pharmacist's record

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かぶれにくい経皮吸収型硝酸薬は? かぶれを防ぐ方法は?

狭心症の治療薬として、経皮吸収製剤の硝酸薬が広く用いられています。

経口投与と比べて、頭痛などの副作用の軽減が期待出来ますが、貼付部位の皮膚症状(かぶれ)が問題となることがあります。

経皮吸収型製剤による接触性皮膚炎
症状:貼付した部位の赤みとかゆみ。軽度なら淡い紅斑、ひどくなると赤みが増して丘疹ができたり、水疱ができる

大きく2分類

刺激性皮膚炎 貼付部位にのみ症状出現、正常皮膚との境界は明瞭
アレルギー性皮膚炎 貼付部位を越えて広範囲に出現することあり、丘疹や水ぶくれを伴うことあり

頻度 接触性>アレルギー性



では、経皮吸収型の硝酸薬の各製剤間で、かぶれの頻度に差があるでしょうか

Relationship between Skin Irritation and the Amount of Stripped Stratum Corneum following the Use of Adhesive Tape for the Treatment of Ischemic Heart Disease
Jpn J Hosp. Pharm vol.24 No5(1998)526-532
経皮吸収型硝酸薬の皮膚症状について比較検討

ランダム化について:“無作為”との記載があるが、どこまで厳密か不明。準ランダム化?
オープンラベル
参加者:各薬剤が処方されてる65歳以上の患者60名(皮膚疾患やアレルギー症状がないことを口頭で確認)
角質剥離量の測定にトーアエイヨーが協力したとの記載あり(これをCOIといえるのかわかりませんが)

イソソルビド製剤 フランドルテープS(FDS):アクリル系粘着剤、軟化剤あり
ニトログリセリン製剤 ニトロダームTTS(TTS):シリコン系粘着剤
ニトログリセリン製剤 ミニトロテープ(MMT):アクリル系粘着剤

貼付部位はすべて胸部で統一

調査方法:使用済み貼付剤とアンケート用紙を郵送で回収
回収人数:FDS15名/20名、TTS16名/20名、MTT14名/20名
 

アンケート用紙の内容

貼付中のかゆみ
剥離直後の赤み・かぶれ
剥離1時間後の赤み・かぶれ
剥離24時間後の赤み・かぶれ
回収した貼付剤より、角質剥離量を測定
貼付剤の粘着力を測定


<結果>

剥離後の赤み・かぶれ

製剤 剥離直後 1時間後 24時間後
FDS 20% 13% 5%
TTS 55% 45% 25%
MTT 70% 65% 40%


角質剥離量と粘着力

製剤 角質剥離量(単位面積あたりの吸光度) 粘着力g/12mm
FDS 0.1 49.7
TTS 0.9 124.8
MTT 1.1 379.1

<考察>
・皮膚の角質層の再生に約2週間かかるため、皮膚刺激はコンプライアンス低下につながる。
・臨床治験時の皮膚刺激発現率は、FDS:接触皮膚炎3.3%、TTS:発赤8.2%、MTT:発赤13.5%だったが、実際はかぶれの頻度はもっと高い可能性あり
・剥離後24時間経っても皮膚刺激を訴えるケースがみられ、薬物の残留は考えにくく、粘着剤による角質剥離が皮膚刺激と相関する。
・粘着力と角質剥離量は必ずしも相関していないことから、軟化剤の添加による角質剥離量の減少の可能性もある(プラセボの同一貼付剤で軟化剤が入っているほうが粘着力が弱く、角質剥離量が少なかったという報告あり)。



個人的にはかぶれを訴えるケースはそんなに多くないようにも思います(訴えるほどではない軽度の発赤は思った以上にあるのかもしれませんが)。ただ、皮膚のバリア機能の落ちている高齢者ではかゆみを訴え、使用困難となるケースもあります。高齢者では乾燥が要因となりますので保湿によりかぶれの防止が期待できます。
(貼付剤による汗の蒸散性や通気性の低下からの皮膚の蒸れによっておこるかゆみもある。)


貼付剤のかぶれの予防

<使用法>
繰り返し同じ部位に貼らずに毎回貼る部位をずらす

<角質水分量>
若年者:角質層の水分量が多く、弾力に営んでいる
高齢者:皮脂減少により水分量低下。バリア機能が落ちている

角質水分量は環境の湿度や発汗により上昇。表面からの蒸発(TEWL)により減少。
運動の習慣がある人は角質水分量が高いという報告あり。
高齢者は発汗機能も落ちる。服用薬剤による発汗低下の可能性もある

<保湿剤>

ヘパリン類似物質 水分保有作用による高い保湿効果。血行促進作用あり。ベタつきが少ない。刺激性は弱いが傷やヒビ割れには不適
尿素製剤 水分保有作用による保湿効果、角質をやわらかくする効果あり。ベタつきが少ないが、刺激性はヘパリン類似物質より高い
ワセリン 油脂成分が皮表に膜を張り水分の蒸散を防ぐ。皮膚刺激性はない

ヘパリン類似物質が標準薬として用いられている。

貼付剤を貼る予定の部位全体(胸部・腹部・背部など)に保湿剤を塗布し、十分な保湿を行うことでかぶれの改善が期待できる
認知症治療薬のリバスチグミンパッチによる皮膚症状が貼付1週間前からの保湿剤塗布で改善したという報告あり 日本早期認知症学会誌 6:98-102,2013)

かぶれてしまった場合は?
ストロングクラスのステロイド外用剤(リンデロンなど)を使用。漫然と長期使用せず、短期間にとどめる(1週間程度で改善しなければ皮膚科専門医への相談も検討)。剤形は皮膚刺激が弱い軟膏が望ましい。



硝酸薬はできれば全身性副作用の懸念が少ない貼付剤で治療続行したいですが、皮膚症状は大敵といえます。
製剤間の比較については、新しい文献が見つからず、1998年のとても古い文献を取り上げました。少人数の比較試験で、無作為にと記載がありますが各グループの詳細が不明(平均年齢などが異なるかも)、アンケート回収率は7~8割程度、メーカーさんも協力しており、ある程度差し引いて考える必要はありそうですが、フランドルテープがかぶれにくいという結果になっています。

狭心症貼付剤はかぶれるから実は使っていないというような患者さんもいるかもしれないので、肌が乾燥しているとかぶれやすくなるので保湿の重要性も指導していきたいと思います。