pharmacist's record

日々の業務の向上のため、薬や病気について学んだことを記録します。細心の注意を払っていますが、古い情報が混ざっていたり、記載内容に誤りがある、論文の批判的吟味が不十分であるといった至らない点があるかもしれません。提供する情報に関しましては、一切の責任を負うことができませんので、予めご了承ください。

クラビット適応追加:結核(でも"結核疑い"に投与するのは危険?)

クラビット(レボフロキサシンLVFX)が以下のとおり適応追加となりました。
適応菌種:結核
適応症:肺結核及びその他の結核
用法:結核については原則として他の結核薬と併用
重要な基本的注意:抗結核薬との併用による肝障害に注意

※肺結核の症状:咳(3週間以上)、血痰、発熱、食欲不振、倦怠感など。寝汗も特徴的な症状。

結核の疑いがあり呼吸器症状を呈している患者に、結核の確定診断はまだついてないけど、LVFXが結核に効果があるなら抗生剤の選択としてLVFXが良い」なんて誤解を招かないだろうかと心配をしてしまうのは自分だけでしょうか…。さすがにそんなことはありえないと思いますが。


Use of fluoroquinolone antibiotics leads to tuberculosis treatment delay in a South African gold mining community. - PubMed - NCBI
Int J Tuberc Lung Dis. 2011 Jan
レトロスペクティブコホート研究
結核の治療の遅れと、診断前のフルオロキノロンの投与の影響を解析
キノロンの暴露により、
結核患者の検査陽性率が低下:OR 0.27(95%CI 0.11-0.63)
結核の治療が遅れる:Time Ratio 2.02(95%CI 1.19-3.44)


結核疑いで総合病院に搬送された患者が、事前にキノロンを投与されていて、検査で検出できずに、何度も検査をしてやっと診断がついたといった事例を聞いたことがありますが、キノロンを投与してしまうと結核の陽性率が大幅に低下してしまいますので診断の遅れに繋がります。


Empirical treatment with a fluoroquinolone delays the treatment for tuberculosis and is associated with a poor prognosis in endemic areas. - PubMed - NCBI
Thorax. 2006 Oct
2002年~2003年に結核と診断された14歳以上の患者を検討
フルオロキノロン(FQ)、フルオロキノロン以外の抗菌薬、抗菌薬投与なしの3群にわけて解析

FQ(n=79) non-FQ(n=218) 抗菌薬なし(n=251)
初診から結核治療までの期間(day) 41 16 7
結核検査から結核治療までの期間(day) 25 7 0
完治 41(51.9%) 133(61.0%) 198(78.9%)
死亡率 23(29.1%) 45(20.6%) 15(6.0%)

フルオロキノロン投与により52名(65.8%)の患者が臨床症状が改善したとのことですが、結核の診断は遅れてしまうという結果です。
基礎疾患のないFQ群はもう少し予後が良くなっていますが、抗菌薬投与なしと比較すると予後が悪いです。

予後悪化因子(多変量解析)

ハザード比(95%CI) ハザード比(95%CI)(基礎疾患のない患者だけで解析)
FQ 2.39(1.20 to 4.76) 4.22 (1.01 to 11.82)
non-FQ no data 1.36 (0.33 to 5.56)
年齢 >65歳 4.13(2.3 to 7.42) 6.43 (1.37 to 30.29)
アルブミン <3.5 g/dl 3.14(1.73 to 5.71) 8.85 (1.96 to 39.94)
初診から14日以内に抗結核治療ができない 2.04(1.18 to 3.57) no data
初診から14日以内に抗結核治療開始 no data 0.70(0.51 to 0.97)

初診から結核の治療が早いほど予後が良いですが、結核の検査から診断確定までの期間がフルオロキノロン投与群では大幅に延長しています(他の抗菌薬投与群と比べても延長)。
やはり、フルオロキノロン結核の診断を遅らせてしまい、予後が悪化するという結果です。


Fluoroquinolone exposure prior to tuberculosis diagnosis is associated with an increased risk of death. - PubMed - NCBI
Int J Tuberc Lung Dis. 2012 Sep
テネシー州2007~2009年で結核診断前6ヵ月以内のフルオロキノロンの暴露と、死亡率を解析(レトロスペクティブ)

キノロン投与あり(n=214) キノロン投与なし(n=395) OR(95%CI)
全死亡 40(19%) 31(8%) OR 1.82(1.05-3.15)

こちらの文献でも、結核の可能性がある場合、フルオロキノロンの使用は死亡率を高める可能性があるため、安易な投与は避けたほうが良いという結果です。


Is the delay in diagnosis of pulmonary tuberculosis related to exposure to fluoroquinolones or any antibiotic? - PubMed - NCBI
Int J Tuberc Lung Dis. 2011 Aug
1997~2006年カナダのデータベースの結核患者2232名のコホート研究(解析対象は1544名)
抗菌薬の投与の有無と、医療行為の遅延を調査
医療行為の遅延の定義:初診~抗結核薬開始までの期間

医療行為の遅延の日数(day)

n(%) 中央値median(IQR) 平均値mean(SD) Ratio(95%CI)
抗菌薬なし 1130(73%) 14(3-44) 31.8(40.9) 1.0
キノロン抗菌薬あり 258(17%) 39(16-74) 53.4(46.7) 2.0(1.67–2.38)
キノロンあり 36(2%) 35(13–83) 53.2(53.6) 2.18(1.42–3.32)
キノロンと非キノロン 120(8%) 52(19–105) 64.1(51.3) 2.37(1.86–3.03)

こちらはキノロンだけでなく他の抗菌薬も結核治療を遅らせるのでは?という文献
各群でn数にかなり偏りがあります(それが結果に影響するかはわかりませんが…)。カルバペネムや、AMPC/CVAは結核に抗菌活性があるとも言われているので、その影響でしょうか…。それとも漫然と抗菌薬治療を続けた結果、診断が遅れたのでしょうか。
Thorax.2006の文献でも抗菌薬投与なしと比較すると、キノロン以外の抗菌薬も多少診断が遅れていたので、結核の検査に影響を与えてしまうのかもしれません。


Think TB! Is the diagnosis of pulmonary tuberculosis delayed by the use of antibiotics? - PubMed - NCBI
Int J Tuberc Lung Dis. 2009 Feb
結核の診断を受けた83名のうち、42名が事前に抗菌薬の投与あり。この42名のうち20名が症状が改善(抗菌薬の種類に無関係)。
抗菌薬の投与により、結核の診断までの期間が延長。



もしかするとフルオロキノロン以外の抗菌薬も結核の診断を遅らせるかもしれないのですが、抗菌薬の選択としてフルオロキノロン結核疑いの患者に適していないのは間違いないと思います。
今回のクラビットの適応追加は、確定診断のついた結核の多剤併用療法であり、結核疑いに対する単剤投与は厳禁です。

それにしても、結核はどんな病気にも化けると言われるほど多彩な臨床像を示すので、そんな中から結核を見抜くDrの皆様は本当にすごいなと思います。薬剤師も患者さんの治療のサポートを出来るように、きちんと勉強しないといけませんね。