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pharmacist's record

日々の業務の向上のため、薬や病気について学んだことを記録します。細心の注意を払っていますが、古い情報が混ざっていたり、記載内容に誤りがある、論文の批判的吟味が不十分であるといった至らない点があるかもしれません。提供する情報に関しましては、一切の責任を負うことができませんので、予めご了承ください。

DPP4iは動脈硬化を予防する?

内分泌 循環器

順天堂大学の研究結果が発表されました。

SPEAD-A試験
Alogliptin, a Dipeptidyl Peptidase 4 Inhibitor, Prevents the Progression of Carotid Atherosclerosis in Patients With Type 2 Diabetes: The Study of ... - PubMed - NCBI
Diabetes Care. 2015 Dec 1. pii: dc150781
試験デザイン:ランダム化多施設並行群間試験(PROBE)
P:心血管疾患のないT2DM
E:アログリプチン(n=172)
C:従来治療(n=169)
O:頸動脈内膜中膜複合体肥厚度(IMT;intima-media thickness of the carotid artery)の変化(頸動脈エコーによる測定)
試験期間:24か月
資金提供:製薬メーカー15社

<結果>
頸動脈IMT(ベースライン→52週後→104週後)

アログリプチン 従来治療 Mean change(p value)
最大IMT(右)
ベースライン 1.04mm(n=161) 1.03mm(n=161)
52週後 0.97mm(n=152) 1.02mm(n=157) -0.053(p=0.041)
104週後 0.99mm(n=151) 1.04mm(n=153) -0.056(p=0.025)
最大IMT(左)
ベースライン 1.09mm(n=161) 1.10mm(n=161)
52週後 1.05mm(n=153) 1.08mm(n=157) -0.009(p=0.72)
104週後 1.01mm(n=151) 1.10mm(n=153) -0.064(p=0.013)
BMI(104週後) 24.6→+0.3 24.9→-0.3 p=0.003
HbA1c(104週後) 7.3%→-0.3% 7.2%→-0.1% p=0.004

 
有害事象について特に有意差はなく、もっとも頻度が高かったのは低血糖(アログリプチン5件、従来治療6件)。
便秘や腹部膨満はアログリプチリンで1件ずつ。とくに目立った増加はない。

IMT;正常値1mm以下。加齢とともに増加する。


とくに目立った有害事象が認められない点はDPP4iの特徴といえるかもしれません。忍容性は高いと思われます。
ただし、DPP4iは心血管イベントに対する有益性は示せていないのが現状です。
↓アログリプチン、シタグリプチン、サキサグリプチンの臨床試験の結果

EXAMINE試験(N Engl J Med. 2013 Oct 3;369(14):1327-35 PMID:23992602)
試験デザイン:非劣性試験(非劣性マージン1.3)、ランダム化、二重盲検
P:15~90日以内にAMIもしくは入院を必要とする不安定狭心症の既往のあるT2DM患者(n=5380)
E:アログリプチン(用量はeGFRにより調節)
C:プラセボ
O:心血管死、非致死的MI、非致死的脳卒中
追跡期間:40か月(中央値18か月)
併用薬:両群ともにアスピリン・スタチン・βブロッカー・RAS系阻害薬の使用率8~9割、メトホルミン6~7割、インスリン3割、SU剤5割

<結果>

アログリプチン(n=2701) プラセボ(n=2679) ハザード比
プライマリアウトカム 305名(11.3%) 316名(11.8%) HR0.96(≦1.16)
心血管死 89名(3.3%) 111名(4.1%) HR0.79(0.60–1.04)
非致死的MI 187名(6.9%) 173名(6.5%) HR1.08(0.88–1.33)
非致死的脳卒中 29名(1.1%) 32(1.2%) HR0.91(0.55–1.50)
全死亡 153名(5.7%) 173名(6.5%) HR0.88(0.71–1.09)
HbA1c -0.33% +0.03% 平均差(MD):−0.36%(−0.43 to −0.28)
体重変化 +1.09kg +1.04kg 平均差(MD):+0.06kg(-0.25 to 0.36)
重篤な低血糖 18件(0.7%) 16件(0.6%) P=0.86
低血糖 181件(6.7%) 173件(6.5%) p=0.74
急性膵炎 12件(0.4%) 8件(0.3%) p=0.5


TECOS試験(N Engl J Med. 2015 Jul 16;373(3):232-42 PMID:26052984)
試験デザイン:非劣性試験(非劣性マージン1.3)、ランダム化、二重盲検
P:CVD合併T2DM患者(n=14,671)
E:シタグリプチン(用量はeGFRにより調節)
C:プラセボ
O:心血管死、非致死的MI、非致死的脳卒中、不安定狭心症による入院
追跡期間:中央値3年

<結果>

シタグリプチン プラセボ ハザード比
プライマリアウトカム 839名(11.4%;4.06/100人年) 851名(11.6%;4.17/100人年) HR0.98(95%CI 0.88-1.09)
心不全入院 - - HR1.00(95%CI 0.83-1.20)

急性膵炎(p=0.07)、すい臓がん(p=0.32)に群間差はみられなかった。


SAVOR-TIMI53(N Engl J Med. 2013 Oct 3;369(14):1317-26 PMID:23992601)
試験デザイン:ランダム化、二重盲検(非劣性試験と思われるが、非劣性マージンの記載が見当たりません)
P:心血管イベントの既往/リスクのあるT2DM患者(n=16,492)
E:サキサグリプチン
C:プラセボ
O:心血管死、MI、虚血性脳卒中
追跡期間:中央値2.1年

<結果>

サキサグリプチン(n=8280) プラセボ(n=8212) ハザード比
プライマリアウトカム 613名(7.3%) 609名(7.2%) HR1.00(0.89–1.12)※
全死亡 420名(4.9%) 378名(4.2%) HR1.11(0.96–1.27)
心血管死 269名(3.2%) 260名(2.9%) HR1.03(0.87–1.22)
MI 265名(3.2%) 278名(3.4%) HR0.95(0.80–1.12)
虚血性脳卒中 157名(1.9%) 141名(1.7%) HR1.11(0.88–1.39)
不安定狭心症による入院 97名(1.2%) 81名(1.0%) HR1.19(0.89–1.60)
心不全による入院 289名(3.5%) 228名(2.8%) HR1.27(1.07–1.51)
低血糖による入院 53名(0.6%) 43名(0.5%) HR1.22(0.82–1.83)
急性膵炎 0.3% 0.2% 記載なし

※プライマリアウトカムP=0.99 for superiority; P<0.001 for noninferiority 非劣性は認められたが、優位性はない


どれも似たような結果ですが、サキサグリプチンでは心不全有意に増加。αエラーかもしれませんが、心不全の患者さんに投与するなら、アログリプチンかシタグリプチンを選択したほうが良さそうです。
3つの大規模試験にて心血管リスクのある患者に優位性が認められていないため、頸動脈IMTという代用のアウトカムのわずかな差をもって動脈硬化の進展を防ぐという説は慎重に吟味する必要があります。

IMTと臨床アウトカムの関連はどうでしょうか。

Effect of lower targets for blood pressure and LDL cholesterol on atherosclerosis in diabetes: the SANDS randomized trial. - PubMed - NCBI
JAMA. 2008 Apr 9;299(14):1678-89.
試験デザイン:ランダム化、オープンラベル、エンドポイント盲検化(PROBE)
P:CVD既往のない40歳以上のT2DM患者499名
E:積極治療(LDL:70mg/dL以下、SBP:115mmHg以下)
C:標準治療(LDL:100mg/dL以下、SBP:130mmHg以下)
プライマリアウトカム:総頸動脈IMTによって測定したアテローム性動脈硬化の進行とCVDイベント(致死的冠動脈疾患CHD;coronary heart disease、非致死的MI、脳卒中、不安定狭心症、心臓血行再建術、頸動脈血行再建術)
セカンダリアウトカム:他の頸動脈や心臓のエコー所見、臨床イベント
試験期間:3年
患者背景:平均年齢55~57歳、平均BMI33、LDL104、平均血圧130/75mmHg、アスピリン使用率7割、IMT0.8mm

<結果>

積極治療(n=252) 標準治療(n=247)
LDL 72(69-75)mg/dL 104(101-106)mg/dL
SBP 117(115-118)mmHg 129(128-130)mmHg
IMT(base,18mo,36mo) 0.81→0.806→0.795mm 0.797→0.801→0.834mm
primary CVD 11 8
total CVD 12 11
adverse events(AEs) 97(38.5%) 66(26.7%)
serious AEs 74(29.4%) 55(22.3%)
AEs related to BP drugs 67(26.6%) 38(15.4%)


3年の追跡で、IMTの差はほんのわずか。
有害事象が増えていますが、心血管イベントの減少はみられなかったという結果。心血管イベントについては発生数が少ないのでパワー不足なのではないかという気もしますがどうなんでしょうね。ちなみにプライマリCVDアウトカムは血行再建術も含まれています。


こちらは、まさにそれが知りたいんだ!というタイトルです。
Does carotid intima-media thickness regression predict reduction of cardiovascular events? A meta-analysis of 41 randomized trials. - PubMed - NCBI
J Am Coll Cardiol. 2010 Dec 7;56(24):2006-20
頸動脈IMT改善は心血管イベントの減少を予測するかを検討したメタアナリシス

背景:頸動脈IMTの増大は無症候性アテローム性動脈硬化症を表していると考えられており、冠動脈疾患CHD、脳血管イベントCBVのリスク上昇と関連あり(冠動脈より脳血管により強く関連)。有用なバイオマーカーとされており、臨床試験の代理エンドポイントとして使用されている。しかし、IMTの改善が予後を改善するかどうかは不明

選定基準
・頸動脈IMTの変化を評価
・心血管イベントの評価
・ランダム化

除外基準
・縦断的フォローのない観察研究
・横断研究

"searched for articles published in English and other languages until August 2009"
英語以外の文献もサーチ
(未発表の文献はピックアップしてないようです。"The authors thank the following authors for having shared unpublished results about the outcomes of their trials~"とありますが、文献に載せてないアウトカムの情報もシェアしてくれてありがとう、といった意味合いかなと。)

<結果>
41試験(n=18307)、平均年齢58歳
半数近くがスタチン関連の試験
追跡期間:半年~5年(平均2.4年

積極治療にて、アウトカムは改善(CHDイベント;OR0.82(0.69-0.96)、CBVイベント;OR0.71(0.51-1.0)、総死亡;OR0.71(0.53-0.96))したが、ベースラインからフォローアップ終了時のIMTの変化と心血管イベントや総死亡との間に有意な関連なし。


スタチンの介入が大半ということもあって、心血管イベントは減少していますが、IMTの変化との関連はなかったという驚きの結果。
統計に疎くて難しいことはわからないのですが、IMTの減少と相関があるならば、Fig2,3のグラフで、左下から右上へと伸びるような線形が描かれるということですよね。


IMTが心血管イベントのリスクファクターとなることを示唆した文献はこちら
Carotid intima-media thickening indicates a higher vascular risk across a wide age range: prospective data from the Carotid Atherosclerosis Progres... - PubMed - NCBI
IMTがリスクファクターだとしても、薬物治療でIMTを減少させることが心血管イベントの減少につながるかどうかはまた別問題ということでしょうか。


さて、ここで最初のDPP4iとIMTの文献に戻りますが、マイナス0.0何mmと小数点2桁のわずかな減少でした。
IMTのメタアナリシスのtable2に各種試験のIMTの変化が一覧になっていますが、必ずしもIMTは減少しておらず、減少していても小数点2桁~3桁というレベル。"IMTの減少に関しては"DPP4iはけっこう良いのかもしれません。

ただし積極治療によるIMTの減少と心血管イベントとの相関がなかったというメタアナリシスの結果をふまえると、IMTが減少したからDPP4iは有用とは結論付けられません


DPP4iは実臨床では広く用いられていますが、臨床試験の結果はいまいちで、批判的な声もちらほら。
自分もEBMを学び始めて、DPP4iなんて!と思ってた時期もありましたが、EXAMINE,SAVOR,TECOSの結果により有用ではない薬と決めつけるのも早計なのかなと思うようになりました。
血糖値を改善することによる動脈硬化に対する有益性はもっと長期にわたって現れるものではないかと思うのです。ほんの数年のフォローで心血管イベントに差は出ないのはやむを得ないかなと。
お金の問題で不可能かと思いますが、10年、20年と長期でフォローしてみたいものですね。

2015年には、エンパグリフロジンは2~3年のフォローで全死亡を減らすという論文も発表されましたが、あれは血糖コントロールというより、利尿作用が功を奏したことによる結果だと自分は思っています。

DPP4iは良い薬か、微妙な薬か、議論はつきないかと思いますが、現時点ではよくわからないというのが正直なところです(泣)。

論文を読んでも明確な結論は出ないですし、わからないことが増えていくばかりで、今年もエビデンスの森の中を彷徨い続けることになりそうです…。


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