pharmacist's record

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フッ化ナトリウムは虫歯に効く?

要指導医薬品で、虫歯予防の洗浄液が発売となったようです
虫歯になるのは嫌なので、洗口するだけでリスクが減るなら使ってみようかな、なんて思ったりして。
ちょっと調べてみたいと思います。

フッ化ナトリウム(エフコート)

適応:虫歯予防
適応対象外:4歳未満、うがいができない、過敏症、すべて人工歯[入れ歯、差し歯、インプラント]→人工歯には効果無し(ただし部分入れ歯などでは有効)
フッ化物イオン濃度:225ppm(フッ化ナトリウム0.5mg/mL、1本250mL中にフッ化ナトリウム125mg含有)
用法:1日1回食後or寝る前 30秒~1分洗口(ガラガラではなくブクブクと口の中を洗浄)。洗口後30分は飲食しない。
用量:4~5歳(5mL)、6歳以上(7~10mL)
作用:フッ化物は歯のエナメル質の再石灰化を促し、歯を強くする。酸に溶けにくくする。
味:洋梨フレーバー
誤飲:少量誤飲しても通常心配はない。嘔吐、腹痛がみられたらコップ1~2杯の牛乳か水を飲み、医師か薬剤師へ。


DIはこんな感じ。

では、ここからが本番。
いつものとおり、PubMedで検索してみます。
Fluoride mouthrinses for preventing dental caries in children and adolescents. - PubMed - NCBI
Cochrane Database Syst Rev. 2003;(3):CD002284.
古い報告ですが、タイトルはズバリ「小児・青年に対するフッ化物洗口液の虫歯予防の有効性」です。
背景:フッ化物洗口液は学校のプログラムで虫歯防止介入として家庭で広く使用されてきた。
RCTもしくは準RCT※のメタ解析
P:16歳までの小児
E:フッ化物洗口液 1年以上
C:無治療またはプラセボ
O:虫歯の増加、虫歯未処置・処置済・喪失した歯の表面数(D(M)FS)

※quasi-randomized controlled trial:準ランダム化比較試験。コイン投げ、くじ引き、曜日、誕生日、カルテ番号、交互などでランダム割付

<結果>
D(M)FSの予防率:26%(95%CI 23%-30% p<0.0001) 
D(M)FSが年間0.25増加する集団では、D(M)FSが1増加するのを防ぐNNTは16
D(M)FSが年間2.14増加する集団では、D(M)FSが1増加するのを防ぐNNTは2



Fluoride toothpastes of different concentrations for preventing dental caries in children and adolescents. - PubMed - NCBI
Cochrane Database Syst Rev. 2010 Jan 20
こちらはフッ化物の歯磨き粉の虫歯予防の文献ですが、濃度ごとに効果の違いを調べています。
P:16歳までの小児
E:フッ化物歯磨き粉、1年以上
C:プラセボ
O:虫歯の増加、ベースラインからのD(M)FSの変化

<結果>

440/500/550ppm 1000/1055/1100/1250ppm 2400/2500/2800ppm
D(M)FS予防率 統計的に有意差なし 23%(95%CI 19%-27%) 36% (95%CI 27%-44%)

有害事象を評価した研究は少なく、報告のあった研究では、有害事象に差はなく、軟部組織の損傷や歯の着色などの報告はほとんどなかった。

歯磨き粉の文献ですが、フッ化物の効果は濃度依存性のようです。
低濃度では有意差が出なかったようで、濃度の検討が難しいようです。


国内新発売の洗口液は225ppm
歯磨き粉のように最後に水ですすがないため、低濃度で効果がみられるということでしょうか。


ちょっと、最初にとりあげた「Fluoride mouthrinses for preventing dental caries in children and adolescents.」の文献の各スタディのフッ化物洗口液の濃度を調べてみたいと思います(ネットでフルテキストのPDFも落ちてました)。

試験 用法用量 予防率Prevented fraction(95%CI)
Ashley 1977 100ppm/daily 14%(1% to 27%)
Bastos 1989 900ppm/weekly 28%(18% to 39%)
Blinkhorn 1983 230ppm/d 24%(11% to 38%)
Brandt 1972 900ppm/twice/w  
Craig 1981 900ppm/fortnightly(隔週) 32%(-4% to 67%)
de Liefde 1989 900ppm/fortnightly
DePaola 1977 1000ppm/d 42%(32% to 51%)
DePaola 1980 230ppm/d 22%(5% to 38%)
Driscoll 1982 230ppm/d,900ppm/w 38%(21% to 54%)
Duany 1981 100ppm,225ppm,450ppm 13%(-5% to 31%)
Finn 1975 100ppm/twice a day 17%(4% to 29%)
Gallagher 1974 1800ppm/w 14%(5% to 23%)
Heidmann 1992 900ppm/fortnightly 5%(-19% to 30%)
Heifetz 1973 3000ppm/w 32%(20% to 45%)
Heifetz 1982 230ppm/daily,900ppm/weekly 35%(20% to 50%)
Horowitz 1971 900ppm/w 16%(-17% to 50%)
Horowitz 1971a 900ppm/w 43%(19% to 68%)
Koch 1967 2250ppm/fortnightly 23%(13% to 34%)
Koch 1967a 2250ppm/3 times a year 25%(9% to 41%)
Koch 1967b 230ppm/3 times a year 2%(-21% to 25%)
Laswell 1975 200ppm/daily,1000ppm/weekly 35%(10% to 60%)
McConchie 1977 200ppm,100ppm/daily 18%(7% to 29%)
Molina 1987 900ppm/w 30%(16% to 44%)
Moreira 1972 450ppm/3 times a week,weekly,fortnightly 17%(-6% to 39%)
Moreira 1981 900ppm/w 25%(8% to 42%)
Packer 1975 200ppm/d,1000ppm/w 35%(6% to 64%)
Petersson 1998 200ppm/6times a year 14%(-30% to 59%)
Poulsen 1984 900ppm/fortnightly 12%(-10% to 34%)
Radike 1973 250ppm/d 33%(22% to 44%)
Ringelberg 1979 250ppm/d 23%(7% to 39%)
Ringelberg 1982 230ppm/d,900ppm/d,230ppm/w,900ppm/w 22%(6% to 39%)
Rugg-Gunn 1973 230ppm/d 36%(27% to 44%)
Ruiken 1987 900ppm/w 33%(16% to 49%)
Spets-Happonen 1991 180ppm/5 days every 3 weeks 26%(-17% to 70%)
Torell 1965 230ppm/d,900ppm/fortnightly 35%(26% to 43%)
van Wyk 1986 900ppm/w,230ppm/w 30%(20% to 40%)

200~250ppm連日投与で有効性が期待できそうです。
まあ、高濃度で週1回使用のほうが楽かなぁとも思いますが、今回発売の製品は連日投与です。

ただやはり小児へも適応が通っているので、誤飲には厳重な注意が必要です。お子様が使用しないとしてもご自宅に置いてあれば誤飲の恐れはあります。
日本中毒センターによると、
中毒量:フッ化物として約5~10mg/kg、消化器症状は約3~5mg/kg
商品のボトルはお子様の手の届かないところに保管したほうが良いと思います。