pharmacist's record

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ファムシクロビルの投与量は腎機能低下に応じて減量すべき?

帯状疱疹に対するファムシクロビルの処方
高齢者においては腎機能低下により用量調整が必要とされる場合があります。

アシクロビル、バラシクロビル、ファムシクロビルなどの抗ウイルス薬は、帯状疱疹の高齢者によく用いられるが、有害事象として神経毒性が知られており、tremor振戦、confusion錯乱、hallucinations幻覚、coma昏睡などの症状をきたす。投与開始数日で起こり、投与中止で改善する。ヘルペス脳炎との区別が困難。 アシクロビルのケースシリーズでは、リスクファクターとして高齢、CKDなどがあげられている(BMC Pharmacology and Toxicologyの文献から引用)。

Management of Herpes Zoster (Shingles) and Postherpetic Neuralgia - American Family Physician
Am Fam Physician. 2000 Apr 15;61(8):2437-2444.
帯状疱疹のマネジメントについてまとまっています
帯状疱疹患者の約20%が神経痛へと進展し、その危険因子は年齢であり、50歳以上で頻繁におこる。
・抗ウイルス薬のコモンな副作用は吐き気、頭痛、嘔吐、めまいと腹痛など
帯状疱疹は一次水痘感染のような伝染性はないが、再活性感染は、免疫のない人に水痘帯状疱疹ウイルスをうつすことはできる。家庭内感染率は約15%


ファムシクロビルの投与量の目安(添付文書より)

Ccr(mL/min) 単純疱疹 帯状疱疹
≧60 1回250mgを1日3回 1回500mgを1日3回
40~59 1回250mgを1日3回 1回500mgを1日2回
20~39 1回250mgを1日2回 1回500mgを1日1回
<20 1回250mgを1日1回 1回250mgを1日1回


先日、かなり高齢の方に通常量で処方されており(腎不全ではないですが)、病院にCr値を確認、Cockcroft-Gaultの式でCcrを算出し、減量が妥当だと思われ、添付文書を目安に用量変更となったケースがありました。

ふと気になったのが、添付文書どおりの用量調節で有効性に問題はないのか、という点です。
国内のデータを調べたところ、オープンアクセスではありませんが、特定使用成績調査がありました。
腎機能障害を有する帯状疱疹患者に対するファムシクロビルの有効性と安全性の検討 (特定使用成績調査)
西日本皮膚科 Vol. 76 (2014) No. 1 p. 44-51

日本人帯状疱疹患者に対するファムシクロビルの有効性と安全性を前向きに検討
・60~90ml/min
・40~59ml/min
・20~39ml/min
・20ml/min未満
各群10例以上(透析9例含む)、計53例
初診時の腎機能に応じて添付文書どおりの用量でファムシクロビル投与
投与終了後2週間で改善度、疼痛の程度、副作用を判定

改善率は90%、副作用は認められず。
20ml/min未満、透析例の改善率は8割弱とやや低めだが、統計的有意差は無し。

アブストラクトのみで詳細は不明ですが、添付文書どおりの用量設定で有効性と安全性に特に問題はなかったようです(といっても使用成績調査の結果に過ぎませんが)。
重度の腎機能低下例で、やや改善率が低かったようですが、抵抗力そのものが落ちているなど、交絡の可能性もあるかもしれません。


一方、こんな文献も見つかりました。
Higher dose versus lower dose of antiviral therapy in the treatment of herpes zoster infection in the elderly: a matched retrospective population-based cohort study | BMC Pharmacology and Toxicology | Full Text
BMC Pharmacology and Toxicology201415:48 DOI: 10.1186/2050-6511-15-48
「Higher dose versus lower dose of antiviral therapy in the treatment of herpes zoster infection in the elderly: a matched retrospective population-based cohort study」
レトロスペクティブコホート研究(2002年~2011年)
P:帯状疱疹の高齢外来患者(平均年齢77歳)
E:抗ウイルス薬 高用量
C:抗ウイルス薬 低用量
O:30日以内の、緊急頭部CTスキャンで入院(※)
セカンダリ:30日間の全死亡

※頭部CTは神経所見や頭部外傷のない急性のconfusion(混乱、錯乱、意識障害)の患者の評価にルーチンでよく用いられる

抗ウイルス薬の用量

高用量 低用量 up to date推奨量
アシクロビル 4000mg/d 3200mg/d以下 Ccr10-25:2400mg/d、Ccr10未満:1600mg/d
バラシクロビル 3000mg/d 2000mg/d以下 Ccr15-30:2000mg/d、Ccr15未満:1000mg/d
ファムシクロビル 1500mg/d 1000mg/d以下 Ccr40-59:1000mg/d、Ccr20-39:500mg/d、Ccr20未満:250mg/d

※国内の推奨量とは異なるので注意。
国内の推奨量は、添付文書やCKDガイド2012参照。
CKD診療ガイド2012:|一般社団法人 日本腎臓学会|Japanese Society of Nephrology


<結果>

Higher dose(n = 23,256) Lower dose(n = 3,876) 相対リスクRR(95%CI)
緊急頭部CTスキャンで入院(30days) 247名(1.06%) 43名(1.11%) RR0.96(0.69-1.33)
全死亡(30days) 63名(0.27%) 15名(0.39%) RR0.70(0.40-1.23)

 
<結論>
帯状疱疹患者への抗ウイルス薬の高用量投与は低用量投与と比較して有害事象は増加せず、高齢者への使用についての安全性を支持


<感想>
このプライマリアウトカムは真のアウトカムですかね?
自分の翻訳/解釈が間違っていなければ、confusionそのものを調査しきれないから、confusionの評価としてルーチンで使われている頭部CTスキャン入院というのをアウトカムにした、ということですよね?(We have used this outcome of urgent CT scans of the head in other population-based drug safety studies to characterize the risk of drug-induced deliriumとの記述あり)
だとすれば代用だと思います。この結果で意識障害/精神症状の有害事象の増加がないと言い切るのは微妙ではないかというのが正直な感想です。とはいっても、「抗ウイルス薬の過量投与はconfusionの恐れがあるため腎機能低下例に減量を提案すべきだ」という自分の考えがちょっと揺らぎそうになりました。うーん、このconclusionは納得できないなぁと思うのですが…。自分の論文の解釈が間違っているんですかね。

全死亡が高用量でやや有意な傾向にあることは、投与量と因果関係はないのでは?という印象。30日以内に死にかけているという患者さんに抗ウイルス薬を高用量で投与しませんよね?予後が短いと評価されている患者さんには低用量で投与にするのではないかと思います。統計的有意差がついているわけではないですし、高用量で用途したほうがいい、という結論にはならないような気がします。

ちょっともやもやする調査結果となってしまいましたが、up to dateでも腎機能に応じて減量を推奨しているようなので、高齢者への投与には注意が必要だと思います。