pharmacist's record

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腰部脊柱管狭窄症の診断に有用な病歴は?

加齢により体のいたるところが痛くなってきたりするものですが、痛みにはさまざまな原因があります。
姿勢や歩き方によって症状の度合いが変わることもあり、診察室に入ってくるときの患者さんの歩き方も診断に有用だったりします。

腰部脊柱管狭窄症(LSS;lumbar spinal stenosis)
原因:神経の通路である脊柱管が狭小化
症状:臀部~下肢の疼痛やしびれ、(重度の馬尾徴候として)会陰部の灼熱感/足底のしびれ・異常感覚(とくに足底の症状は手術治療抵抗性)
(腰~背中よりも、臀部から下肢)

病歴からの診断は下記の文献が参考になります。
A diagnostic support tool for lumbar spinal stenosis: a self-administered, self-reported history questionnaire. - PubMed - NCBI
BMC Musculoskelet Disord. 2007 Oct 30;8:102.
LSS137名、外科的処置に成功した腰椎椎間板ヘルニア97名のデータをもとにLSS臨床予測ツールを作成

LSS(-)(n=97) LSS(+)(n=137) Odds Ratio(95%CI)
Age(years)>50 20.6% 94.9% 71.5(28.9–176.9)
Gender(Female) 42.0% 54.0% 1.60(0.95–2.71)
脚の痛みやしびれ(Leg pain or numbness) 87.6% 94.9% 2.62(0.99–6.93)
腰痛(Low back pain) 72.2% 65.0% 0.72(0.41–1.26
間欠跛行(Worse when walking but relieved by taking a rest) 18.6% 94.2% 70.77(29.39–170.4)
両脚のしびれ(Numbness in both legs) 15.5% 24.8% 1.80(0.92–3.54)
両足底のしびれ(Numbness in the soles of both feet) 13.4% 20.4% 1.66(0.81–3.40)
臀部のしびれ(Numbness around the buttocks) 9.3% 15.3% 77(77-4.05)
痛みのないしびれ(Numbness without pain) 8.2% 11.7% 1.53(0.63–3.75)
臀部の灼熱感(A burning sensation around the buttocks) 6.2% 8.2% 0.94(0.32–2.80)
歩行時の尿意切迫感(Walking nearly causes urination) 3.1% 5.1% 1.69(0.43–6.70)
立位で症状悪化(Worse when standing for a while) 24.7% 84.7% 11.38(6.20–20.91)
前屈で症状改善(Symptoms improve on bending forward) 8.1% 72.3% 25.47(11.66–55.64)

原著もこのような表記になってしますが、記載ミスでしょうか…。変ですよね。この差でOR77なわけないです…。OR1.77(0.77-4.05)かなぁ。。。

これらの結果に基づいて診断支援ツールSSHQ(self-administered, self-reported history questionnaire)を作成
Q1:太腿~ふくらはぎ/すねのしびれ±痛み
Q2:しばらく歩いた後、しびれ±痛みが悪化し、休息により緩和
Q3:しばらく立位を維持することで、太腿~ふくらはぎ/すねのしびれ±痛みが発生
Q4:前屈によりしびれ±痛みが軽減

Q5:脚のしびれは両側にある
Q6:しびれは両足底にある
Q7:臀部にしびれがある
Q8:しびれはあるが痛みはない
Q9:臀部の灼熱感あり
Q10:歩行時に尿漏れ感あり

Q1~Q4すべて該当→LSS
Q1~Q4すべて該当、Q5~Q10該当なし→神経根型LSS(radicular type)
Q1~Q4 2個以上該当、Q5~Q10 3以上該当→馬尾型LSS(cauda equina type)
感度・特異度はともに8割前後(table6より)


やはり間欠跛行は特徴的のようです。
姿勢も重要ですね。
CiNii 論文 -  351. 腰部脊柱管狭窄症における硬膜を圧迫する圧について
硬膜圧は仰臥位・腹臥位・立位前屈では小さく、立位後屈では増加。通常歩行よりも歩行器を使用したほうが姿勢が前屈になるため、負荷が小さいようです。


こちらの文献も参考になりそうです。
Development of a clinical diagnosis support tool to identify patients with lumbar spinal stenosis. - PubMed - NCBI
Eur Spine J. 2007 Nov;16(11):1951-7
リスクスコアが作成(table3)されています。

項目 リスクスコア
60–70歳 1
>70歳 2
糖尿病ではない(Absence of diabetes) 1
間欠跛行(Intermittent claudication) 3
立位で症状増悪(Exacerbation of symptoms when standing up) 2
前屈で症状改善(Symptom improvement when bending forward) 3
前屈で症状誘発(Symptoms induced by having patients bend forward) −1
後屈で症状誘発(Symptoms induced by having patients bend backward) 1
末梢動脈循環良好(Good peripheral artery circulation) 3
アキレス腱反射の異常(Abnormal Achilles tendon reflex) 1
SLRテスト陽性(SLR test positive※) −2

スコア7点以上で感度93%、特異度72%、LR;+3.3、LR;-0.1(table4)

※straight leg raising test(下肢伸展挙上テスト)
坐骨神経痛の原因として椎間板ヘルニアを疑ったときに有用な所見
仰臥位で、膝を曲げずに脚を伸ばしたまま、片脚ずつ持ち上げて(30~60度)、脚の裏側に痛みが出たら陽性
椎間板ヘルニアの感度85%、特異度52%(J Neurol. 1999 Oct;246(10):899-906.)


間欠跛行や姿勢による増悪・緩和などに加えて、
ABI0.9以上(末梢動脈の循環が良好)もスコアが高いです。

LSSが神経性間欠跛行の原因として有名な一方で、血管性間欠跛行の原因であるPAD(末梢動脈疾患)がありますが、その鑑別においてABIが有用なようです(日本腰痛学会雑誌 Vol. 13 (2007) No. 1 P 155-160 )。


歩き方や姿勢がLSSの診断に有用ということが、これらの文献からわかると思います。
ピンクのベストで有名な芸人さんのような胸を張った歩き方で診察室に入ってきたら、LSSの可能性は下がるでしょうね。ちょっとした患者さんの動作も観察することが大事だと思います。


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