高齢者の栄養評価法として、Mini Nutritional Assessment(MNA)簡易栄養状態評価表が知られています。
MNAとは
スクリーニング(MNA-Short Form)
過去3ヶ月の食事量減少 | 0~2点 |
過去3ヶ月の体重減少(カットオフ-1g,-3kg) | 0~3点 |
自力歩行 | 0~2点 |
過去3ヶ月の急性疾患・精神的ストレス | 0,2点 |
神経・精神的問題の有無 | 0~2点 |
BMI(カットオフ19/21/23) | 0~3点 |
スクリーニングの総点数14点
スクリーニング+アセスメント(MNA)
より詳細な評価をするには、上記スクリーニング計14点と、以下のアセスメント項目をあわせて計30点で評価
ADL、服用薬、食事(水分、たんぱく、野菜・果物、食事回数)、上腕・ふくらはぎの周囲など |
MNA-SFとMNAスコアの低栄養評価は以下のとおり
MNAスコア(計30点) | MNA-SFスコア(計14点) | |
栄養状態良好 | 24~30 | 12~14 |
低栄養のおそれあり | 17~23.5 | 8~11 |
低栄養 | ~16 | ~7 |
MNA-Short Formは施設入居者の死亡率の予測因子となる可能性あり
The Mini Nutritional Assessment-Short Form and mortality in nursing home residents--results from the INCUR study. - PubMed - NCBI
J Nutr Health Aging. 2015 Apr;19(4):383-8
INCUR studyの二次解析(前向きコホート、1年間追跡)
対象:フランスの施設入居者773名(女性率74.4%、平均年齢86.2歳、平均MNA-SFスコア9.8)
MNA-SF
12~14:25.6%
8~11:58.7%
1年間追跡で17.5%が死亡
MNA-SF総スコアは死亡率の予測因子 ハザード比0.83(95%CI 0.75-0.91; p<0.001)
体重減少・食事量減少・最近のストレス・BMIも独立した死亡の予測因子
元のstudyはこちら
Nutritional status and the incidence of pneumonia in nursing home residents: results from the INCUR study. - PubMed - NCBI
J Am Med Dir Assoc. 2014 Aug;15(8):588-92
施設入居者の栄養状態と肺炎の関連を調べたINCUR study
フォローアップ1年の前向きコホート
<結果>
MNA-SF総スコアは肺炎の発生率を予測できず
7項目のうちの1つ「decreased mobility(自立歩行の減少)」については肺炎のリスク因子 ハザード比2.289(95%CI 1.357-3.860)
低栄養は肺炎発症のリスクとなるのではないかと思いますが、INCUR studyにおいてMNA-SFは発生率予測にはならなかったようです。
※医療・介護関連肺炎(NHCAP)診療ガイドラインにおいては、「低栄養状態は高齢者の肺炎のリスクであり,適切な栄養管理を検討する(エビデンスレベルⅠ)」となっており、栄養状態の改善は肺炎予防に重要だと考えられています
Mini nutritional assessment and 10-year mortality in free-living elderly women: a prospective cohort study with 10-year follow-up. - PubMed - NCBI
Eur J Clin Nutr. 2012 Sep;66(9):1050-3
MNA総スコアと死亡率の関連を評価した10年フォローアップの前向きコホート
対象:スウェーデンの高齢女性351名(入院や施設入居者ではなく一般居住を対象)
<結果>
MNAスコア23.5以下(低栄養リスク)vs23.5以上(栄養状態良好)
ハザード比2.36(95%CI 1.25-4.46)
MNAスコアは施設入居者だけでなく一般に暮らしている高齢者においても死亡率の予測因子となると結論
というわけで、やはり「食べる」ことは大事ということですね。
(例)仮想患者
半年で5kg痩せてしまった寝たきり(意識は良好)の80歳の男性(身長160cm、体重45kg)
【基礎代謝量】
harris-benedict式
男性:66+13.7×体重(kg)+5.0×身長[cm]-6.8×年齢
女性:665+9.6×体重(kg)+1.7×身長[cm]-7.0×年齢
【エネルギーの必要量】
①基礎代謝量×活動係数×ストレス係数
活動係数
寝たきり | 1.0~1.2 |
ベッド外活動あり | 1.3~1.4 |
一般職業従事 | 1.5~1.7 |
ストレス係数
ガン、COPD、感染症、外傷、発熱など | 1.2 |
手術 | 1.1~1.8 |
②簡便法:体重×25~30(高齢者は25?)
【体重とエネルギー量の関係】
体重1kgの減少=約7,000kcalのエネルギー喪失(健康づくりのための運動指針2006より)
では、(例)の栄養状態を計算してみます。
80歳の男性(身長160cm、体重45kg)ですから、
BMI17.5
基礎代謝はharris-benedict式で945kcal
寝たきりで活動係数は1.1(患者さんの状態によっては1.2でも良い?)
必要エネルギー量は1040kcal(痩せる前の通常体重で計算すると1114kcal)
簡易法で計算すると(×25で計算)
現体重で計算:1125kcal
痩せる前の通常体重で計算:1250kcal
半年で5kg減少ということで、1日約200kcal程度、食事量が不足していたと考えられ、1日の摂取量は1000kcalを下回っていたのではないかと思われます。
必要エネルギーは計算式によりまちまちですが、だいたい1000~1100kcalでしょうか。体重を増やすには、通常体重で計算した1100~1250kcal、もしくは、半年くらいかけて通常体重に戻すのを目標に必要エネルギー+200kcalということで、1200~1300kcalを目安とするか……。
このあたりの計算はあくまで目安にすぎないと思いますので、患者さんの状態を見ながらコントロールしていくことになるのではないかと思います。さらに必要たんぱく量やビタミン、微量元素なども検討する必要があり、とても難しいです。
※たんぱく質:推奨量 70歳以上の男性60g/女性50g(2010年の食事摂取基準より)0.85~1.0g/kg程度という説もある。腎不全患者では注意が必要。
栄養管理については栄養士さんにお任せするのが一番ですが、コメディカルとしても、必要なエネルギー量はだいたいこれくらいかなといった大まかな数値は把握できるようになりたいと思います。
食欲が低下したり嚥下機能が落ちたりするような薬が漫然投与されてないか服薬状況のチェックも必要ですし、入れ歯があわなくなって食べづらいといった食事量低下につながる問題も発生していたりすることもあるので、さまざまな視点からの管理が必要だと思います。