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pharmacist's record

日々の業務の向上のため、薬や病気について学んだことを記録します。細心の注意を払っていますが、古い情報が混ざっていたり、記載内容に誤りがある、論文の批判的吟味が不十分であるといった至らない点があるかもしれません。提供する情報に関しましては、一切の責任を負うことができませんので、予めご了承ください。

長引く咳について

風邪を引くと、咳が長引くといったケースが多いかと思います。

 通常は、長引くと言っても1~2週間程度かと思います。その程度長引くのは一般的で、むやみに心配する必要はないとも言えます。ただ、もっと長く続く咳には別の原因が隠れていることもあり、ガイドライン等を参考にまとめてみたいと思います。

 

咳は持続期間により以下のとおり分類

①急性咳嗽:3週間未満

②遷延性咳嗽:3週間以上、8週間未満

③慢性咳嗽:8週間以上

 

急性咳嗽

  • 風邪症状が先行している
  • 咳が軽快傾向にある
  • 経過中に痰の性状が変化する(※膿性痰は気道の炎症により産生されるので、細菌性感染を直接意味するわけではない)

上記のような場合、感染性咳嗽を疑い、対症療法を行ったり臨機応変に対応。

 

遷延性慢性咳嗽 病態に応じて検査・治療

  • 喀痰⇒検査。副鼻腔気管支症候群であれば、マクロライド8週投与(※クラリスロマイシンは「好中球性炎症性気道疾患」に対して処方した場合,当該使用事例を審査上認める』とされている(2011 年9 月28 日厚生労働省保険局医療課).
  • 胸焼け、呑酸、喉の違和感⇒胃食道逆流(GERD)による咳嗽。PPI8週投与
  • 夜間~明け方に強い、アトピー素因等⇒アトピー咳嗽・咳喘息。吸入ステロイド2週間。
  • 喫煙、薬剤など誘発因子⇒誘因の除去(※ACE阻害薬は不顕性誤嚥を防ぎ,誤嚥性肺炎を予防する目的で継続したほうが良い場合も。ケースバイケースと思われる)

 

各論

〈咳喘息〉

 咳を唯一の症状とする喘息の亜型(喘鳴や呼吸困難を伴わない)。

特徴:夜間~早朝の悪化、起座呼吸、乾性咳嗽(湿性の場合もあるが痰は軽度で非粘性)、気管支拡張薬(β2刺激薬)が著効する。症状がない時期(時間帯・季節)がある。例年、同じ季節に症状発現。

増悪因子:冷気、湿度変化、運動、喫煙・煙など刺激物の吸引、雨天、花粉など

治療:吸入ステロイドICSが第一選択。咳喘息は経過中に30~40%が典型的喘息に移行するが、ICSの早期導入で喘息への移行率が低下したという後ろ向きのデータあり。感染後咳嗽にICSは無効とされるが、上気道炎を悪化させることはないと考えられている。軽度ならICS+増悪時SABAでよいが、中等度以上なら、LTRAやLABAの併用を考慮する(ICS+LABAの合剤も可)。

 

アトピー咳嗽〉

 咳喘息と同じく痰の少ない好酸球性気道疾患だが、気管支の収縮というよりは、咳受容体の感受性亢進に基づく。IgE高値などアトピー素因が認められることが多い。

特徴:症状の季節性、喉のイガイガ感や掻痒感、花粉症などアレルギー疾患の合併、時間帯は就寝時>深夜から早朝>起床時>早朝の順に多い

誘発因子:喫煙(受動喫煙)、エアコン、会話、運動、精神的緊張

治療:第一選択はヒスタミンH1受容体拮抗薬だが有効率は約60%。効果不十分ならICS追加。※気管支拡張薬は無効

  

〈副鼻腔気管支症候群  SBS〉

 SBS は、好中球性気道炎症を上気道と下気道に合併した病態と定義され、日本では慢性副鼻腔炎に慢性気管支炎、気管支拡張症、あるいはびまん性汎細気管支炎が合併した病態をいう。咳喘息やアトピー咳嗽と違って湿性咳嗽。

特徴:後鼻汁・鼻汁・咳払いなど慢性副鼻腔炎様症状、膿性痰、後鼻漏による咳は仰臥位で悪化・腹臥位で改善傾向

治療:第一選択薬はマクロライド。効果は2~3ヶ月以内で得られる。MAC耐性化予防の観点からエリスロマイシン400~600mg/日で開始し、効果が得られなければクラリスロマイシン200~400mg/日(クラリスロマイシンは、MAC 感染症に単独で使用すると高率に耐性化する)。去痰薬として、カルボシステイン等を併用。最近、COX2阻害薬の有用性が示唆されているが現時点ではエビデンスが薄い模様。

 

〈胃食道逆流症 GERD〉

 胃酸や胃内容物が胃から食道へ逆流。逆流が下部食道の迷走神経受容体を刺激し、中枢を介して反射性に下気道に刺激が伝わる機序と、逆流内容が上部食道から咽喉頭や下気道に到達し直接刺激する機序とによる。

特徴:胸焼け・呑酸などの食道症状、咳払い・ 嗄声(させい)などの咽頭症状

 増悪因子:会話、食事(食後の咳)、上半身前屈(前かがみ)、体重増加など

 治療:第一選択はPPI。食道症状は数日で軽快しやすいが、咳は2~3ヶ月かかることも。反応が悪ければ消化管運動機能改善薬を併用する。H2ブロッカーPPIより効果が劣る。難治例ではPPIに眠前H2ブロッカー追加も(保険適応外)。GERDのリスク因子である喫煙、高脂肪食、チョコレート、炭酸、カフェイン、柑橘類などを避けるのも有効。

 

〈感染後咳嗽〉

 呼吸器感染症の後に続く、胸部X線写真で肺炎などの異常所見を示さず、通常、自然に軽快する遷延性ないし慢性咳嗽。頻度は遷延性および慢性咳嗽の中で11 〜 25%。

 ACCPのガイドラインでは、咳嗽が8 週間以上になった場合には、従来は後鼻漏と称された上気道咳嗽症候群(upper airway cough syndrome:UACS)に起因すると記述している

特徴:乾性咳嗽、就寝前~夜間、朝に多い

治療:通常は自然軽快する。必要に応じて中枢性鎮咳薬、ヒスタミンH1拮抗薬、麦門冬湯など。改善しない場合は経口ステロイドを短期使用することも。

 

 

【咳が悪化する時間帯による鑑別】

どの病態でも咳がひどくなる時間帯は夜間であることが多く、悪化する時間帯から咳の病態を診断するのは難しいという文献もあるようです。ただし参考にはなると思います。

床についてから、どのくらいの時間で咳が悪化する?

  • すぐに悪化(仰向けになってすぐ)→後鼻漏(仰向けになると鼻水が喉に降りてきて、それが刺激となる。腹臥位では改善傾向)
  • 数時間たってから悪化(夜間~明け方)→①咳喘息・喘息(気管支の炎症は夜間~明け方に悪化しやすい)、②心不全(仰向けになって1~2時間程度経過後、肺に水がたまってきて咳がでる。起座呼吸で軽減。)

 GERDは?

→夜間に好発するタイプと、臥位・就寝時には起こりにくいタイプがある。食後や起床時に悪化しやすい。

 

 

長引く咳といってもこのように様々な原因があります。

 実際、咳が長引くといって受診される患者さんの多くが感染後咳嗽だと思いますが、遷延性慢性咳嗽、つまり3週間以上続く咳嗽の中では頻度が思った以上に低いようです。

 自分は風邪を引いても受診せずに放置することが多いですが、3週間以上、咳が続くときは、受診したほうが良いと思います。

 個人的には風邪のあとに喉がイガイガする感じの咳が長引いてるときは、麦門冬湯を飲むことが多いです。

 ガイドラインには記載がありませんでしたが、ハチミツが咳に効くというエビデンスがあるようです。

Effect of honey on nocturnal cough and sleep quality: a double-blin... - PubMed - NCBI

Pediatrics. 2012 Sep;130(3):465-71. 

 対象は風邪発症7日以内の夜に咳が出る1歳~5歳の子供で、 3種のハチミツとプラセボを比較し、夜間の咳に有意な改善がみられたようです。

Honey plus coffee versus systemic steroid in the treatment of persi... - PubMed - NCBI

Prim Care Respir J. 2013 Sep;22(3):325-30.

こちらは成人が対象です。コーヒーとハチミツをペースト状にしたものと、プレドニゾロン、グアイフェネシンの3つの比較ですが、ハチミツ群はプレドニゾロン群よりも有意に改善したという結果です。

 実際どれだけ効果があるのか、まだまだエビデンスは十分とはいえないかもしれませんが、試してみてもいいかなと思います。

(ただしハチミツは1歳未満の乳児には乳児ボツリヌス症のリスクがあるため禁忌です。)