通常、甲状腺機能低下症に用いられるレボチロキシンナトリウム(チラーヂンS)は毎日一定の量を服用することが多いですが、用量調節のために曜日によって服用量を変える処方例がありました。甲状腺についてまとめてみたいと思います。
甲状腺
場所:首の前方、喉仏の下にあり、蝶が羽を広げたような形で、気管を抱き込むように位置している。
機能:甲状腺ホルモンの分泌
甲状腺ホルモン
海藻類などの食物に含まれるヨードを原料にして作られる。トリヨードサイロニンT3、サイロキシンT4の2種。T4は甲状腺で作られる。T3は約20%が甲状腺で、残りはT4から変換される。血液中ではほとんどがたんぱくと結合しているが、ホルモンとして働くのは遊離型のfreeT4,freeT3。
T4:作用弱い。半減期が長い(機能正常では6~7日、低下では9~10日、亢進では3~4日)ので補充療法として用いられる。肝臓や腎臓などでT3に変換される。
T3:作用強力。半減期が約1日と短い(タンパク結合が弱い、吸収排泄が速い)。
※作用はT3のほうが強いが、ホルモン補充療法として用いられるのは、半減期が長く、血中濃度を維持しやすいT4。
〈甲状腺ホルモンの作用〉
•基礎代謝向上(熱産生)
•身体の成長・発育
•自律神経への作用として、心臓のβ受容体増加による心収縮時間の短縮と収縮力増強
•脂質代謝改善作用⇒不足するとTG、Tcho上昇
〈甲状腺ホルモンの分泌〉
視床下部⇒TRH(TSH放出ホルモン)⇒下垂体前葉⇒TSH(甲状腺刺激ホルモン)⇒甲状腺⇒甲状腺ホルモン⇒血液を通して末梢へ
甲状腺ホルモンの血中濃度を感知し、甲状腺ホルモンが低下するとTSH増加、甲状腺ホルモンが増加するとTSH低下(ネガティブフィードバック)。
甲状腺機能低下症
びまん性甲状腺腫による橋本病がもっとも頻度が高い。
〈薬剤性甲状腺機能低下〉
①ヨード含有うがい薬、造影剤、海藻(とくに昆布)⇒イソジンガーグルは1mL中ヨード7mg含有、こんぶ100g中ヨード130mg含有。ヨードは甲状腺ホルモンの原料となるが、急速に過剰に摂取すると甲状腺ホルモンの分泌抑制が起こる(Wolff-Chaikoff 効果)。甲状腺機能の亢進も起こりうる(ヨード充足地域の日本ではまれ)。昆布や含嗽剤による場合、正常者では一過性であり、摂取中止により、改善する。
②アミオダロン⇒頻度約20%。アミオダロン100mg中にヨード37mg含有。甲状腺ホルモンの過剰な産生・分泌や漏出による甲状腺中毒症で甲状腺機能の亢進も起こりうる。
③リチウム⇒頻度約10%。リチウムが甲状腺に取り込まれ、ホルモン分泌を阻害。
④インターフェロン⇒甲状腺自己抗体を誘発する。
⑤フェニトイン、カルバマゼピン、リファンピシン、フェノバルビタール⇒甲状腺ホルモンの代謝を促進
※②~④は、現疾患の治療を優先し、中止せずに、レボチロキシンを併用することが多い。⑤は原則投与中止だが、中止できない場合はレボチロキシンを併用する。(重篤副作用疾患別対応マニュアル)
〈甲状腺機能低下症の症状〉
会話動作緩慢、物忘れ、寒がり、低体温、発汗減少、月経過多、便秘、筋肉痛、徐脈、無気力、脱毛、眉毛外側1/3脱落、粗雑な毛髪、むくみ(手足、眼瞼など)、体重増加、前頸部の腫れ、手のしびれ(手のむくみによる手根管症候群)、嗄声(咽頭粘液腫)、乾燥肌・ざらざらした皮膚(皮脂産生低下)、倦怠感、うつ傾向、嗜眠、難聴など。
話し方は、深く低調な鼻声でゆっくりとした特徴的な話し方。
検査初見:freeT4低値、TSH高値(中枢性の場合は正常~低値)、CK高値、Tcho高値
甲状腺機能検査の基準値
TSH | 0.5~5μIU/ml |
freeT3 | 2.1~4.3ng/L |
freeT4 | 0.8~1.9ng/L |
Billewiczスコア
症状 | 初見あり | 初見なし |
---|---|---|
発汗減少 | +6 | -2 |
皮膚乾燥 | +3 | -6 |
寒がり | +4 | -5 |
体重増加 | +1 | -1 |
便秘 | +2 | -1 |
嗄声 | +5 | -6 |
異常感覚 | +5 | -4 |
難聴 | +2 | 0 |
動作緩慢 | +11 | -3 |
ざらざらした皮膚 | +7 | -7 |
冷たい皮膚 | +3 | -2 |
目のまわりの浮腫 | +4 | -6 |
脈拍75回/分 未満 | +4 | -4 |
アキレス腱反射遅延 | +15 | -6 |
Billewicsスコア
-15点未満で、感度3~4%、特異度28~68%、LR0.1
30点以上で、感度57~61%、特異度90~99%、LR18.8
〈甲状腺機能低下症の治療〉
一般的にはT4製剤のレボチロキシン(チラーヂンS)を投与。
初期用量設定に明確な決まりはない。
参考として、
若年者~中年以上:25~50μg/日、高齢者や心疾患患者:12.5~25μg/日
半減期が約7日と長いので、2~4週ごとに増量し、維持量へ(T4の1日生産量はだいたい75~100μgとされており、維持量の目安となる)。
維持量決定まではfreeT4をチェックし、安定後はTSHによるチェックで経過を見ることも。
各甲状腺ホルモン薬の力価の比較
チラーヂン(T4) | 100μg |
チロナミン(T3) | 25μg |
チラーヂン末(乾燥甲状腺) | 40~60mg |
T4は活性の強いT3へ変換されるのに時間がかかるので、投与直後の効果はまったく同じではない。乾燥甲状腺末は、T3とT4の混合比が微妙に異なることがある。
〈レボチロキシンの相互作用〉
以下の各種薬剤が吸着・キレート形成によりレボチロキシンの吸収を妨げる(重篤副作用疾患別対応マニュアル、添付文書 参照)
分類 | 薬剤 | 推奨投与間隔 |
---|---|---|
カルシウム製剤 | 炭酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、ポリカルボフィルカルシウム | 4時間 |
陰イオン交換樹脂 | コレスチラミン(クエストラン)、コレスチミド(コレバイン) | 6時間(もしくは投与1時間前にレボチロキシンを投与) |
制酸剤 | 水酸化アルミニウム(つくしAM、マーロックスなど) | データなし |
胃炎・潰瘍治療剤 | スクラルファート(アルサルミン) | データなし |
鉄剤 | 硫酸鉄(フェログラデュメット)など | 2時間以上 |
亜鉛含有製剤 | ポラプレジンク(プロマック) | データなし |
高リン血症治療剤 | 塩酸セベラマー(レナジェル、フォスブロック) | データなし |
〈チラーヂンSの変服〉
前置きが長くなりましたが、最後にチラーヂンSを曜日毎に服用量を変える変服投与についてです。
第55回日本甲状腺学会にて以下のような症例報告がありました。
チラーヂンS75μg/日でTSH上昇⇒100μg/日と75μg/日の交互服用(平均87.5μg/日)でTSH低下⇒週に2回100μg/日、週に5回75μg/日(平均82.1μg/日)でTSH安定。
TSH、FT4が基準範囲に入らない場合、チラーヂンの半減期が7~10日と長いことを利用し、曜日ごとに用量を設定することで、より細かい用量調節を行うことが可能となります。ただし、患者さんのコンプライアンス不良が問題となるかと思います。12.5μg製剤が発売となったので、このような変服処方の必要性は減るかもしれないですが、甲状腺ホルモンの調整が困難なケースでは、変服の検討の余地があると言えます。