pharmacist's record

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トラマドール/アセトアミノフェン配合錠(トラムセット)の副作用対策

トラマドール/アセトアミノフェン配合錠(トラムセット)初回投与時の注意事項についてメーカーさんから注意喚起あり。

主な副作用として、便秘、吐き気、眠気があります。 

【眠気】3〜5日で耐性が形成され、慣れてくることが多いが、症状が持続する場合は注意。
 
【吐き気・嘔吐】3〜7日で耐性が形成され、1〜2週間でなくなることが多い。投与初期は吐気止めの併用を検討。
吐気止め:メトクロプラミド、ドンペリドンプロクロルペラジンなど。通常、1〜2週間後に中止を検討
 
【便秘】耐性は形成されず、必要に応じて、下剤を使用
 
副作用対策として、1日1錠寝る前投与で開始し、[朝・寝る前]→[朝・昼・寝る前]→[朝・昼・夕・寝る前]と、鎮痛効果と忍容性を確認しながら、至適用量まで増量。
(トラマールも就寝前1回25mg投与からの開始を推奨。添付文書には初回投与量は1回25mgと記載あり)
 
 
 トラマドールの作用発現時間は30~60分で、4~9時間持続。Tmax2時間、T1/2は5~7時間。鎮痛効力比はモルヒネの1/5(経口トラマドール300mg≒経口モルヒネ60mg。
配合剤と単剤があり、各含有量は、
トラムセット:1錠中トラマドール塩酸塩37.5mg、アセトアミノフェン325mg。上限1回2錠、1日8錠(トラマール300mg、アセトアミノフェン2600mg/日)
トラマール:25mg、50mg製剤。上限1回100mg、1日400mg(75歳以上は300mg)
 がん性疼痛に対しては、トラマドール単剤のトラマールは適応があるが、トラムセットは適応なし。
 
 トラマドールは弱オピオイドですが、麻薬および向精神薬取締法の規制のない薬です。非がん性慢性疼痛に適応を持ちますが、非オピオイド鎮痛薬で治療困難な場合という縛りがありますので、保険上、第一選択としては使いにくいかと思います。
 
 トラマドールは主にCYP2D6(一部CYP3A4)により脱メチル化され、活性代謝産物M1は弱いμオピオイド受容体アゴニスト作用を示しますが、トラマドールそのものによるノルアドレナリンセロトニン再取り込み阻害作用もあり、末梢性の局所麻酔作用を有するとも考えられています。シナプス間隙のノルアドレナリンセロトニン増加にて、下行性疼痛抑制系が活性化することで、侵害受容性疼痛だけでなく、神経障害性疼痛にも有効とされています。
Cochrane Database Syst Rev. 2006 Jul
トラマドールにて疼痛を50%減弱させるためのNNTは3.8 (95% CI 2.8 to 6.3) 
副作用による臨床試験の脱落はNNH8.3(95% CI 5.6 to 17)
こんなに脱落が多いのでしょうか…(読み間違えてたらすみません)。
脱落を防ぐためにも、メーカーさんの推奨どおり、低用量からの開始が良いのではないでしょうか。
 
三環系抗うつ薬TCAやSNRIと併用する場合は、セロトニン症候群に注意が必要です。
セロトニン症候群では
・精神症状(不安、混乱する、いらいらする、興奮する、動き回るなど)
錐体外路症状(手足が勝手に動く、震える、体が固くなるなど)
・自律神経症状(汗をかく、発熱、下痢、脈が速くなるなど)
などの多彩な症状をきたします。
セロトニン症候群の診断基準として「Sternbachの診断基準」「Rudomski らの診断基準」「Hegerl らの診断基準」などがあります。
 
 “痛み”というのは、患者さんにとってとても辛い症状の一つです。鎮痛薬のバリエーションが増えるのは素晴らしいことだと思います。トラマドールは非麻薬性弱オピオイドであり強オピオイドよりは安全性が高い薬であると言えますが、いろいろと注意事項が多い薬なので、適正使用が大事な薬だと思います。