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pharmacist's record

日々の業務の向上のため、薬や病気について学んだことを記録します。細心の注意を払っていますが、古い情報が混ざっていたり、記載内容に誤りがある、論文の批判的吟味が不十分であるといった至らない点があるかもしれません。提供する情報に関しましては、一切の責任を負うことができませんので、予めご了承ください。

インフルエンザワクチンは効果がない?

インフルエンザ流行期に備えてそろそろ予防接種を受けようか、という時期になりました。

某新聞にてとりあげられたこの論文を読んでおかなくてはいけませんね。
Effectiveness of Trivalent Inactivated Influenza Vaccine in Children Estimated by a Test-Negative Case-Control Design Study Based on Influenza Rapi... - PubMed - NCBI
PLoS One. 2015 Aug 28;10(8):e0136539.
小児におけるインフルエンザワクチンの効果を検討したケースコントロールスタディ
実施期間:2013年9月~2014年3月
実施場所:国内(群馬、栃木、埼玉、東京、千葉、神奈川、静岡)の22病院
P:外来にてインフルエンザ簡易検査を受けた38度以上の発熱のある生後6ヵ月~15歳の小児(n=4727)
E:インフルエンザワクチン接種あり
C:ワクチン接種なし
O:インフルエンザの発症(簡易検査IRDTにて診断)

ケース:IRDT陽性
コントロール:IRDT陰性

vaccine effectiveness(VE)ワクチンの有効性の定義は「1-ORオッズ比」

オッズ比の計算
(ワクチンありのインフル陽性/ワクチンありのインフル陰性)/(ワクチンなしのインフル陽性/ワクチンなしのインフル陰性)
つまり、
(ワクチンありのインフル陽性×ワクチンなしのインフル陰性)/(ワクチンありのインフル陰性×ワクチンなしのインフル陽性)


すべてのIRDTキットは感度88~100%、特異度94~100%
(※この部分についての引用はPMDAのサイトとなっていますが、感度はもう少し低いのではないかと思います。
Factors influencing the diagnostic accuracy of the rapid influenza antigen detection test (RIADT): a cross-sectional study. - PubMed - NCBI
この横断研究の結果では感度73%、特異度91%となっています。)


<日本におけるワクチン接種量>
6ヵ月~2歳:0.25mL×2回(2~4週間あけて)
3~12歳:0.5mL×2回(2~4週間あけて)
13歳~:0.5mL×1回


<結果>
table2
年齢ごとのインフルエンザ(A型、H1N1、B型)のVE

年齢 VE%(95%CI) サンプル数(ケース/コントロール)
6~11か月 21%(-87to67) 49/166
1~2歳 63%(51to72) 342/803
3~5歳 60%(49to69) 539/675
6~12歳 39%(26to50) 1169/694
13~15歳 22%(-33to54) 182/108

1歳未満と13~15歳の群はサンプル数が少ないので統計的有意差は出にくくなると考えられます。1歳未満はケースの割合がとくに小さく、インフルエンザ罹患のリスクそのものが少ないのでVEが低いのかもしれません。13歳以上でVEが低い理由としては、接種回数が2回から1回に減ることがあげられます。


インフルエンザのタイプ別のVEと、発症12時間以内を除外したVE

発症時間未調整 VE%(95%CI) 発症12時間以上経過のみ限定 VE%(95%CI)
A型 63%(56to69) 67%(59to74)
H1N1 77%(59to87) 85%(65to93)
B型 26%(14to36) 33%(20to45)

発症初期においてはインフルエンザ簡易検査の感度が低くなります。
発症12時間以内を除外したデータではVEが上昇しており、偽陰性が隠れていると推察されます。


インフルエンザによる入院を予防する効果(table4)

入院予防効果(95%CI)
A型 76%(51to88)
H1N1 90%(54to98)
B型 0

入院の原因:肺炎、脳症、喘息など

B型への有効性が低い原因として、
B型は、A型の流行が終わったあと、2月ごろから3月~4月に流行するという特徴があるが、日本の小児は10~11月ごろにワクチンを接種するため、B型の流行期にはワクチンの効果が落ちている可能性がある


この研究結果の解釈において注意すべき点
・乳児と中学生は有効性が確認できないとしているが、他の年齢群に比べてサンプル数が少ない
・38℃以上の発熱をきたして簡易検査を行った患者が対象となっているため、ワクチン接種のおかげでインフルエンザが発症せずに発熱しなかった、あるいは発症したが軽度の発熱で済んだ患者はこの研究の対象とならない。
・簡易検査陽性をケース、陰性をコントロールとしているが、簡易検査の感度は高くないので、コントロール群の中に、実はインフルエンザだったという症例があると考えられる

ケースコントロールスタディなので有効性の評価には限界があるのかもしれません。
ちなみにVEの定義は(1-オッズ比)なのでVEの数値が直接のリスク減少割合を意味するわけではないという点も解釈に注意が必要です。
(リスク比とオッズ比は意味が異なる →オッズ比とリスク比の違い - pharmacist's record)。



こちらは別の研究結果。
Concurrent and cross-season protection of inactivated influenza vaccine against A(H1N1)pdm09 illness among young children: 2012-2013 case-control e... - PubMed - NCBI
Vaccine. 2015 Jun 9;33(25):2917-21
1:1でマッチしたケースコントロールスタディ
インフルエンザH1N1に対する3価不活化ワクチンの予防効果(VE)を検討(2012~2013年)
<結果>
8ヵ月~6歳:VE67%(58-74%)
8ヵ月~35ヵ月:部分ワクチン接種のVE55%(33-70%)、ワクチン接種完遂のVE73%(60-81%)

著者名から察するに中国の研究でしょうか。
アブストしか読めませんが、8ヵ月~2歳で予防効果を確認できたようです。


Children, the Flu, and the Flu Vaccine | Seasonal Influenza (Flu) | CDC
CDCは生後6ヵ月以上において季節性インフルエンザワクチンの接種を推奨
6ヵ月~18歳の小児において、以下の慢性疾患のある場合はハイリスク
・喘息
発達障害てんかん脳卒中など脳や脊髄の障害
・慢性肺疾患
・心疾患
・血液障害
・糖尿病などの内分泌疾患
・腎障害
・肝障害
・遺伝性代謝疾患
HIV、がん、長期ステロイド投与など免疫低下
・長期アスピリン療法

小児は毎年ワクチンを受ける必要があるとし、2回投与が必要な子供たちは早めに接種。効果がでるのに2週間程度かかるので、流行期に入る前に接種しましょう、といったことが記載されています。



少なくともPLoS Oneに掲載された論文で、6か月以上の乳児と中学生にインフルエンザワクチンを推奨しないとするには、根拠としての威力がちょっと弱いかなという印象です。PLoS Oneの文献をもとにした某新聞記事はちょっと誤解を生む内容でしたね…。メディアを鵜呑みにせず、原著論文に目を通す重要性を再認識しました。

インフルエンザワクチンは強制ではないですし、接種しないという選択肢をとるのも個人の自由ですが、自分は今年も受ける予定です。
正直なところ自分がインフルエンザにかかるのは別にいいかなと思っているのですが、それなのに何故予防接種を受けるかというと、自分が感染しないことで周りの人に感染させないことが大事だと思っているからです。

病院や薬局には免疫抑制薬を服用している患者さんもいらっしゃいます。リスクの高い患者さんを守るためには、効果が小さいかもしれないとはいえ医療従事者は予防接種を受けたほうが良いのではないでしょうか。


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