pharmacist's record

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小児/青年における抗うつ薬の使用について

The use of antidepressants to treat depression in children and adolescents. - PubMed - NCBI
CMAJ. 2006 Jan 17;174(2):193-200.
うつ病性障害の小児および青年における抗うつ薬の有効性と、自殺傾向(suicidality)の発現に関するRCT(未発表のRCTを含む)のレビュー
COIについては“Footnotes”に記載あり

<背景>
若年のうつの症状は、成人と同様の症状を有するが、一部においては、落ち込んだりブルーになったりするような「抑うつ気分」がなく、易刺激性を呈することがあったりと、下記のようなさまざまなプレゼンテーションで発現する。
・急な成績の低下(drop in grades)
・友人関係の変化
・社会的な活動への参加の減少(participates in fewer social or recreational activities)
・食生活や睡眠リズムの変化
・疲労、絶望、自殺念慮
など

90%は無治療でも1~2年以内にうつ病エピソードから回復、しかし、40~70%で再発。
小児においては三環系抗うつ薬(TCA)のベネフィットの欠如のため、SSRISNRIの使用が増えている。
自殺行動のリスクへの懸念がある一方で、うつ病を未治療のままとする問題もある。


<結果>
table1

drug n 対象年齢 試験期間 プライマリアウトカム CGI応答率※1
フルオキセチン2004 439 12~17歳 12w CDRS-Rスコア 36.3vs41.7 61%vs35%(p=0.001)
フルオキセチン1997 219 8~18歳 9w CDRS-Rスコア30%減少 65%vs53% 52.3%vs36.8%(p=0.028)
フルオキセチン1997 96 7~18歳 8w CDRS-Rスコア変化 -20.1vs-10.5 56%vs33%(p=0.02)
パロキセチン2001(paroxetine,imipramine) 275 12~18歳 8w HAMDスコア変化 -10.7(paro)vs-8.9(im)vs-9.1(pla) 66%vs52%vs48%
セルトラリン2003 376 6~17歳 10w CDRS-Rスコア40%減少 69%vs59% 63%vs53%(p=0.05)
シタロプラム2004 174 7~17歳 8w CDRS-Rスコア28点以下 36%vs24% 47%vs45%(NS)
パロキセチン 275 13~18歳 12w MADRS50%以上減少 60.5%vs58.2% 69.2%vs57.3%(NS)
パロキセチン 203 7~17歳 8w CDRS-Rスコア変化 -22.6vs-23.4 49%vs46%(p=0.563)
ベンラファキシンvenlafaxine2004 161 7~17歳 8w CDRS-Rスコア変化 -24.3vs-22.6 NS
ネファゾドンnefazodon2002 195 12~17歳 8w CDRS-Rスコア変化 p=0.03 65%vs46%(p=0.005)
エスシタロプラム 264 6~17歳 8w CDRS-Rスコア変化 NS(adolescentsにおいてはCDRS-R有意に改善) 63%vs52%(NS)
ミルタザピン 126 7~17歳 8w CDRS-Rスコア 35.1vs37.2 59.8%vs56.8%(p=0.75)
ミルタザピン 124 7~17歳 8w CDRS-Rスコア 35.4vs38.8 53.7%vs41.5%(p=0.20)

※1 応答率 CGI score "very much" or "much" improved

table2 自殺関連行動の相対リスクrelative risk(95%CI)

drug MDD trial All trial
celexaシタロプラム 1.37(0.53-3.5) 1.37(0.53-3.5)
luvox(フルボキサミン - 5.52(0.27-112.55)
paxil(パロキセチン 2.15(0.71-6.52) 2.65(1.0-7.02)
prozac(フルオキセチン 1.53(0.74-3.16) 1.52(0.75-3.09)
zoloft(セルトラリン 2.16(0.48-9.62) 1.48(0.42-5.24)
effexor XR(ベンラファキシン) 8.84(1.12-69.51) 4.97(1.09-22.72)
remeron(ミルタザピン) 1.58(0.06-38.37) 1.58(0.06-38.37)
serzone(ネファゾドン) no events no events
総計 1.66(1.02-2.68) 1.95(1.28-2.98)

自殺関連行動の平均リスク

抗うつ薬 4%
プラセボ 2%

これらのデータと矛盾する観察研究もあるとして、以下の文献が引用されている
Relationship between antidepressant medication treatment and suicide in adolescents. - PubMed - NCBI
Arch Gen Psychiatry. 2003 Oct;60(10):978-82.
アメリカの観察研究
「青年における抗うつ薬の使用率1%の増加により、年間自殺者10万人あたり0.23人自殺減少」
(→観察研究なので抗うつ薬の投与が直接的に自殺を減少させたかどうかはなんとも言えませんが)



小児/青年への抗うつ薬の使用において、議論となるのが自殺関連行動だと思います。
臨床試験のデータと観察研究のデータの違いについては、抗うつ薬による自殺念慮の増加が必ずしも自殺の完遂とは関連せず、わずかな自殺念慮の増加が自殺の完遂を減らす可能性があると記載されていますが、観察研究の結果を鵜呑みにはできません。有効性がプラセボと差がないのであれば、使う意義があるのか慎重に検討しなくてはいけません。

有効性や自殺行動リスクにおいて、他剤と比べて優れている印象のフルオキセチンはアメリカやイギリスでは小児への適応を持つSSRIですが、日本では発売されていません。
このメタ解析でも名前があがっているSNRIのベンラファキシンが日本でも発売される予定ですが、小児への適応はありません。

小児のうつ病について、治療の幅が広がればよいのですが、ガイドラインなどもなく、治療法が確立されているとはいえないようです。
今後もこのテーマは注目していきたいと思います。


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