄(?)にさまざまなDrの意見が掲載されていておもしろいです。賛否両論といった感じでしょうか。


Weymouthさんがもっと血圧を下げなくてよいのかしら?と不安がっていなければ、とくに降圧剤を追加することなく経過観察となるのではないでしょうか。SPRINTの結果に飛びつくのは早計な気がします。
脳出血の懸念も考えられるので、Weymouthさんの不安を払拭できなそうなら、軽めのACEiかCCBあたり入れてもいいかな?と思ってましたが、[7]を読んで、降圧剤追加に躊躇。この見事なU字カーブをみると安易に血圧が低いほうがいいとは言えないかもしれない…と。

個人的には1ヶ月くらい毎日、朝と夜の血圧を測定して頂いて、その結果を見たいなと思います。
夜のSBPが100mmHgくらいまで下がってたりする日がちらほらあるようなら、薬は追加しなくて良いかなと。そういう人いますよね。診察時にボーダーラインでも、家庭血圧低めだったりすることがあるので、自宅血圧のチェックは大事だと思います(ふと思ったのですが、薬を増やされたくないから嘘の数値を記載したりといったこともDrは懸念するのでしょうか…)。
夜もそんなに低くなくて、朝の血圧が140越えていたりする日がちらほらあるようなら、もう1剤追加しても良いかもしれません。[7]のFig1を見ても、SBP120台くらいまでの降圧ならリスクの増大はなさそうです(この文献だけで評価できるわけではないですが…)。

悩ましいですね。
このような難しい問題を扱っている循環器Drは偉大だなと思いました。
もっと精進しなければ…。


ところで、4月の法改定で「かかりつけ薬剤師」が話題ですが(話題というか炎上)、筆者はかかりつけ薬剤師にはなれません。
認定薬剤師を取得していないからです。

認定薬剤師になるには、地域の勉強会などに出席すると交付されるシール(点数)を集めないといけないらしいです。
もらったことはありますが、全部捨ててました汗
ネットでの講習もあるらしいのですが、受けたことはありません。

認定薬剤師になるための勉強会ではEBM(論文を読んで臨床に反映する)は必須ではなく、むしろ軽視されている気もします。
今回とりあげたWeymouthさんのような問題、これは薬剤師に相談してくる可能性も高いですよね。

薬剤師がDrの意向を無視して、患者さんにこうするべきだなんて絶対にいけませんが、患者さんの疑問に直結するような医学論文を探して、十分な知識を得た上で対応したほうがあらゆる角度から患者さんの不安を取り除くような外堀を埋める指導ができるのではないでしょうか。
結局なにも言えずに「Drにご相談ください」という薬剤師の得意文句で済ませてしまうようではかかりつけ薬剤師って何?ということになりますよね。

論文を読まなくてもかかりつけ薬剤師になれるようですが、患者さんの相談にどう対応するのでしょう?
そんな神対応の術をお持ちならぜひ教えてほしいですね!

今回の法改定に対する不平不満は置いといて、自分の能力が不足しているのは間違いないので、日々勉強ですね。休日は休みたいですが(切実!)。