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pharmacist's record

日々の業務の向上のため、薬や病気について学んだことを記録します。細心の注意を払っていますが、古い情報が混ざっていたり、記載内容に誤りがある、論文の批判的吟味が不十分であるといった至らない点があるかもしれません。提供する情報に関しましては、一切の責任を負うことができませんので、予めご了承ください。

BPSDと抗精神病薬 投与継続vs中断

BPSDの症状緩和のため、抗精神病薬が適応外で用いられています。

「かかりつけ医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン」について |報道発表資料|厚生労働省
適応外ではありますが上記ガイドライン抗精神病薬についての記載あり。

BPSDにおける焦燥、興奮、攻撃性、妄想などの症状に対して、メマンチンなどで効果不十分な場合に抗精神病薬の投与を検討(十分なエビデンスはない)。

EPSの少ない第二世代(非定型)抗精神病薬が推奨されており、原則単剤投与。
安全性について留意事項あり、

転倒・骨折リスク、過鎮静、起立性低血圧、嚥下障害、構音障害、寡動、振戦など

 
「使用開始後も必要性の検討を行い、できるかぎり使用しないように努める」と、安全性の観点から、かなり慎重な姿勢をとっています。

「治療開始時の症状が軽い場合は、投与中止により症状悪化しないという報告あり」との記載もありますが(残念ながら引用文献の記載なし)、そこのところどうなんでしょう?

文献検索したところコクランレビューがでていました。全文フリーです。
タイトルはズバリ、認知症高齢者のBPSDへの抗精神病薬の投与継続vs投与中断。
Withdrawal versus continuation of chronic antipsychotic drugs for behavioural and psychological symptoms in older people with dementia. - PubMed - NCBI
Cochrane Database Syst Rev. 2013 Mar 28;3:CD007726
背景:抗精神病薬認知症における精神神経症状(NPS;neuropsychiatric symptoms)の治療に用いられているが長期使用については懐疑的。長期使用の有効性には限度があり、有害事象や死亡リスクの懸念がある。医療者はNPSの悪化を恐れて、抗精神病薬の中断には消極的になっている。
目的:認知症高齢者への抗精神病薬投与を中止することが可能かどうかを検討するため、抗精神病薬中止による影響を測定。

研究デザイン:RCTのメタアナリシス(アブストにはプラセボ対照RCTとあるが、本文には、プラセボ対照でなくても、観察者盲検化のものは含むと記載あり。ただし、ピックアップされたRCTはすべて盲検化)
言語制限なし
未発表の研究もサーチ
研究の数が少ないため(<10)、Funnel Plotによる出版バイアスは検討されていない。

P:3か月以上、抗精神病薬を投与されている65歳以上の高齢認知症患者(プライマリケアもしくは介護施設)
E:抗精神病薬投与中断
C:抗精神病薬投与継続
O:
プライマリアウトカム
抗精神病薬離脱の成功率(短期;4週間未満、長期;4週間以上)
※成功率:NPS悪化による試験脱落がないこと、または抗精神病薬の再開がないこと。
②NPIスコアやNPI-Qスコアで評価したBPSD(とくに興奮、攻撃性、精神症状)の症状の度合いのベースラインからの変化 
③投与中止から4週間の離脱症状の有無
離脱症状:吐き気、嘔吐、食欲不振、鼻漏、下痢、発汗、筋肉痛、知覚異常、不安、パーキンソニズムを含む運動障害など
(投与中断にて、不穏、不眠、落ち着きのなさも報告されているが、これらの症状はリバウンドに起因するが、これら2つの病因を区別することは不可能)
④有害事象(転倒、EPS、心血管イベント、糖尿病)
EPSは、ESRS;Extrapyramidal Symptom Rating Scaleで評価

<結果>
9RCT(n=606)を同定
7RCT;介護施設、1RCT;外来、1RCT;介護施設・外来

8RCTにおいて全体的に有意差はない。そのうち、1つの予備試験(不穏や精神症状にハロペリドールで良好な反応を得ていた患者)では再発までの時間が中止群で有意に短かった(p=0.04)。

残りの1RCTは、4~8ヵ月のリスペリドン療法で不穏/精神症状がコントロールされていた患者を対象とした試験だが、再発リスクが増加(NPIコアスコア30%以上の増加HR1.94, 95%CI 1.09 to 3.45 at four months)
(詳細→Relapse risk after discontinuation of risperidone in Alzheimer's disease. - PubMed - NCBI)


NPIスコア(フル)を検討した2RCTにおいて、NPIスコアに有意差なし(mean difference (MD)-1.49, 95%CI -5.39 to 2.40)

NPIスコアのベースライン時の重症度に応じたサブ解析(2RCT)では、
NPIスコア≦14:中断群のほうが不穏が有意に少ない(p=0.018)
NPIスコア>14:中断群のほうが行動症状が有意に悪化(p=0.009)

有害事象については系統的な評価なし

1RCTにおいて死亡率について評価。12か月で投与継続のほうが5-8%高かった(統計的に有意差なし)。3年後に統計的に有意になった。
(詳細→The dementia antipsychotic withdrawal trial (DART-AD): long-term follow-up of a randomised placebo-controlled trial. - PubMed - NCBI
Lancet Neurol. 2009 Feb;8(2):151-7
投与継続による死亡率上昇、12か月生存率70%vs77%。1年間で約4分の1が亡くなっているので、あまり予後が良くない患者さんを対象としているのかなという印象)


<結論>
認知症患者への抗精神病薬を中断することが認知機能、精神状態に有益かどうかは不明のままであるが、悪影響なく中断できることが示唆された。ただし重度のNPSを有する患者においては、投与継続が有益であることが示唆され、このようなケースでは中断が推奨されない場合がある。


ということですが、ほとんどの試験が検出力のパワー不足といった記述もあり、このメタアナリシスをもって、必ずしも抗精神病薬の中断が可能とは言えないように思います。NPIスコアの低い軽症例においては、中断したほうが不穏が少ないというサブ解析もあり、重症度に応じた選択が必要となるようです。


抗精神病薬のさまざまなリスクが懸念されていますが、そうはいっても重度のBPSDを発症している患者さんの介護をするご家族は大変ですよね。
認知症が進行して介護なしでは生活できなくなった患者さんとそのご家族の関係性をイメージすると、断崖絶壁で落下しそうになっている人(患者さん)を、崖の上から手を伸ばして落ちないように掴んでいる(ご家族)ような状態といっても過言ではないのではないかと思います。
ファイト一発のCM(古い??)みたいな感じです。

患者さんの介護で疲弊してご家族がダウンしてしまったら患者さんも救えなくなるので、患者さんと介護者(ご家族)双方を助けてあげないといけません。
抗精神病薬の不利益な側面だけを見て、患者さんに悪影響だと一刀両断してしまうと、介護者がダウンしてしまうという懸念もあります。BPSDの重症度、介護環境などさまざまな背景も考慮した上での薬物療法の選択が必要となるでしょう。

また、もう1点懸念が…。
抗精神病薬のリスクをご家族にきちんと説明するのが正しい医療なのだと思いますが、説明の仕方によっては、ご家族にとって辛い選択を迫られることになるのではないでしょうか?
自分が介護するご家族の立場になったら、「介護が楽になるために、悪影響もあるかもしれない薬を投与するってこと!?」と罪悪感にかられてしまうかもしれません。

実際、そのようなケースもありました。抗精神病薬のリスクをご自身で調べたご家族が抗精神病薬の中止をDrに提案、処方中止、夜間の覚醒・興奮などもあるが、自分が我慢すればいいのだと…。ひどい興奮や攻撃性はなかったようで許容できるとご家族が判断なさったのですが、ご家族に自責の念を与えないような配慮も必要だと思いました。
BPSDがひどい場合は、ガイドラインに載っているようなリスクを踏まえたうえでも、患者さんとご家族の双方を助けるために抗精神病薬による鎮静が一時的に有用な場合もあると思います。

ご家族の不安や罪悪感を解消するには、「不穏が強い状態なので、ご家族の負担を減らすためにも、一時的に薬で落ち着かせることで患者さん本人もご家族も、ゆっくり休んで、落ち着いてきたら薬を減らすことを考えていきましょう」といったような双方を気遣った配慮が大事なのではないでしょうか。
一度、抗精神病薬を投与開始したら、そのまま漫然と投与するのではなく、減量/中止時期についても視野にいれて経過を見ていくのが良いと思います。
(副作用リスクの少ない抑肝散を検討するのも良いかも…? ↓関連記事)


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