貧血について復習。貧血治療剤クエン酸第一鉄について添付文書やメーカーさんの資料より抜粋。
〈貧血〉
男性ではヘモグロビン色素濃度Hb13g/dL、女性はHb12g/dL、妊婦・高齢者はHb11g/dLがおおよその判定基準。
貧血の原因は鉄欠乏以外にもさまざまな要因があるが、その症状は主に酸素欠乏を血液循環で補うための心拍数の増加による循環動態の変化に起因
「全身倦怠感」「疲れやすい」「息切れ」「動悸」「頭が重い」「めまい」「顔色が悪い」「朝、起きれない」など
※もっとも感度が高い症状は倦怠感。労作時呼吸困難もよく認められる症状。急性失血であれば、起立性低血圧によるめまいの頻度が多いが、慢性貧血だとめまいは半数程度。顔面蒼白があると、高度の貧血を考える。
・陽性尤度比が高い初見として、下眼瞼結膜の蒼白がある。
あっかんべーをするように下瞼をめくると、通常、手前側の縁が奥の肉色より赤みが強いが、赤色が薄く色に差がない場合、陽性。
Hb11g/dL以下:陽性尤度比17 ただし感度は低いので除外には使えない。
・手掌の皺に蒼白があれば貧血の可能性は高いが、これも感度は低い。
〈鉄欠乏性貧血〉
鉄が不足すると、まず貯蔵鉄から減少する。
貯蔵鉄を反映するフェリチン50ng/mL以下で疑う。15ng/mL以下だと鉄欠乏性貧血の特異度が非常に高くなる。
フェリチン100ng/mL以上なら否定的(肝硬変や透析等では例外あり)
特徴的な症状は、「口の端が切れやすい」「食べ物が飲み込みにくい」「舌の表面がツルツルになる」「肌がカサカサする」「氷を食べたくなる」「爪が割れやすい」「爪がスプーン状になる」など
鉄欠乏性貧血の要因
- 鉄分の摂取不良:胃の全摘、偏食、ダイエットなど
- 鉄分の喪失:月経、消化管出血など(1回の経血量は約80mlで鉄30mgに該当)
- 鉄分の需要増加:妊娠、思春期など
〈巨赤芽球性貧血〉
ビタミンB12や葉酸の欠乏により、DNA合成が阻害され、不完全な赤血球である巨赤芽球ができる
特徴的な症状は、貧血症状に加えて、「舌炎(疼痛を伴う)」、ビタミンB12欠乏では「しびれなどの神経症状」「白髪」「認知機能障害」も。
ビタミンB12欠乏の要因
- 極端な菜食:めったにない
- 胃全摘:約5年後(2~10年)に欠乏する。
- 悪性貧血:胃粘膜萎縮による内因子欠乏による。自己免疫機序が関与
葉酸欠乏の要因
その他、再生不良性貧血(易感染性、出血傾向など)、溶血性貧血(褐色尿、黄疸など)がある。
①セフジニルとの併用について
硫酸第一鉄との併用でセフジニルの吸収が10分の1に阻害されるという報告あり。セフジニル服用3時間後に硫酸第一鉄服用で吸収不良が改善。クエン酸第一鉄も3時間あけることが推奨される。
②キノロン系との併用
各種キノロン剤で鉄剤併用によるAUC低下の報告あり。
レボフロキサシン(クラビット):投与後1~2時間後に鉄剤投与
ガレノキサシン(ジェニナック)、シタフロキサシン(グレースビット)、モキシフロキサシン(アベロックス)、シプロフロキサシン(シプロキサン)、ノルフロキサシン(バクシダール):投与後2時間後に鉄剤投与
トスフロキサシン(オゼックス):具体的な間隔の記載なし
③テトラサイクリン系との併用
キレートを形成し相互に吸収が低下。硫酸第一鉄で報告あり。ミノサイクリン(ミノマイシイン)では2~4時間空けることと記載あり
④甲状腺ホルモン製剤との併用
キレートを形成し、鉄剤が甲状腺ホルモンの吸収を阻害。硫酸第一鉄併用でTSHが有意に上昇したという報告あり(Ferrous sulfate reduces thyroxine efficacy in patients with hypothyroidism. - PubMed - NCBI)。レボチロキシンナトリウム(チラーヂンS)では、投与間隔をできる限り空けると記載あり。
⑤タンニン酸との併用
コーヒーや緑茶の同時摂取により鉄吸収率が下がるという報告があるが、臨床効果には影響はなかったとの報告もあり、臨床上の影響は少ない
⑥ビタミンCの併用意義
ビタミンCは還元剤として、吸収効率の良い二価鉄に保つことで吸収を促進するが、胃腸障害が増大することあり(胃腸障害は二価鉄イオンによるとされている)。クエン酸第一鉄は、鉄吸収促進物質のクエン酸との化合物であり、ビタミンCを併用しなくても貧血改善効果には影響がなかったという報告あり
⑦鉄剤による歯の着色(黒・茶褐色)について
着色しやすいケース:口の中に長時間残る、歯のブラッシングが不十分
予防的ケア:水ですみやかに飲み込む、タンニン酸を含む飲み物での服用は避ける、毎日の歯磨き
除去方法:重曹で歯磨き
⑧小児への投与
安全性は確立していないが、一般的に2~3mg/kg/日とされている。(⇒インクレミンシロップは適応あり)
⑨便の色の変化
クエン酸第一鉄の未吸収の鉄が排泄される過程で鉄が酸化または食物との反応により便が黒色または緑黒色に着色するが、特に問題なし
⑩クエン酸第一鉄による胃腸障害の対処法
- 1日量を変えずに分割投与
- 食直後の服用とする
- 1日用量を減らす(鉄欠乏状態では、鉄吸収率が良いので用量を減らしてもある程度鉄量は確保される)
- 試しに他の経口鉄剤に変更する
- 注射用鉄剤で静脈内投与する(原則、経口での投与だが、やむを得ない場合は静注)
⑪胃の切除後にも投与可能か
胃切除、全摘患者は胃酸分泌が悪く直ちに小腸にはいるため吸収率が低下し、術後数年して鉄欠乏性貧血になるケースが多い。胃内pHの上昇で吸収効率の悪い三価鉄の高分子重合体が形成されることが原因。クエン酸第一鉄はクエン酸と鉄の錯体構造を形成しており、低胃酸状態でも良好に吸収される。胃全摘患者でも有用性が確認されている。