pharmacist's record

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酸化マグネシウム(MgO)と血清マグネシウム値

酸化マグネシウム製剤の適正使用の注意喚起がありました。


患者さん向けの注意喚起より抜粋
初期症状

吐き気、嘔吐、立ちくらみ、めまい、脈が遅くなる、皮膚が赤くなる、力が入りにくくなる、体がだるい、眠気でぼんやりする、うとうとする

長期服用、腎臓病、高齢者でとくに注意が必要であり、上記のような初期症状がみられたら早めに受診


MgOの年間使用者は約4500万人、2010年時点で直近3年で15例の高Mg血症の報告あり[1]。

重篤化する前に、初期症状発現時点で高Mg血症に気づいて、早期対応することが大事です。
といっても、これだけ大勢の人が使用しているわけですから、MgO服用患者が上記のような症状が出るたびに受診したとしたら、かなりの患者数になりそうです。めまいや吐き気、倦怠感、傾眠などの非特異的な症状で、すぐに高Mg血症を疑うのは早計かもしれませんが、MgOを服用していたら頭の片隅に置いておく必要はあるかと思います。


<血清Mg値に影響する3つの因子>

①Mg製剤の投与
水溶性マグネシウムクエン酸マグネシウム硫酸マグネシウム)による報告が主で、難溶性のMgOでの報告は限られていたが、近年、高齢者へのMgO長期投与による高Mg血症の報告がみられている[2]。


②吸収
Mgは主に空腸から吸収される。その吸収率は25~65%、血清Mg濃度上昇により吸収率は低下[1]。
潰瘍・出血・炎症などの消化管病変により吸収率が上昇する[1]。
麻痺性イレウスや高度な便秘により、投与されたMg製剤が長期間消化管にとどまることで吸収率が上昇する[1]。便秘が3日以上持続させないといった医療介護も大切である[4]。
高Mg血症そのものが腸の蠕動を停滞させイレウスを助長することもある[1]。

吸収不良症候群・低栄養状態・経口摂取不良といった消化管からの吸収低下により低Mg血症をきたすことがあり、臨床的に高頻度にみられるMg異常は低Mg血症である[2]。


③排泄
血清Mgの約70~80%が糸球体でろ過される[3]。ろ過されたMgの3~5%(80~120mg)が尿に排出される。途中で15~20%は近位尿細管で、50~70%はヘンレ係蹄の太い上行脚で、5~10%が遠位尿細管で再吸収される[4]。
腎機能が正常であれば最大6g/day以上の腎排泄が可能とも言われており、血清Mg濃度が上昇するのは稀だが、Mg製剤により高Mg血症をきたすことがある[1]
慢性腎不全では残存ネフロンによるMg排泄が増加するためCcr20mL/min以下になるまで血清Mgは維持され、より進行した腎不全でも血清Mgは2.4~3.6mg/dLと無症候性の高値となることはあるが、対外からMgが投与されなければ重大な高Mg血症はきたさない[3]。とはいっても、[4]の研究結果では、Mg製剤の投与がなくても、eGFR60未満(とくに30未満)で血清Mg2.7を超えている例もある。高Mg血症は特にGFR30mL/min未満で起こりやすい[4]。
高Mg血症による循環不全や脱水等による一過性の腎機能低下が高Mg血症を助長する可能性がある[1]



<血清Mg値/高Mg血症の症状>
文献[4]を元にした過去の記事を参照
CKD、マグネシウム製剤による高マグネシウム血症 - pharmacist's record

[3]の文献では

血清Mg 症状
4~6mg/dL以上 低血圧、吐き気、嘔吐、顔面紅潮、尿閉イレウス
6~8mg/dL以上 傾眠、昏睡
8~12mg/dL以上 呼吸抑制、腱反射の低下

慢性腎不全における意識障害の原因として尿毒症があるが、意識障害をきたすほどの尿毒症では出血傾向、浮腫、肺水腫、代謝性アシドーシスによる過換気、貧血などの合併症を伴う。このような全身症状を伴わない腎不全の意識障害では尿毒症以外の原因を考える必要があり、Mg製剤の投与があれば高Mg血症も考慮する[3]。



<文献[1]の症例>
37歳女性
主訴:意識障害
MgO3g/day 3か月定期処方
脈拍70/min
BP69/21mmHg
GCS E1VTM1
体温34.5℃
心電図:1度房室ブロック、QT0.65秒に延長
Mg:15.3mg/dL
BUN:9.5mg/dL
Cre:2.3mg/dL

86歳女性
主訴:意識障害
MgO 2g/day 1か月定期処方
脈拍99/min
BP94/27mmHg
GCS E1V1M1
体温37.3℃
心電図:1度房室ブロック
Mg:17.0mg/dL
BUN:30.2mg/dL
Cre:1.1mg/dL

32歳男性
脳性麻痺、MgO2g/day 1か月以上定期処方
主訴:嘔吐、意識障害
呼吸数18/min
脈拍89/min
BP130/95mmHg(→入院直後にSBP80mmHgまで低下)
GCS E1V2M5
体温32.9℃
心電図異常なし
Mg:15.7mg/dL
BUN:38.6mg/dL
Cre:1.3mg/dL

高Mg血症の症状として徐脈が挙げられていましたが、以上3症例のデータを見ていると、脈はむしろ速めとなっています。意識障害をきたすレベルになると、血圧も大幅に下がって、代償的に脈拍が速くなるのかなと思いました。
3例ともMgO服用期間はさほど長くないようであり、また重度な腎不全というわけでもありません、ただ全例頑固な便秘であったとのこと。
この施設では、呼吸・循環・意識に異常がある場合、Mgを測定しているため診断に至ったとのことで、血圧低下、意識障害といった非特異的な症状だけでは高Mg血症を疑うのは困難だとの記述あり。
高Mg血症の診断の難しさを感じました。



<文献[2]の血清Mg値調査データ>
緩和ケアにおいてはオピオイドによる便秘のコントロールにMgOを主体とする緩下剤が用いられている。
対象:緩和ケア病棟入院のがん患者48例(52~91歳、年齢中央値75.5歳)
Mg1.8mg/dL未満の低Mg血症:8例
Mg2.8mg/dL以上の高Mg血症:2例

MgO服用患者のほうが有意にMg高値であったが、臨床症状をきたすほどの異常値ではなかった。
経口摂取が低い患者ではMg低値の傾向あり、がん患者においては栄養不良による低Mg血症のほうがより問題となる可能性あり

Cr≦1.1:平均Mg2.1
Cr>1.1:平均Mg2.3
クレアチニンに関して統計的な有意差はない(詳細なデータの記載なし)

緩和ケア病棟では排便コントロールをきちんと行っており、それが高Mg血症が少なかった可能性が想定される
また、本人承諾による検討のため、比較的状態が良好な患者が多かったことも異常値が少なかった原因と考えられる。
経口摂取低下によるMg低下と、MgOによるMg上昇が相殺された可能性もある。


上記Mg値調査によると、大幅な異常値はみられなかったようで、MgOを投与していても、排便コントロールができており、重度な腎不全がなければ、定期的なモニタリングでMg値の管理は可能なのかな?と思える結果です。


<文献[4]のMg値/eGFRの調査データ>
対象:高齢入院患者1282例(男505、女777 平均年齢80歳)
eGFR(mL/min/1.73m2)と血清Mg値(mg/dL)

eGFR ~30 ~30 30~60 30~60 60~90 60~90 90~130 90~130 130~ 130~
MgO投与 あり なし あり なし あり なし あり なし あり なし
Mg2.7~6.0 75.8% 38.5% 49.0% 28.1% 26.7% 0 29.6% 0 23.1% 0
Mg2.4~2.7 13.8% 23.1% 35.7% 19.9% 45.3% 11% 40.9% 9.4% 30.8% 1.6%
Mg1.5~2.4 10.4% 38.4% 15.3% 71.9% 28% 89% 29.5% 90.6% 46.1% 98.4%
総例数 29 78 98 171 75 154 44 85 26 64

eGFR低下に伴い、Mg高値の割合が増えている。
各群でMgO無しに比較するとMgO服用有で血清Mgは高値。

MgO使用無しの男性22例、平均6.9ヵ月でeGFRが低下し、Mg値は増加

eGFR(mL/min/1.73m2) 65.8→41.0
Mg(mg/dL) 2.13→2.88

Mg製剤の投与がなくても腎機能低下でMg上昇の可能性があると考えられる

MgO服用有(1日1.45g)の女性30例、10か月後、eGFRの有意な低下は見られなかったが、Mg値増加

eGFR(mL/min/1.73m2) 69.1→64.5
Mg(mg/dL) 2.46→3.01

文献[2]では、MgO服用患者4症例の3か月経過後のMg値はほとんど変動がなかったとされているが、上記のようにMgOの連用によりMg値が上昇する可能性もあると考えられる。

高齢入院患者1282例のうち、Mgの最高値はMgO無しで5.2mg/dL、MgO有で5.9mg/dL
MgO服用中でも3日以上便秘症が続く場合、ビサコジルやピコスルファートNaを使用して便秘を改善させたことで、腸管拡張症、腸管運動機能低下等をある程度防ぐことができたと考えられる。


文献[4]は対象人数も多く、参考になると思います。
腎機能とMgO投与がMg値と関連があり、とくに腎機能低下例では、MgOの投与量が増すごとに血清Mg値が上昇しています。
重篤な高Mg血症はなかったようで、便秘が持続しないよう配慮していたことが功を奏した可能性があり、やはりMgO投与中は便秘が持続させないことが大切なようです。


MgO長期服用患者においては、初期症状のチェックだけでなく、便秘持続がなく排便できているかどうかのチェックも大事だと言えます。
他のMg製剤としては水酸化Mgがあります。水酸化Mgと水酸化Alゲルの配合剤(マルファ、マーロックスなど)が制酸剤として用いられており、MgOと併用している場合はより注意が必要かもしれません。


参考にさせていただいた文献はどれも貴重な報告だと思いますので、ぜひ原著に目を通していただくことをお勧めします。

引用文献
[1]JJAAM.2010;21:365-71酸化マグネシウム長期内服による重症高マグネシウム血症の3例
[2]Palliative Care Res 2012;7(2):202-8緩和ケア病棟入院中の患者における血清マグネシウム値について
[3]透析会誌37(2):163~168,2004 高マグネシウム血症により意識障害をきたした慢性腎不全の2例
[4]日老医誌 Vol.48 2011 No.3 P263-270 高齢入院患者の血清マグネシウム値への腎機能障害と酸化マグネシウム投与の影響