pharmacist's record

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オメプラゾールはクロピドグレルの効果を減弱させる?

 最近GE解禁で話題のクロピドグレルですが、気になっていたPPIオメプラゾールとの併用について調べました。

クロピドグレルは2つの経路で代謝されます。

①エステラーゼにより非活性代謝物であるSR26334(主代謝物)を生成

②主にCYP3A4、CYP1A2、CYP2C19、CYP2B6で代謝され、 活性代謝物H4が生成(CYP2C19のPoor metabolizer(PM)では血小板凝集抑制作用が低下したという記載あり。)

CYP2C19の遺伝的多型は人種差があり、PMの頻度は日本人で約20%、白人で3~5%とされています(薬物動態16-2:69-74(2001))。

添付文書ではCYP2C19阻害作用のあるオメプラゾールが併用注意となっており、活性代謝物の生成低下による作用減弱が懸念されます。

 

Cardiovascular outcomes associated with concomitant use of clopidogrel and proton pump inhibitors in patients with acute coronary syndrome in Taiwan. - PubMed - NCBI

Br J Clin Pharmacol. 2012 Nov

台湾の後ろ向きコホート

P:ACSで入院したクロピドグレル処方患者

E:クロピドグレル+PPI n=5173

C:クロピドグレル n=5173

O:ACSによる再入院

PPI→HR1.052 (95%CI, 0.971-1.139; P= 0.214)

オメプラゾール→HR1.226(95%CI, 1.066-1.410; P= 0.004)

エソメプラゾール、ラベプラゾール、ランソプラゾールは有意差無し

 

オメプラゾール…気になりますね。

そこで、NEJMより以下の論文

Clopidogrel with or without omeprazole in coronary artery disease. - PubMed - NCBI

N Engl J Med. 2010 Nov DB-RCT

スポンサーはCogentus Pharmaceuticalsという製薬メーカー

P:ACSまたは冠動脈ステント受けた患者3873名中3761名分析(94%が白人)

E:クロピドグレル75mg+アスピリン(75~325mg)+オメプラゾールOPZ20mg1876名

C:クロピドグレル75mg+アスピリン(75~325mg)+プラセボ1885名

O:消化管エンドポイントとして、出血、症候性消化性潰瘍またはびらん、穿孔。心血管エンドポイントとして、心血管死、非致死的心筋梗塞脳卒中、血管再建術。

スポンサーの事情で試験は中途終了

観察期間の中央値は106日間

 

<結果>

顕性胃十二指腸出血 OPZ2名、プラセボ15名(HR 0.13; 95% CI, 0.03 to 0.56; P=0.001)

GERD症状 OPZ0.2% プラセボ1.2% HR0.22(95% CI, 0.06 to 0.79)

6ヶ月間の胃腸イベント抑制のNNT55、顕性胃十二指腸出血防止のNNT98

 

心血管イベント OPZ4.9%、プラセボ5.7% (HR0.99; 95% CI, 0.68 to 1.44; P = 0.96)

心筋梗塞 OPZ14例、プラセボ15例

脳卒中 OPZ4例 プラセボ2例

心血管死 OPZ5例 プラセボ3例

(結果の詳細はTable2参照)

 

結論として、

①クロピドグレル・アスピリンにOPZ併用により上部消化管出血を有意に減らした

②クロピドグレルとOPZの相互作用による心血管イベントの増加はなかったが、関連を否定すると断言するものではない

 ということで、このRCTではオメプラゾールによる薬効減弱について否定的な結果。ただし、白人が9割以上ということで、日本人と違ってCYP2C19の欠損が少ないということも考慮する必要があります。

 オメプラゾールがそこまで悪さをする可能性は低そうですが、PPIを使うなら、CYP2C19の寄与が少ないラベプラゾールなどを併用したほうが良いかなという印象です。