pharmacist's record

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側頭動脈炎(巨細胞性動脈炎)

側頭動脈炎
主に60歳以上の高齢者に発症する側頭動脈の炎症を主徴とする原因不明の血管炎。
治療が遅れると失明のリスクあり

〈側頭動脈炎の症状〉
頭痛(76%)、側頭部痛(52%)、体重減少(43%)、発熱(42%)、倦怠感(39%)、筋肉痛(39%)、視覚異常(37%)、食欲低下(35%)、顎跛行(34%)、関節痛(30%)、回転性めまい(11%)、複視(9%)、乾性咳嗽などの呼吸器症状(9%)

〈側頭動脈炎の分類基準 ACR Criteria〉
①発症時年齢 50歳以上
②新規発症の頭痛 
③側頭動脈の圧痛、動脈硬化とは無関係の側頭動脈(こめかみの動脈)の拍動の減弱
④赤沈(ESR)亢進 50mm/hr以上
⑤動脈生検の異常
3項目以上で感度94%、特異度91% ただ、診断の確定には不十分で、確定診断には側頭動脈の生検が必要(ただし偽陰性が約10%)

①高齢女性に多い
②もっとも頻度の多い症状は頭痛で、その性状は拍動性で限局的。もともと頭痛持ちだった方が今までと性状の違う頭痛が発症した場合も、新規発症とみなす。
④赤沈50mm/hr以上の感度は約80%。50mm/hr未満なら側頭動脈炎の可能性を下げる。

その他、陽性尤度比が高い所見として、顎跛行(LR+ 4.2)が診断に有用。

※顎跛行(がくはこう)とは
食事や会話で顎が疲れる。とくに硬いものを食べたとき。
労作時の動脈の虚血によると言われている。

側頭動脈炎の30~40%がリウマチ性多発筋痛症PMRを合併(PMRの10~20%で側頭動脈炎を合併)

リウマチ性多発筋痛症PMR
肩、腰、股関節、体に近い側の上腕・大腿などの痛みや朝のこわばりをきたす炎症性疾患(関節リウマチでは手指など末梢の関節炎をきたす)。可動域が制限され、肩や腰が痛くて服が着づらいといった訴えもみられる。
50歳以上の高齢者に多く、70代がピーク。
赤沈の亢進、CRP上昇をきたすが、CKは上昇しない。

〈PMRの診断基準 bird/woodの基準〉
①両肩の疼痛/こわばり
②2週間以内の急性発症
③赤沈亢進 40mm/hr以上
④1時間以上続く朝のこわばり
⑤65歳以上
抑うつ・体重減少
⑦両側上腕部筋の圧痛
上記、3項目以上をみたす。


〈側頭動脈炎とPMRの治療〉
ともにプレドニゾロン(PSL)で治療するが、投与量が異なる。
側頭動脈炎:PSL40~60mg/日
PMR:PSL10~20mg/日


 高齢者に多いとされる側頭動脈炎は頻度の高い疾患ではないですが、失明のリスクもあるということで、見逃してはいけない疾患の一つです。症状が非特異的であるため、鑑別も容易ではないと思われますが、高齢者の新規発症の拍動性頭痛、肩や腰の痛みなどの症状がみられた場合、側頭動脈炎も念頭に置いて、特異的な症状である顎跛行の確認を行うのも有効かもしれません。発熱や痛みと違って、顎跛行のような症状は患者本人からは訴えがないことが多いと推察されるので、問診で聴きとる必要があります。
 訪問薬剤管理指導を受けている在宅の患者さんは高齢の方が多いです。このような頻度の低い症例に遭遇する可能性は低いかもしれませんが、頭の片隅に入れておく必要があると思います。