pharmacist's record

日々の業務の向上のため、薬や病気について学んだことを記録します。細心の注意を払っていますが、古い情報が混ざっていたり、記載内容に誤りがある、論文の批判的吟味が不十分であるといった至らない点があるかもしれません。提供する情報に関しましては、一切の責任を負うことができませんので、予めご了承ください。また、無断転載はご遠慮ください。

多発性骨髄腫にアシクロビル?

多発性骨髄腫(MM:multiple myeloma)

50歳以上に多い。10万人あたり5~7人程度。悪性疾患の1%を占める。

3割程度が無症候性(腎不全や貧血、骨病変、高Ca血症を呈さない)。無症候性の場合は、治療せずに経過観察。

ゆっくり進行するが、再燃が多く治り難い。 

形質細胞ががん化し、異常増殖。増殖した骨髄腫細胞(がん細胞)によって、白血球や赤血球などの血液細胞の造血が妨げられる。

 

<症状>

骨吸収が亢進し、骨形成が低下する→骨の痛み(腰や背中など)、病的骨折、脊椎圧迫(手足のしびれ、麻痺、排便排尿障害)

骨吸収亢進で、血中Ca増加→高カルシウム血症(食欲不振、吐気、多尿、口渇、脱水、意識障害など)

 

★がん細胞が造血幹細胞の働きを妨げる。

赤血球減少→貧血(息切れ、だるさ、動悸)

白血球減少→免疫機能の低下(感染しやすい、怪我が治りにくい)

血小板減少→出血傾向

 

骨髄腫細胞が有害なM蛋白(異常免疫グロブリン)を大量に作り出す→腎臓の尿細管に詰まってしまい、腎不全(むくみなど)を起こしたり、M蛋白により血液が粘性の高くなり【過粘稠度症候群】、頭痛、めまい、耳鳴り、眼底出血などを呈する。M蛋白がさまざまな組織に沈着する【アミロイドーシス】。

 

 <多発性骨髄腫の治療>

(年齢はおおまかな目安。合併症によっては65歳未満でも自家移植適応外となることあり)

65歳未満→化学療法3~4ヶ月(BD療法などの寛解導入療法)→自家移植

※BD療法ボルテゾミブとデキサメタゾン併用療法

 

65歳以上→化学療法9~12ヶ月(MPB療法、MPT 療法など)

※ MPB療法:メルファラン(アルケラン)、プレドニゾロンプレドニン)、ボルテゾミブ(ベルケイド)の3剤併用療法

※MPT療法:メルファラン(アルケラン)、プレドニゾロンプレドニン)、サリドマイド(サレド)の3剤併用療法

 

<自家造血幹細胞移植併用大量メルファラン(アルケラン)療法とは>

G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子 白血球を増やす薬)を注射→骨髄で造血幹細胞が増えて末梢の血管へ→血管の中から幹細胞を採取して凍結→大量の抗がん剤(メルファランを投与し、骨髄細胞(正常な細胞も)がなくなる→凍結しておいた幹細胞を戻す。

 

<骨病変の治療>

ゾレドロン酸やデノスマブを用いる。

がんの骨転移について - pharmacist's record

 

圧迫骨折の進行を抑制するためコルセットによる患部固定も有効

骨の痛みに対して、腎障害の合併によりNSAIDsを使えないことがあり、オピオイドの適応となる場合がある。

  

ボルテゾミブ(ベルケイド)の副作用:帯状疱疹

特定使用成績調査1010例中126例(発現率12.5%)

抗ウイルス薬の予防投与で、帯状疱疹の発症抑制が示唆。

ボルテゾミブは帯状疱疹発現のハイリスク薬であり、予防投与として、抗ウイルス薬の投与が推奨。国内ではアシクロビルが保険審査上認められている。 

※平成23年9月28日保医発0928第1号「医薬品適応外使用に関わる保険診療上の取り扱いに関する通知」に「アシクロビル【内服薬】」を「ボルテゾミブ使用時の管理」、「造血幹細胞移植時の管理」に対して処方した場合、当該使用事例を保険審査上認めるとされている。 

用法用量は確立していない。一部の事例では、1日1回200mg連日、あるいは400mg/日の投与が行われた。

 

 院外処方では、デリケートな患者さんの情報(特にがんなどの病気)を収集することが難しいことがあります。院内で行われた化学療法の情報を教えてくれる患者さんもほとんどいません。

 ただ、処方せんという限られた情報から、推察できることもあります。もしアシクロビル錠が連日投与されている場合、院内でベルケイドの注射を行っている、つまり多発性骨髄腫を患っている可能性が示唆されます。

 さまざまな知識を備えておくことで、患者さんとのコミュニケーションがスムーズになることもあります。