pharmacist's record

日々の業務の向上のため、薬や病気について学んだことを記録します。細心の注意を払っていますが、古い情報が混ざっていたり、記載内容に誤りがある、論文の批判的吟味が不十分であるといった至らない点があるかもしれません。提供する情報に関しましては、一切の責任を負うことができませんので、予めご了承ください。また、無断転載はご遠慮ください。

プラバスタチンの一次予防効果は?【WOSCOPS試験 1995年】

ph-minimal.hatenablog.com

以前、ご紹介した、私も関わらせていただいた書籍「1日1論文、30日で、薬剤師としてレベルアップ! 医学論文の活かし方」の発売を祝して、
『「医学論文の活かし方」で取り上げられたランドマーク論文をビジアブ化してみよう祭』開催決定!


今日は、この論文を取り上げます。

Day13(88ページ)プラバスタチンの一次予防効果についての論文です。

さっそく、ビジアブ!

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Prevention of coronary heart disease with pravastatin in men with hypercholesterolemia. West of Scotland Coronary Prevention Study Group
N Engl J Med. 1995 Nov 16;333(20):1301-7.PMID: 7566020.

海外で実施された試験です。

一次予防効果の検証ということで、心筋梗塞の既往がある患者さんは除外です。
併存疾患も少なく、高血圧15%、糖尿病は1%のみ。

で、介入内容ですが、プラバスタチンの用量が日本よりもはるかに多いですね。40mgです。
日本だと添付文書上、最大20mgです。
実際、そんなに増量することなく、プラバスタチンで数値が改善しなければ、ストロングスタチンに切り替えるでしょう。


ビジアブにも載せたのですが、この論文でパッと目についたのが喫煙の有無で分けたプライマリエンドポイントの発生率です。
タバコがえぐい!
非喫煙者プラセボ群よりも、喫煙者のプラバスタチン群の方が発生率が高くなっています。

というわけで、個人的感想は…、
「タバコやばい!」でした。

こんな感じで、ランドマーク論文をサラッと読んで、サラッと感想を述べていこうかなぁ…と思っております。
三日坊主で終わる可能性もありますが…汗

(ちなみに、私はまだ書籍のスタチンの項目は読んでません。なんとなくですが、書籍を読む前に、自分で論文に目を通してから、書籍を読んだ方が楽しめるような気がしてきました。これも先入観をなくして論文を読むためです)


ところで、、、
個人的にもお世話になっているリンコ先生(「医学論文の活かし方」の執筆にも参加しています)が月1回開催しているエビデンス展覧会(a.k.a.エビテン)をご存知でしょうか?
今月(本日11月25日22時)のテーマは「医学論文の活かし方」で取り上げられた論文だそうです。
興味のある方はご視聴ください。
twitcasting.tv

エビテンのロゴを募集していたので、自分も作成したのですが、採用されず…涙
ここに供養しておきます。
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【ホットフラッシュ】オープンラベルプラセボ vs 無治療!

突然ですが、論文を読んだポルナレフやります。


「まったく理解を超えていたのだが…
 ありのまま、今、読んだ論文のことを話すぜ!

 薬が入っていないプラセボ(偽薬)だと説明した上で、投与したはずなのに、
 ホットフラッシュが改善した

 何を言っているのかわからねーと思うが、おれも何が書いてあるのかわからなかった。

 催眠術とか超スピードとかそんなチャチなもんじゃあねえ
 もっとすげえものの片鱗を味わったぜ」


JOJO好きのフレンズならニヤリとしたはず!

では、ここからは真面目に…(咳払い)


薬の有効性を評価するときに、無治療と比較すると、”薬を使っているから改善したような気がする”的なバイアスが生じるため、どっちがどっちかわからないようにした上で、薬 vs プラセボで比較試験を行います(盲検化)。

これがプラセボの役目だったのですが、近年、効果のない偽薬であることがわかった上で、プラセボを投与して(オープンラベルプラセボといいます)、無治療と比較するという研究が実施されています。記憶にあたらしいところだと、腰痛の試験がありましたね(Open-label placebo treatment in chronic low back pain: a randomized controlled trial PIMD:27755279)

効果のない偽薬だと患者さんもわかっているはずなのに、なぜか無治療よりも腰痛が改善していたという謎…

今回は腰痛ではなく、更年期症状の一つであるホットフラッシュです。
オープンラベルプラセボは効くのでしょうか!?

さっそく、ビジアブを。

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Open-label placebos for menopausal hot flushes: a randomized controlled trial
Sci Rep. 2020 Nov 18;10(1):20090. PMID: 33208855

100人を半々にわけて、4週間オープンラベルプラセボを投与したら、ホットフラッシュが改善傾向。
レーティングスケールが何点満点なのか論文に書いていないので、引用元をみたら有料論文でしたので、内訳は不明…。よって、論文に記載されていた、 Cohen’s d を載せました。

コクランハンドブック(Chapter 15: Interpreting results and drawing conclusions | Cochrane Training)によると、 「0.2 represents a small effect, 0.5 a moderate effect, and 0.8 a large effect (Cohen 1988). 」ということなので、効果サイズは「0.2→小、0.5→中、0.8→大」です。プラセボあなどるなかれ。そこそこいい感じに改善しています。 


ちょっとイメージがつきにくいので、ディスカッションの項目から抜粋しておくと、
「ホットフラッシュスコアは、プラセボで43%減少、無治療群で19%減少。毎日のホットフラッシュは33%減少し、更年期関連のQOL(生活の質)全般に改善」ということでした。まあまあいい感じですよねぇ。


有害事象はこちらをご覧ください。
Table 4 Baseline-adjusted occurrence of adverse events.
当然といえば当然ですが、有害事象が増加することなし。
プラセボ最強説浮上でしょうか(汗)


その他、論文の「ディスカッション」の中で、興味深かった記述について抜粋しておきます。

「肯定的な患者と臨床医の関係は、健康上のアウトカムに有益であることが知られており」
なるほど。こういう側面も重要ですね。意外と薬効に大きく影響したりして…。

ビジアブでは割愛しましたが、介入群の50人のうちの43人はさらにランダム化して、プラセボ継続と中止にわけて、4週間試験を継続しているのですが…、
「4週間後に中止したほとんどの患者(52%)では、さらに4週間改善が持続した」
どういうこっちゃ…

さらに他の文献からの知見によると、
プラセボ薬を中止または漸減した後も、ほとんどの患者は改善したままであった」

プラセボ効果のメカニズムとは…?
「ランダム化の前に、すべての患者にプラセボ効果についての説明を行うことで、ポジティブな期待感が喚起されたのではないかと主張している研究者あり」
「治療効果を期待することは、実際の治療成績に影響を与える可能性がある」

ただし…、
「我々の結果は、期待値と治療効果の関係はそれほど単純ではないこと、つまり、単に良くなることを期待しているだけでは、誰かが良くなる理由にはならないことを示している。」
とも…。
このあたり、難しいので(私の頭では…)、ぜひ原著をご確認ください。


最後にリミテーションについて考えてみると、盲検化されていない試験なので、プラセボ投与群は実は個人購入できるようなホットフラッシュ対策の商品を使ったりしていた…という可能性は否定できないかも…。
(実際にそういうことが行われていたかどうかは不明)


さて、長くなりましたが、とても興味深い知見であることはたしかでしょう。

「ホットフラッシュ サプリメント」でググるといろんな商品がでてきます。もしかすると、プラセボ効果としての有益性もかなり上乗せされているかもしれませんね。まあ、患者さんの症状が軽快するなら、プラセボ効果も上手に取り入れていくべきなのかもしれません。
いろいろと考えさせられる試験でしたね!

子宮頸がん対策は検診だけやっておけば大丈夫?

ph-minimal.hatenablog.com
ちょっと前の話ですが、HPVワクチンについての情報発信「みんパピ」に支援しました。
職場にも流しましたが、うーん…、反応はイマイチ。

まだまだ大勢の人がこの問題を知らないというかなんというか…。
あぶないワクチンなんでしょ?で片付けられてしまっている現状。

とりあえず、自分は身の回りの人たちにどこまで知っているのか聞いて回ってます。
「やっぱり副反応が怖い」ということで迷っている方がいますね。
自分もその気持ちはわかります。
恐怖というのは、ウイルスよりも驚異的な速度で伝播しますからね。
何年か前のあの時点で日本全国に恐怖が蔓延したのです。

自分もこの問題について徹底的に解説できるレベルにないので、少しずつ勉強していきます。

よくあるのが、「検診をちゃんと受けていれば大丈夫でしょ」っていうやつです。

本当にそうなのでしょうか?

今回のテーマはワクチンではなく、「子宮頸がん検診を受けておけばヨシ」なのかどうかです。

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※子宮頸部上皮内腫瘍 (cervical intraepithelial neoplasia、CIN)

必ずしも右方向(悪化)にだけ進んでいくのではなく、逆方向(改善)に進むケースも多いようです。
消失率のくわしいデータはこちらが参考になります。

Natural history of dysplasia of the uterine cervix
J Natl Cancer Inst. 1999 Feb 3;91(3):252-8.PMID:10037103
(Table3 2年、5年、10年での悪化or改善の割合が載っています)

ちなみにCIN→がんの2年進展率は30%だそうです。
日本産科婦人科学会雑誌第64巻第9号 4)CIN の経過観察と治療の判断」)


さて、この流れをみて、なんで「検診をうけておけばヨシ」という考え方になるのか自分にはよくわかりませんでした。
検診でCIN1~CIN2が見つかったとしても、進行を防ぐためにできることはなにもありません。
定期的にフォローしていくだけです。
さぞ精神的負担になるでしょうね。進行してないか毎回ドキドキしながら検診を受けるわけです。

あくまで進行の度合いの経過を「観察する」だけで、いよいよやばいとなったらメスをいれる…というのが定期検診です(この認識で合ってますよね?)。自分が女性の立場になったら、検診でがん化を防いだとしてもメスを入れるなんて超怖いですし、ぜったい嫌ですけどね。ワクチンの副反応に対する恐怖もさることながら、がんに至る前の段階のCINも怖いって思うんですけど…。

もしCIN1~2で発見されたら、薬をつかったりして治癒できるっていうなら、「検診をうけておけばヨシ」というのもわかるのですが、あくまで観察するだけで、進展して治療適応になったら侵襲的処置ですからね…。これで「検診をうけておけばヨシ」というのはちょっと共感できませんでした。


今後、HPVワクチンについては続々とエビデンスがでてくると思います。
NEJMのコホート研究(がんをアウトカムにした初の観察研究)はこのブログで取り上げましたっけ?ブログに書いたか忘れましたが、似たようなデータがたくさん出てくるでしょうね。世界的には子宮頸がん撲滅に向けて着々と進んでいるようです。

さて、日本はどうなるか!?
というところなのですが、このネタ、1ヶ月くらい前に書きかけの状態で放置していたテーマでして…。いまはコロナがヤバいですね。自分はずーーっとStayHomeなので、生活に変化はないのですが、みなさん、なるべく3密は避けて行動しましょう。あと体調不良なら仕事を休んでくださいね(体調良好でも仕事を休みたいひと、ぼくと握手)。