pharmacist's record

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体重が増える薬・体重が減る薬

薬の服用により体重変動をきたすことがあります。

Clinical review: Drugs commonly associated with weight change: a systematic review and meta-analysis. - PubMed - NCBI
J Clin Endocrinol Metab. 2015 Feb
薬剤投与と体重変化との関連についてのメタ分析(257のRCT、84,696名)です。
54種の薬剤を評価しています。

薬剤名 代表商品名 体重変化
アミトリプチリン トリプタノール +1.8kg
ミルタザピン リフレックスレメロン +1.5kg
オランザピン ジプレキサ +2.4kg
クエチアピン セロクエル +1.1kg
リスペリドン リスパダール +0.8kg
ガバペンチン ガバペン +2.2kg
ピオグリタゾン アクトス +2.6kg
グリメピリド アマリール +2.1kg
グリクラジド グリミクロン +1.8kg
シタグリプチン ジャヌビア・グラクティブ +0.55kg
ナテグリニド スターシス・ファスティック +0.3kg
メトホルミン メトグルコ -1.1kg
アカルボース グルコバイ -0.4kg
ミグリトール セイブル -0.7kg
リラグルチド ビクトーザ -1.7kg
エキセナチド バイエッタ -1.2kg
ゾニサミド エクセグラン -7.7kg
トピラマート トピナ -3.8kg
ブプロピオン 本邦未発売 -1.3kg
フルオキセチン ブロザック本邦未発売 -1.3kg

その他、降圧剤や抗ヒスタミン剤などの薬剤(アブストラクトには薬名の記述無し)については統計的な有意差はなかったようです。

まあ、概ね妥当かなという結果です。ゾニサミドには驚きましたが。

DPP-4阻害薬は体重不変かなと思っていましたが、シタグリプチンはやや増加傾向にあるようです。

GLP1受容体作動薬は、発売当初より、食欲抑制作用、胃内容排出抑制作用(すぐに満腹感が得られる)による体重減少が期待できると言われていた通りの結果です。胃内容排出抑制により吐気・嘔吐がみられることもあるので、リラグルチド(ビクトーザ)は少量から開始となっています。吐気は投与開始・増量時に起こりやすく、徐々に慣れてくるとされていますが継続困難例もあります。

リラグルチドはアメリカでは肥満治療薬としても承認されています。
Effects of liraglutide in the treatment of obesity: a randomised, double-blind, placebo-controlled study. - PubMed - NCBI
Lancet. 2009 Nov
対象はBMI30~40、年齢18~65歳、観察期間20週。食事療法・運動療法に上乗せ。
リラグルチド[1.2mg:4.8kg、1.8mg:5.5kg、2.4mg:6.3kg、3.0mg:7.2kg]
プラセボ:2.8kg、オルリスタット:4.1kg
体重5%減→リラグルチド3.0mg76%、オルリスタット44%、プラセボ30%
プラセボ、つまり運動療法と食事療法のみでもある程度、減量できていますが、リラグルチドは血圧低下や糖尿病前症(prediabetes)を減らしたことが評価されたようです。
大事なのは、食事療法・運動療法に上乗せという点でしょうか。リラグルチドを使っても食事制限せず、運動せずでは、上記のような効果は得られないのではないでしょうか。


Effects of glucagon-like peptide-1 receptor agonists on weight loss: systematic review and meta-analyses of randomised controlled trials. - PubMed - NCBI
BMJ. 2012 Jan GLP1と体重減少の関連についてのコクランのメタ解析
対象はBMI25以上。糖尿病有り無しに関わらず、体重3kg程度減少
GLP1は血圧低下、コレステロール・血糖値の改善に有益だったが、低血糖、下痢、吐気、嘔吐と関連あり。
GLP1は2型糖尿病の有り無しに関わらず、体重減少の効果があると結論づけています。


本邦で承認されたセチリスタット(オブリーン)は保険適応が拒否され発売延期となっており、行方が気になるところです。
第Ⅲ相臨床試験の結果、体重変化率プラセボ:-1.1%、セチリスタット:-2.8%
日本はアメリカと違って国民皆保険なので、肥満治療薬の保健適応は慎重にならざるを得ないと思います。この程度の体重減少効果のみでは、保険適応に難色を示されても無理はないかと…。肥満治療薬を飲んでいれば食事制限しなくていいという心理が働いてしまうことも懸念されます。
心血管イベントの抑制などの効果が期待できるかどうかが重要だと思います。


オランザピンの体重増加は場合によっては患者さんにとって有益となることもあります。
オランザピンはMARTAとも呼ばれ、ドパミンヒスタミンセロトニン、アドレナリンなど複数の受容体に拮抗し、統合失調症双極性障害に用いられますが、適用外にて、化学療法やオピオイドによる吐気・嘔吐に用いられることがあります。オピオイドを使用するような終末期の患者さんにおいては、食事もろくにとれないといったケースも多いため、オランザピンの制吐作用に加えて、特徴的な副作用である食欲増進を逆手にとって使用されることもあるようです。


 摂取カロリーを制限して、消費エネルギーを増やせば減量できるはずなのに、頭では理解していることが実行できない。だからこそ、安易なダイエット商法に飛びついてしまう…。ダイエットは永遠のテーマかもしれませんが、美容目的のダイエットはやはり食事療法と運動です。間違っても薬に頼ってはいけません(上記にあげた薬は処方せんがないと手に入らないので過度な心配は不要かもしれませんが)。