処方例)
テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合カプセル(ティーエスワン)25mg 4Cp 朝夕食後
ウルソデオキシコール酸100mg 3錠 毎食後
酸化マグネシウム 2g 毎食後
炭酸水素ナトリウム 1.8g 毎食間
半夏瀉心湯 7.5g 毎食前
〈ウルソデオキシコール酸の薬理作用〉
- 胆汁分泌を促進(利胆作用)し、胆汁のうっ帯を改善
- 疎水性胆汁酸の肝細胞障害作用を軽減
- 胆石溶解作用
- 消化不良改善作用
などがあげられますが、上記、処方例でのウルソの処方意図はなんでしょうか。
この処方はIRIS療法を想定した処方です。
IRIS療法
イリノテカン(CPT-11) + S-1療法の代表的なレジメンで、CPT-11を1日目と15日目に、S-1を1~14日投与し15~28日休薬する4週を1サイクルとする大腸がん治療法
〈イリノテカンCPT-11による下痢〉
早発型
遅発型
- 原因:CPT-11は肝臓で代謝され、活性代謝物のSN-38となり、グルクロン酸抱合され、SN-38Gとなり胆汁経由で腸管に排泄される。腸管内で腸内細菌のβ-グルクロニダーゼによって脱抱合を受け、再びSN-38となり(一部は肝臓に再吸収)、直接的に腸管を障害し下痢発現。(毒性を示すのは非イオン型SN-38。アルカリ性になるとイオン型SN-38となる。)
- 発症時期:投与24時間以降から2週間後にかけて出現し、持続的。
- 治療:ロペラミド等の止瀉剤(麻痺性イレウスに注意、慎重に使用)、補液、抗生剤(腸管粘膜傷害による感染症に対して)
- 下痢対策:①半夏瀉心湯⇒腸内細菌のβ-グルクロニダーゼを阻害し、脱抱合を抑制 ②ウルソデオキシコール酸⇒胆汁をアルカリ化 ③炭酸水素ナトリウム⇒腸管内のアルカリ化 ④酸化マグネシウム⇒活性代謝物を含んだ便の排泄促進作用 ⑤センノシド⇒CPT-11投与当日・翌日と、短期間の投与にて、活性代謝物を停滞させないよう排便促進 ⑥整腸剤の使用は?⇒乳酸菌製剤や、ヨーグルト等は腸管内を酸性にするのでCPT-11との同時併用は避けることが望ましい。
適正使用資材(冊子) | 安全性情報 | 医療関係者のための医薬品情報 第一三共 Medical Library
上記、メーカーさんのサイトにイリノテカンの適正使用のための情報が記載されています。
ウルソデオキシコール酸や炭酸水素ナトリウムの有効性は以下の論文で示唆されています。
Prevention of irinotecan (CPT-11)-induced diarrhea by oral alkaliza... - PubMed - NCBI
肺がん患者に対するCPT-11/CDDP療法が対象。炭酸水素ナトリウム、酸化マグネシウム、ウルソデオキシコール酸、アルカリ飲料水(CPT-11投与日より4日間連日投与)によるアルカリ化・排便コントロールにより、グレード2以上の遅発性下痢のオッズ比は0.14( 95%信頼区間0.05~0.4 p = 0.0002)。
こちらも肺がん患者が対象ですが、
Preventive effect of Kampo medicine (Hangeshashin-to) against irino... - PubMed - NCBI
CPT-11/CDDP療法を行っている肺がん患者41人が対象。半夏瀉心湯(TJ-14)の投与によりグレード3~4の下痢が有意に減少(P=0.018)。下痢の頻度は有意差なし。
下痢のグレードは主に下痢の回数で分類されますが、下痢の頻度に有意差がなく、グレード3以上の下痢は有意に減少ということで、下痢の頻度がとても多い重症の下痢患者は有意に減らしたということでしょうか。
TJ-14は、CPT-11による口内炎に有効とされており、現在、プラセボ使用の二重盲検試験のHANGESHA試験が進行中です。TJ-14の炎症部位におけるPGE2誘導の抑制作用により口内炎の痛みが軽減されるとのことで、使用法としては、綿棒で直接患部に塗布、あるいはお湯に溶かして口に含んでうがいなど。下痢予防も期待するなら吐き出さずに飲み込んだほうが良さそうですが、口内炎予防に対しては吐き出しても問題ないようです。
※参考 CTCAE 下痢のグレード分類
- グレード1:排便回数の増加が、~4回/日
- グレード2:排便回数の増加が、4~6回/日
- グレード3:排便回数の増加が、7~回/日、便失禁、入院必要
- グレード4:生命を脅かす
- グレード5:死亡