乳がんについて
検診方法:視触診と、マンモグラフィー(乳房専用のレントゲン)もしくはエコー。一般に40歳以上ではマンモグラフィー、40歳未満ではエコー。
乳がんの症状:乳房のしこり(通常、無痛性)・えくぼのような窪み・皮膚の色の変化・腫れ、リンパの腫れによる腕のむくみ・しびれなど
乳がんのリスク要因:喫煙、過度な飲酒、初経年齢が早い、閉経年齢が遅い、出産歴がない、初産年齢が遅い、授乳歴がない、閉経後の肥満など
針生検は病変を正確に採取でき、診断能力が切開生検に匹敵する上に、侵襲が少なく病変の確定診断においてよく用いられており、ホルモン受容体やHER2タンパクの過剰発現を調べることもできるようです。
乳がんのサブタイプ
〈ルミナルA HER2陰性〉
増殖能力低い、ホルモン受容体陽性(女性ホルモンで増える)
治療:ホルモン療法。悪性度が強い場合は化学療法追加を検討。
〈ルミナルB HER2陰性〉
増殖能力高い、ホルモン受容体陽性(女性ホルモンで増える)
治療:ホルモン療法+化学療法
〈ルミナルB HER2陽性〉
ホルモン受容体陽性(女性ホルモンで増える)、HER2タンパクで増える
治療:ホルモン療法+分子標的療法(抗HER2療法)+化学療法
〈HER2陽性〉
HER2タンパクで増える。乳がん全体の10%程度
治療:分子標的療法(抗HER2療法)+化学療法
〈トリプルネガティブ〉
増殖能力高い
治療:化学療法
※乳がんの6~8割がルミナルタイプでホルモン感受性
ホルモン療法
閉経前と閉経後ではエストロゲンの産生経路が異なる。
閉経前:【脳視床下部⇒脳下垂体⇒性腺刺激ホルモン分泌⇒卵巣でエストロゲン産生】抗エストロゲン薬、LH-RHアゴニストが用いられる
閉経後:【副腎皮質⇒アンドロゲン分泌⇒脂肪組織や乳腺組織のアロマターゼによりエストロゲンに変換】アロマターゼ阻害薬、抗エストロゲン薬が用いられる
〈LH-RHアゴニスト(ゾラデックス、リュープリン)〉
用法:4週に1回皮下注射(リュープリンは12週に1回皮下注射製剤もあり)
作用:性腺刺激ホルモン放出ホルモンLH-RHの働きを阻害し、脳下垂体から卵巣への指令をブロックし、卵巣でのエストロゲン産生を低下。結果として月経が止まるが、投与中止で月経は元に戻る。
副作用:投与初期の骨の痛み、ほてり、めまい、頭痛、イライラ、コレステロール上昇、骨密度低下など
併用について:LH-RHアゴニスト単独使用はエビデンス不十分で、抗エストロゲン薬との併用が推奨。アロマターゼ阻害薬との併用はそもそも適応が異なるため行わない。
〈アロマターゼ阻害薬AI アリミデックス、アロマシン、フェマーラ〉
適応:閉経後乳がん
用法:すべて分1経口製剤
作用:アロマターゼを阻害することで、副腎から分泌される男性ホルモンのアンドロゲンがエストロゲンに変換されるのを防ぐ。
副作用:ほてり・多汗(エストロゲン低下による体温調節の障害。徐々に軽減する)、関節痛・関節のこわばり(数ヵ月後に出現)、骨粗鬆症(骨量を保つエストロゲン低下による)、めまい、頭痛、吐き気、コレステロール上昇、傾眠など
併用について:①ノルバデックス(タモキシフェン)との併用は推奨されていない。ATAC試験にてアリミデックスとノルバデックスの併用は単独投与よりも効果が劣っていた。②エビスタ(ラロキシフェン)との併用によりアロマターゼ阻害薬の効果減弱の可能性あり、副作用の骨粗鬆症の治療にエビスタは推奨されない。
〈抗エストロゲン薬(選択的エストロゲン受容体モジュレーター SERM) ノルバデックス(タモキシフェンTAM)、フェアストン(トレミフェン)〉
適応:乳がん(フェアストンは閉経後のみ)
作用:がん細胞のエストロゲン受容体に結合し、エストロゲンの作用を抑える
副作用:ほてり、めまい、頭痛、吐き気、脱毛、不正出血、無月経、おりもの、血栓症など
子宮体がんリスクについて:長期服用により子宮体がんや子宮内膜症のリスク増加の可能性あり。子宮体がんリスクより、乳がん再発防止のベネフィットの方が上回るとされている。
併用について:タモキシフェンはCYP2D6阻害作薬パキシル(パロキセチン)との併用により、活性代謝物エンドキシフェンの血漿中濃度が低下し、乳がんによる死亡リスクが増加したとの報告あり。併用禁忌扱いではないが、併用は避けることが望ましい。CYP2D6を阻害する薬として、強[パキシル、レグパラ]、中程度[ラミシール、サインバルタ、ジェイゾロフト]などがある。ルボックス、レクサプロはCYP2D6阻害作用は弱い。トレドミンは阻害作用が無い。
フェアストンはクラスIA又はクラスIIIの抗不整脈薬との併用でQT延長リスクがあり併用禁忌。
〈アロマターゼ阻害薬AIとタモキシフェンTAMの比較〉
骨折や関節痛はAIに多い
ほてり、不正出血、静脈血栓症、子宮体がんリスクはTAMに多い
乳がんの治療の一部をまとめましたが、他に放射線治療、手術療法、分子標的療法と化学療法があります。とても複雑で難しいです。巷ではがん放置療法が話題になっているようですが、あらゆるエビデンスを元に、リスクとベネフィットをきちんと考慮された治療法が推奨グレードとともにガイドラインに記載されています。
ガイドラインは研究が進むにつれて患者さんのためにアップデートされていきます。今年、2015年には乳がんガイドラインの改訂が予定されているようですのであらためてチェックしたいと思います。