pharmacist's record

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COPD急性増悪を防ぐには?

研修のディスカッションにて、COPDに対してクラリスロマイシンが予防的に投与されている処方がありました。
その効果について調べてみたくなり、文献を検索。

Macrolide therapy decreases chronic obstructive pulmonary disease exacerbation: a meta-analysis. - PubMed - NCBI
Respiration. 2013
マクロライド長期投与(2週間以上)のCOPD増悪抑制効果を検討した6RCT(n=1485)のメタ解析
アウトカムは評価期間の急性増悪の頻度
<結果>
COPD急性増悪の頻度 RR0.62(95%CI 0.43-0.89 p=0.01)
非致死的有害事象 RR1.32(95%CI 1.06-1.64 p=0.01)
<サブ解析>
各薬剤(erythromycin:p=0.04, azithromycin:p=0.22, clarithromycin:p=0.18).
投与期間:3か月(p=0.18)、6か月(p=0.009)、12か月(p=0.03)

COPD急性増悪の頻度の減少にマクロライド長期療法(6か月以上)が有効と結論


Prophylactic antibiotic therapy for chronic obstructive pulmonary disease (COPD). - PubMed - NCBI
Cochrane Database Syst Rev. 2013 Nov
COPD患者に対する抗生剤の予防的投与の急性増悪を減少させるか、QOLへの影響はどうかを検討したメタ解析
選定基準はCOPD患者への予防的抗生剤投与とプラセボを比較したRCT(7RCT,n=3170)
平均年齢:66歳
重症度:中等度~
試験期間:3~36か月
抗生剤:アジスロマイシン、エリスロマイシン、クラリスロマイシン、モキシフロキサシン

<結果>
3 studies, 1262 participants, high quality

抗生剤予防的投与 プラセボ OR NNTb
COPD急性増悪を起こした患者数 54% 69% OR 0.55(95%CI 0.39-0.77) NNTb=8
急性増悪の頻度 RR0.73(95%CI 0.58-0.91)

有害事象
アジスロマイシンによる難聴、モキシフロキサシンによる胃腸障害など

耐性化の懸念についても言及あり。


介入群、対照群ともに増悪の頻度が多い印象。
患者背景は比較的重症なのかなと思われます。
この文献からは、軽度のCOPDに抗生剤の予防的投与が推奨されるとはいえないかと思います。


カルボシステインCOPDの急性増悪に有効だっという文献が報告されています。
Effect of carbocisteine on acute exacerbation of chronic obstructive pulmonary disease (PEACE Study): a randomised placebo-controlled study. - PubMed - NCBI
Lancet. 2008 Jun PEACE Study
COPDの急性増悪に対するカルボシステインの効果を検討したDB-RCT
P:中国のCOPD患者709名(22施設)選定基準として①FEV1/FVCが70%未満 ②FEV1:25%~79% ③40~80歳 ③2年以内に少なくとも2回のCOPDの増悪の既往があったが、研究の前に4週間以上安定
E:カルボシステイン1500mg/日(n=354)
C:プラセボ(n=355)
O:年間増悪率<結果>

カルボシステイン プラセボ リスク比(95% CI)
年間増悪回数 1.01 1.35 RR0.75 (0.62-0.92 p=0.004)

喫煙や吸入ステロイドの使用とは無関係に有効であった。
カルボシステインの忍容性は良好

有害事象はとても少ない薬なので、痰の絡みの訴えのある患者さんにおいては長期の継続投与もありかなと思います。


COPDの急性増悪の予防についての詳細はこちら
CHEST Journal | Article
ACCP/CTSガイドライン
(1)COPD患者においては医学的管理の一環として23価の肺炎球菌ワクチンの投与を提案するが、COPD急性増悪を防ぐ十分なエビデンスは見当たらない。(Grade 2C)
となっているものの、一般的な健康のため肺炎球菌ワクチンは高い価値があるとし、COPD患者に推奨すると記載されています。

(2)COPD患者に対する急性増悪の予防として毎年インフルエンザワクチンを受けることを推奨する(Grade 1B)
こちらはCOPDの患者を含めて、すべての成人に推奨と記載。

(3)COPD患者の急性増悪を防ぐための包括的な臨床戦略として、禁煙カウンセリング・禁煙治療を提案(Grade 2C)
禁煙による咳や痰の減少、喫煙が肺炎と関連など、禁煙のメリットが示唆されています。まあ、当たり前ですよね。COPDは禁煙は必須です。

(4)4週以内にCOPD急性増悪を起こした中等度~最重度のCOPD患者では急性増悪を防ぐため、呼吸リハビリテーションを行うことを推奨(Grade 1C)
入院リスクを減らすと示唆されているようです。

(5)COPD急性増悪4週以上経過後の中等度~最重度のCOPDに対する急性増悪防止のための呼吸リハビリテーションは支持していない(Grade 2B)

(6)~(11)省略 患者教育やマネジメントについて

(12)【LABA>プラセボ】中等度~重度のCOPD患者の中等度~重度の急性増悪防止としてLABAの使用はプラセボと比較して推奨される(Grade 1B)
急性増悪のリスク減少、肺機能の向上が示唆。重篤な有害事象や死亡率の増加について有意な差はないとのこと。

※中等度の急性増悪:経口ステロイドや抗生剤が必要
※重度の急性増悪:入院が必要

(13)【LAMA>プラセボ】中等度~重度のCOPD患者の中等度~重度の急性増悪防止としてLAMAの使用はプラセボと比較して推奨される(Grade 1A)
急性増悪のリスク減少、肺機能の向上。プラセボと比較してCOPD入院リスク減少(すべての原因による入院では統計的有意差はない)。重篤な有害事象や死亡率の増加について有意な差はないとのこと。

(14)【LAMA>LABA】中等度~重度のCOPD患者において、中等度~重度の急性増悪防止としてLABAと比較してLAMAの使用が推奨される(Grade 1C)
非致死的な有害事象がLABAよりLAMAのほうが少ない。ただし1日1回投与の新規のLABAでは当てはまらない可能性あり。

(15)【SAMA>SABA】(Grade 2C)
(16)【SAMA+SABA>SABA】(Grade 2B)
(17)【LABA>SAMA】(Grade 2C)
(18)【LAMA>SAMA】(Grade 1A)
(19)【SAMA+LABA>LABA】(Grade 2C)
詳細省略
→SABAは呼吸困難時に頓用で用いられることがありますが、SAMAは国内ではあまり使われないような印象です。

(20)【ICS+LABA>プラセボ】安定~最重度のCOPD患者において、急性増悪を防ぐため、ICS/LABA(ICS単独は除外)の使用はプラセボと比較して推奨される(Grade 1B)
口腔カンジダ症、嗄声発声障害、肺炎のリスクについて言及がありますが、そのリスクより急性増悪を防止する価値のほうが高いとされています。

(21)【ICS+LABA>LABA】安定~最重度のCOPD患者において、急性増悪を防ぐため、ICS/LABAの併用はLABA単独よりも推奨される(Grade 1C)

(22)【ICS+LABA>ICS】安定~最重度のCOPD患者において、急性増悪を防ぐため、ICS/LABAの併用はICS単独よりも推奨される(Grade 1B)
COPDに対するICS単独投与は支持していないとのこと。国内でもICS単独投与は適応が通っていません。

(23)安定したCOPD患者の急性増悪予防に、吸入抗コリン薬/LABA併用または吸入抗コリン薬単独投与が有効であるため推奨される(Grade 1C)

(24)安定したCOPD患者の急性増悪予防に、ICS/LABA併用または吸入抗コリン薬単独が有効であるため推奨される(Grade 1C)

(25)安定したCOPD患者の急性増悪予防に、ICS/吸入抗コリン薬/LABA併用または吸入抗コリン薬単独が有効。(Grade 2C)

(26)最適な吸入療法にもかかわらず、前年に1回以上の中等度~重度の急性増悪の既往のある中等度~重度のCOPD患者において、COPDの急性増悪を防止するためにマクロライド長期療法を提案する(Grade 2A)
マクロライドの最適な投与量や投与期間については不明、また処方医はQT延長や聴力障害、耐性菌について考慮が必要。

(27)COPDの急性増悪をきたしたCOPの外来患者or入院患者において、経口もしくは静脈内投与によるステロイド全身投与は初回の増悪後30日以内の入院の防止効果が示唆される(Grade 2B)
ステロイドの全身投与が初期増悪後30日間を越えての急性増悪の減少は示されておらず、高血糖・体重増加・感染症骨粗しょう症・副腎抑制のリスクが上回る。

(28)COPDの急性増悪をきたしたCOPの外来患者or入院患者において、COPD急性増悪後30日間を越えての、その後の増悪による入院防止として、ステロイド全身投与は推奨されない(Grade 1A)

(29)慢性気管支炎と、前年に1回以上の急性増悪のあるCOPD患者において、COPD急性増悪防止のためロフルミラストの投与が提案される(Grade 2A)
ロフルミラスト:H27.9時点で国内未承認の経口PDE4阻害薬です。気道の炎症を抑制する作用があります。Lancetに載ったREACT試験にてCOPD増悪防止の効果が示唆されました。

(30)安定したCOPD患者において、COPD急性増悪を防止するため、経口徐放性テオフィリン製剤(分2投与)の投与が提案される(Grade 2B)
海外でもテオフィリンの使用は減っているのではないかと思っていましたが、一応ガイドラインに載っているようです。ただし、有効最小用量を用いて、血中濃度モニタリング、喫煙による血中濃度変動についての患者指導など注意事項が記載されています。

(31)過去2年以内に2回以上の急性増悪の既往のある中等度~重度のCOPD患者の急性増悪防止のため経口N-アセチルシステインの投与が提案される(Grade 2B)
経口薬は国内で販売されていません(アセチルシステイン内用液はアセトアミノフェンの解毒薬としての適応)。アセチルシステイン吸入液(ムコフィリン)は気道粘液溶解剤として使用されています。N-アセチルシステインは抗酸化作用も有しているとされ、COPD急性増悪を抑制が示唆(PANTHEON試験)。有用な薬であれば、今後国内でも販売されるかもしれませんが、開発に名乗り出るメーカーさんがいるかどうかはなんとも言えません。

(32)COPD急性増悪を防止する治療がなされているにもかかわらず、急性増悪が続く、安定したCOPD外来患者において、増悪予防として経口カルボシステイン療法が利用可能(Ungraded Consensus-Based Statement)

(33)COPD急性増悪のリスクのある中等度~重度のCOPD患者において、急性増悪を防止するためにスタチンを使用することは推奨されない(Grade 1B)



ところどころ英訳が怪しいです。すみませんが、できれば原著をご参照ください。
「suggest」「recommend」と2つの表現が多用されていますがrecommendのほうが推奨度が強いという解釈で良いかなと。suggestは提案・示唆といった意味で、使ってもいいよ、という印象でしょうか。

国内のガイドラインではLAMAとLABAが横並びになりましたが、ACCPの急性増悪防止のガイドラインでは、LAMAのほうが推奨度が上のようです。

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