去年より、エドキサバンが静脈血栓塞栓症(VTE)に適応追加となりましたが、VTEへの処方は増えているのでしょうか。メーカーさんによると、AFと比べるとVTEのほうが患者数は少ないとのことです。
静脈血栓塞栓症(VTE)は肺塞栓症(PE)と深部静脈血栓症(DVT)の総称です。
肺塞栓(PE)
静脈の弁やふくらはぎの静脈にできた深部静脈血栓が血流にのって流れ、肺動脈に血栓を起こし、血流が障害されて呼吸や循環に障害をおこす
<リスク因子>
静脈血栓の既往、手術、外傷、骨折、長期臥床、がん、肥満、妊娠、経口避妊薬、喫煙、高齢、脱水など
<症状>
胸痛(息を吸うときに痛む。真ん中が痛いこともある)、呼吸困難、咳、失神、喀血、片足の腫脹・痛み(DVTの所見)など
突然発症であることが多いが、時間単位~日単位であることもある。秒単位~分単位が7割程度
バイタル:頻呼吸、血圧低下(微熱がでることはある)
急性肺塞栓の症状の頻度(ガイドラインより)
症状 | 頻度 |
---|---|
呼吸困難 | 72~76% |
胸痛 | 43~48% |
動悸 | 20% |
失神 | 19~22% |
咳嗽 | 11~16% |
発熱 | 10~22% |
冷や汗 | 8~25% |
<他疾患との鑑別>
Dダイマー:感度は高いが特異度は低い。
D-dimer for the exclusion of acute venous thrombosis and pulmonary embolism: a systematic review. - PubMed - NCBI
ELISA法 LR-:0.13(カットオフ値500ng/mL)(latex法は感度が下がる)
Dダイマーは加齢とともに上昇するため、50歳以上ではカットオフ値を年齢×10ng/mLとすることで偽陽性の減少を示唆。
Age-adjusted D-dimer cutoff levels to rule out pulmonary embolism: the ADJUST-PE study. - PubMed - NCBI
500ng/mL~年齢×10ng/mLに該当する患者の0.3%(95% CI 0.1%-1.7%)でPE発症(カットオフ引き上げによる見落とし0.3%)。
Wells Criteria
下肢浮腫、深部静脈の圧痛 | 3.0 |
他の診断が考えにくい | 3.0 |
心拍数>100/分 | 1.5 |
3日以上臥床or4週以内の手術歴 | 1.5 |
VTE既往 | 1.5 |
喀血 | 1.0 |
がん(治療中、6ヶ月以内の治療、緩和治療中) | 1.0 |
合計スコア
6.5点~ | LR23 | 63~98% |
2~6点 | LR1.1 | 26~46% |
~1.5点 | LR0.12 | 3~10% |
50歳未満 |
心拍数100/分未満 |
SpO2>94% |
片脚の腫脹なし |
血痰なし |
最近の手術や外傷なし |
VTE既往なし |
経口避妊薬の使用なし |
すべてあてはまれば感度97~98%
Dダイマーを測れない状況では有用。ただし50歳以上では使えない。
Prospective multicenter evaluation of the pulmonary embolism rule-out criteria. - PubMed - NCBI
※その他、Criteriaとして、Revised Genevaがある
エコー:他疾患(肺炎、気胸、心不全など)を見つけたり、下肢のエコーにてDVTを探すのも有用
<治療>
慢性期の治療
①ワーファリン:PT-INR1.5~2.5でコントロール(海外ではINR2~3)
②NOAC
エドキサバン(リクシアナ)
経口FXa阻害剤
FXa:プロトロンビンを活性化してトロンビンを生成。生成されたトロンビンはフィブリノーゲンをフィブリンに変換
<適応と用法用量>
※適応により、用法や禁忌項目が異なる
①NVAFにおける血栓塞栓の発症抑制、VTEの治療・再発抑制
体重60kg以下:1日1回30mg
体重60kg超(下記減量項目に該当なし):1日1回60mg
Ccr30~50mL/minまたはP糖蛋白阻害作用を有する薬剤(キニジン・ベラパミル・エリスロマイシン・シクロスポリン)の併用:1日1回30mg
※Hokusai VTE試験では、イトラコナゾール、クラリスロマイシン、アジスロマイシン併用時も1日1回30mg投与となっており、左記3種とジルチアゼム、アミオダロン、HIVプロテアーゼ阻害薬などとの併用時は1日1回30mgを考慮すると併用注意に記載あり
Ccr15~30mL/min:慎重に適否を考慮、1日1回30mg
Ccr15mL/min未満、凝固異常を伴う肝障害:禁忌
②下肢整形外科手術におけるVTE発症抑制
1日1回30mg
(原則、入院中での使用。用法詳細省略)
食事の影響:Cmaxは空腹時投与に対して食後投与で13%上昇、AUCに影響は無し
飲み忘れた場合:最低12時間以上あける(30mg単回投与した時のプロトロンビン時間は、投与12時間後で投与前値付近まで低下)
半減期が10~14時間で、投与回数は1日1回である理由
・人工股関節全置換術を対象とした試験で、同一1日量、分1,分2投与ともにVTE抑制効果に明確な差がない
・AF対象の出血イベント評価の試験で1日2回投与のほうが出血リスクが高かった
Hokusai-VTE試験
Edoxaban versus warfarin for the treatment of symptomatic venous thromboembolism. - PubMed - NCBI
N Engl J Med. 2013 Oct ランダム化/盲検化(ダブルダミー)非劣性試験
P:VTEで抗凝固療法を必要とする患者8292例
E:エドキサバン60mg(Ccr30~50ml/minまたは体重60kg未満またはP糖たんぱく阻害剤併用の場合は30mg)とプラセボワルファリン
C:ワーファリン(PT-INR2~3で管理)とプラセボエドキサバン
O:VTEの再発(有効性)、大出血/臨床的に重要な出血(安全性)
最低3ヶ月、最長12ヶ月治療
<結果>
ワーファリンのTTR63.5%(TTR=PT-INRの治療域内時間)
エドキサバン | ワーファリン | HR(95%CI) | ||
---|---|---|---|---|
有効性 | VTE再発 | 3.2% | 3.5% | 0.89(0.70-1.13) |
安全性 | 大出血+臨床的に重要な出血 | 8.5% | 10.3% | 0.81(0.71-0.94) |
安全性 | 大出血 | 1.4% | 1.6% | 0.84(0.59-1.21) |
出血イベントの定義
<大出血>
・Hb2g/dL以上の低下
・致死的な出血
・濃縮赤血球または約1ℓ以上の輸血
・重要な部位の出血(頭蓋内、脊髄内、眼内、心膜、関節内など)
<臨床的に重要な出血>
予定外の診察や投与中止を必要とする、または痛みや生活に支障が出る出血
・25cm2を超える皮下出血または100cm2をこえる誘発性皮下出血
・5分以上持続する鼻血
・24時間以内に2回以上の鼻血(ハンカチに血斑がつく程度のものは除外)
・歯磨きや食事と無関係の自然発生した歯肉出血、または5分以上持続する歯肉出血
・下血または吐血を伴う肉眼的胃腸出血
・トイレットペーパーに多くの血斑を認める直腸出血
・自発性、またはカテーテルなど処置後24時間以上持続する肉眼的血尿
・喀血(PEではないもの)
・筋肉内血腫
など
Comparison of outcomes among patients randomized to warfarin therapy according to anticoagulant control: results from SPORTIF III and V. - PubMed - NCBI
Arch Intern Med. 2007 Feb
AF患者の脳卒中に対するワーファリン治療においてイベント発生率はINRのコントロールに左右される。
各種年間イベント発生率
poor(TTR<60%) | moderate(TTR60%-75%) | good(TTR>75%) | |
---|---|---|---|
大出血 | 3.85% | 1.96% | 1.58% |
出血 | 43.6% | 41.8% | 34.1% |
虚血性脳卒中 | 1.84% | 1.06% | 1.02% |
脳出血 | 0.2% | 0.28% | 0.06% |
TIA | 0.53% | 1.0% | 1.2% |
心筋梗塞 | 1.38% | 0.89% | 0.62% |
AFの臨床試験では、TTRは最低でも60%を超えるようにとされているようですが、NOACとワーファリンを比較した試験の解釈にはTTRの確認も必要かもしれません。
AF患者の脳卒中発症についてワーファリンとクロピトグレル+アスピリンを比較したACTIVE W試験では、TTR別に見ると、TTR65%未満ではワーファリンの優位性が消失となっています。
TTRが75%を超えるようなワーファリンで良好にコントロール出来ている患者さんはあえてNOACに変更する必要はないかもしれません(どうしても納豆が食べたいなど、個別な理由がある場合は別ですが)。
NOACとワーファリンの比較については多数の論文が出ており、LANCETにエドキサバンを含むメタ解析も出ているようなので、改めてチェックしてみたいと思います。