読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

pharmacist's record

日々の業務の向上のため、薬や病気について学んだことを記録します。細心の注意を払っていますが、古い情報が混ざっていたり、記載内容に誤りがある、論文の批判的吟味が不十分であるといった至らない点があるかもしれません。提供する情報に関しましては、一切の責任を負うことができませんので、予めご了承ください。

小児にトリプタン製剤は使用可能?

片頭痛発作に使用されるトリプタン製剤の適応は、「通常、成人に」、「小児に対する安全性未確立」となっています。
禁忌ではないが未確立という、添付文書において頻繁に見られる記載です。

患者さんのお薬手帳で服用中の薬が確認できますが、中学生の患者さんに他院よりトリプタン製剤が処方されていました。頭痛専門のDrだったので、有効性と安全性を把握した上で処方してらっしゃるんだろうなと思ったのですが、自分でも文献を調べてみようと思いました。

The use of triptans for pediatric migraines. - PubMed - NCBI
Paediatr Drugs. 2010 Dec 1;12(6):379-89

片頭痛の有病率は、
2~7歳で3%
7~11歳で4~11%
11歳~で8~23%

頻度は
前兆のない片頭痛>前兆のある片頭痛(約2倍)

2004年時点で、米国神経学会(American Academy of Neurology)が小児/青年に推奨しているのはスマトリプタン点鼻
その時点では経口トリプタン製剤のデータが不足していた

スマトリプタン点鼻:もっとも肯定的な結果が示されており、欧州では12歳以上の小児に承認されている。
経口スマトリプタン:プラセボに対する有益性を示せていない
経口リザトリプタンと点鼻ゾルミトリプタン:同等の有効性と安全性のデータがある
アルモトリプタン:FDA承認あり(青年、4時間以上持続する片頭痛
ナラトリプタン、エレトリプタン:ファーストラインで推奨とするデータは不十分
フロバトリプタン:有効性のデータがない

小児/青年の有害事象や薬物動態は成人と同様

推奨されるトリプタン:スマトリプタン点鼻、ゾルミトリプタン点鼻、リザトリプタン錠、アルモトリプタン錠


Paediatr Drugs.とは小児の薬物治療についてのジャーナル誌なのでしょうか。
Pubmedで引っかかったので目を通してみましたが臨床試験結果の提示のないレビュー記事でした。
2010年時点では、このような評価となっています。


こちらはJAMA。2年前ということで比較的新しいです
Migraine therapeutics in adolescents: a systematic analysis and historic perspectives of triptan trials in adolescents. - PubMed - NCBI
JAMA Pediatr. 2013 Mar 1;167(3):243-9

2009年にアルモトリプタン、2011年にリザトリプタンの有効性と安全性がFDAに認められ、適応を有している。
FDAに承認された5つの薬について、1999~2011の間にFDAに提出された小児データ(有効性と薬物動態について)を解析

各試験の研究デザイン:ランダム化、二重盲検、プラセボ対照並行群間試験

<結果>
2008年までの5試験ではアルモトリプタンのみ青年に有効で、スマトリプタン、エレトリプタン、リザトリプタン、ゾルミトリプタンは有効性示せず。FDAに提出された2011年のリザトリプタンの試験では有効性が実証された。
 
試験デザイン:すべて二重盲検、ランダム化、プラセボ対照並行群間試験。
片頭痛歴:記載のあるものはすべて6か月以上。
年齢:12~17歳
発作持続時間:3~4時間以上

Drug Trial アウトカム 用量 応答率(実薬vsプラセボ 成人の応答率の基準範囲
アルモトリプタン2008(n=714) 2時間後の頭痛、吐き気、羞明、音過敏 6.25mg 71.8%vs55.3% 55-56%vs33-42.4%
12.5mg 72.9%vs55.3% 56.8-64.2%vs33-42.4%
25mg 66.7%vs55.3% NA
スマトリプタン点鼻1st 2000(n=510) 2時間後の頭痛 20mg 63%vs53% 60-63%vs29-35%
スマトリプタン点鼻2nd 2003(n=731) 1時間後の頭痛、1~24時間の効果持続 5mg 53%vs52% 44-60%vs32%
20mg 61%vs52%
ゾルミトリプタン2003(n=696) 2時間後の頭痛 2.5mg 56.6%vs57.5% 60-63%vs15-35%
5mg 52.8%vs57.5% 61-65%vs15-35%
10mg 54.3%vsvs57.5% 65-67%vs15-35%
エレトリプタン2003(n=348) 2時間後の頭痛 40mg 57%vs57% 54-65%vs21-24%
リザトリプタン1st 1999(n=296) 2時間後の痛み 5mg 32.3%vs28.2% 25-34%vs3-10%
リザトリプタン2nd 2011(n=702) 2時間後の痛み 5-10mg(weight-based) 30.6%vs22% 25-34%vs3-10%

  

上記の結果のとおり、青年の場合、プラセボ応答率が高いです。文献のCOMMENTにおいてもトリプタン試験の大きな障害となっていると記述あり。選定基準に発作持続が3~4時間以上といった基準が設けられてはいますが、小児の片頭痛は持続時間が短い傾向にあるため[2]、プラセボ効果というよりも、単なる頭痛の自然消失という可能性もあります。持続時間が短いのであれば、トリプタンによって得られる恩恵は少ないため、トリプタンの投与は不要という考えも成り立つと思います。

リザトリプタン2011では、2段階の試験となっていて、プラセボ群のnonresponderを抽出し、さらにランダム化して実薬とプラセボに分けて試験を行っているようです(figure参照)。プラセボ応答率が高い症例が除外されたことで、有意差が出たとも考えられます(体重に応じて10mgの用量も設定したことも影響しているかもしれません)。

COMMENTの末尾にも記載されていますが、薬学的介入を必要としない症例をきちんと見極める必要があるといったことが記載されており、そのとおりだなと思いました。


以下、国内のガイドラインや文献を参考に小児片頭痛についてまとめます。

<日本頭痛学会のガイドライン[1]における小児の片頭痛の急性期治療について>
アセトアミノフェンイブプロフェンが効果的で安全かつ経済的で第一選択として推奨。イブプロフェンは最良の鎮痛効果
・トリプタンの中では、スマトリプタン点鼻が有効かつ安全、内服ではリザトリプタン錠が有効かつ安全。ゾルミトリプタン点鼻とアルモトリプタンも有効とされるが本邦未承認。
・スマトリプタン点鼻の推奨は12歳以上だが、6歳以上のRCTでも苦味以外の副作用はなかった。
・国内のスマトリプタン点鼻の小規模調査では、12~17歳の片頭痛20人の75%に有効だったが、苦味などの副作用により継続処方希望は55%。
・国内の経口リザトリプタンのRCT(6~17歳96人、体重20~39kgで5mg、40kg以上で10mg)がある。投与2時間後の有効率は約7割。プラセボの36%に比べ有効、重篤な有害事象は無し。
(トリプタンの推奨薬に関しては最初にとりあげたPaediatr Drugsのレビューと同じような内容となっています。)


<小児の片頭痛の特徴>
片頭痛の持続時間は成人では4~72時間、小児は1~72時間。小児は短時間で回復しやすい
・小児では両側性の前頭側頭部痛が多い
・腹部症状が目立つ傾向にある

片頭痛発作の誘因>
ストレス、ストレスからの解放、激しい運動、炎天下、光、騒音、臭い、天候変化、月経、過眠(朝寝坊・昼寝)、寝不足、朝食抜き(低血糖)、鼻炎、副鼻腔炎、アルコール、カフェイン過剰摂取など

片頭痛の日常的生活における指導>
・朝寝坊、昼寝、寝不足をさけ、休日でも早起きし、睡眠リズムを整える。
・朝食をとる。
・炎天下での帽子やサングラスの着用
・人混みや満員電車をさける
・適度な運動(頭痛体操)
・ゲーム、テレビの制限
・急性発作時は、暗めの静かな部屋で頭を冷やして安静にする


文献[2]ではトリプタンの使用の実際について言及されており、とても参考になります。
・急性期の治療は、まずはガイドラインどおり、アセトアミノフェンイブプロフェン。15歳未満は原則この2剤。
・必要に応じて、ドンペリドン併用(嘔吐防止、鎮痛薬の吸収促進)
・トリプタンは上記鎮痛薬で改善しない場合に検討。同意書をとり、10歳以上、30kg以上の小児に限定して使用。12歳以上かつ40kg以上では成人量、それ以下では半量。事前に脳底型片頭痛の除外が必要(けいれんをおこす器質的脳疾患に慎重投与)。12歳以上ではスマトリプタン点鼻がエビデンスがほぼ確立しており、小児において推奨。咽頭・舌後方の苦みは事前に説明。
・急性期の頓用治療が不十分な場合、必要に応じて予防的治療を行う。年少児でシプロヘプタジン(2~4mg/日)、小学校高学年以上でアミトリプチリン(10~20mg/日)。
(おそらく厳密には保険適応外となると思います。ともに2015.12時点で添付文書には記載なし。アミトリプチリンは、
医科|社会保険診療報酬支払基金
において、片頭痛・緊張型頭痛に審査上認めるとありますが、小児でも審査が通るかは未確認です。)


保険適応の問題もありますし、アセトアミノフェンイブプロフェンによる急性期治療をこえての治療については、小児頭痛診療に精通している医師に診てもらうべき領域かと思います。


refference
[1]日本頭痛学会 慢性頭痛の診療ガイドライン2013 VII 小児の頭痛
[2]「小児・思春期の頭痛患者」脳と発達 Vol. 44 (2012) No. 2 p. 119-124