pharmacist's record

日々の業務の向上のため、薬や病気について学んだことを記録します。細心の注意を払っていますが、古い情報が混ざっていたり、記載内容に誤りがある、論文の批判的吟味が不十分であるといった至らない点があるかもしれません。提供する情報に関しましては、一切の責任を負うことができませんので、予めご了承ください。また、無断転載はご遠慮ください。

普段、こんな感じでPubmed使ってます(チアプリドとAgitation)

今回は何の変哲もない日常を切り取ってみたいと思います。

ときどき、新人さんが応援に来てくれて、一緒に勤務したりすることがあります。
まあ、自分は教育とかほとんどしないですし、EBMとはこうだ!!!みたいなアツい話をすることは皆無なのですが、まあそれなりに質問されれば答えてます(←当たり前だろ、ふざけるな)

たとえば、

高齢の方にチアプリド処方(FAX処方箋)
この処方意図は?

認知症の薬(メマンチン※)も処方されてたので、「興奮とか不穏とかでてて、鎮静のためじゃないの〜?そういう目的で処方されることあるよー」と適当に答えたのですが、、

ハッ!なんだ、このひどい対応は!
と反省。

※これも認知症の薬のなかでは、鎮静も期待できる薬という印象(メマンチンと不穏/攻撃性 - pharmacist's record)


まあ、こういう対応って実際よく見られる光景ですよね。
「◯◯(病名や症状)に▲▲(薬名)をつかうことあるよー。■■病院でよく処方されてた」
みたいな…。

まあ、それはそれで使用実績という貴重な情報となるのですが、で、有効性はどうなの?ていうところも新人さんに教えるべきでしょう。


反省した私は、襟を正し、背筋を伸ばし、ネクタイをキュッと締めなおし、ネットが繋がっているPCのキーボードをカタカタと叩きました。

チアプリドはあまり文献数は多くないだろと思って、英語表記でネット検索
(厳密にはPubらずに、検索エンジンで"tiapride +pubmed"で検索)

上から3番目がこれ
Clinical management of agitation in the elderly with tiapride. - PubMed - NCBI
Eur Psychiatry. 2001 Jan;16 Suppl 1:42s-47s.
PMID:11520478

そして、Pubmedサーフィン(PubmedのSimilar articlesをめぐること)でこれ
Double blind study of tiapride versus haloperidol and placebo in agitation and aggressiveness in elderly patients with cognitive impairment. - PubMed - NCBI
Psychopharmacology (Berl). 2000 Mar;148(4):361-6.
PMID:10928308

2番目のがいいかなということで、内容チェック
(フルテキストは見れません)

興奮、攻撃性、不穏などの症状のある認知機能障害の高齢者306名を対象に、
チアプリド(100〜300mg)と、ハロペリドール(2〜6mg)、プラセボを投与した3群比較のRCTですね
投与期間は21日

Resultが長ぇ!と一瞬、読む気が失せましたが、そばに新人さんがいるので、「ふむふむ」なんつって、ざっくりと研究デザイン~PECO~Resultを流し見。

チアプリドもハロペリドールも、プラセボより有効で、チアプリドとハロペリドールは差がない
EPSはチアプリドのほうが少ない
(詳細は原著のアブストをご参照ください)


というのをお話ししました。
批判的吟味はしなくていいのか!!!?と怒られそうですが、フルテキスト読めないですし、調剤の合間にそんな時間はありませんので…。
なんとなくチアプリド推しの内容で、COIとかどうなのかわからないけど、一応こういうエビデンスがあるよってことをお伝え。
この試験は用量が多いので、少量投与(実際の処方はもっと少なかった)でどの程度鎮静かけれるかは微妙なところだね。でも過鎮静になってもあれだし、とりあえず少なめに開始ってことで妥当じゃないかなと。


と、まあそんなやりとりをして、ここまでで計5分くらいでしょうか。もっと短かったかも。業務の合間ですから、こんなもんですよね。
(今回はスムーズに文献が見つかったから速かった!!!普段はもっとトロかったりします涙)
エビデンスベースドとか言っちゃったりしますが、実際の現場での活用は添付文書を見るのとそんなに変わらない気がします。

該当論文をきちんと吟味しなくてはというのもありますし、もうちょっと網羅的にRCTを探してネガティブだったRCTもあるのでは?と論文を漁ったほうがベターなのは間違いないですが、日常業務のなかでいかに迅速にその場の疑問の答えになる情報を抜き取るか…となるとこんな感じになるのではないでしょうか。

名郷先生の書籍『ステップアップEBM実践ワークブック』という本に「その場の1分、その日の5分」という言葉がありましたね。
ああ、こういうことなのかなぁと思ったりした今日この頃でした。

…にしても「その場の1分」は高速すぎるでしょ!と思いますが汗

何を信じるか

前回(当ブログの取扱説明書 - pharmacist's record)からの続きになりますが、ここからが本題です。

つい先日、著名な某先生とのやりとりで、「ブログからの情報収集において、発信者のバイアスの可能性を考慮し、自分自身で出典にあたることの重要性」について意気投合したのですが、個人的には、こんな感じで捉えております。

原著論文:料理
論文抄読ブログ:食レポ

メーカーさん主催の講演会も公開食レポみたいなものですね。


実際のデータをどう解釈したか、必ずしも満場一致とは限りません。
賛否が分かれることもしばしばみられます。
そうなると、試食せずに食レポを見るだけの人にとっては、結局どの食レポを信じるか、ということになります。味見をしないでいいのかな…と思ってしまうのですが、味見をしない人はけっこう多いです。


ちょっともやもやする一例を挙げさせていただきます。

メーカーさん主催の勉強会の内容を鵜呑みにする人たちを非難する一方で、論文要約ブログやSNSで偉人クラスのEBMマスター(私のようなひよっこではない)のコメントを見て、原著をろくに読まずにその内容を自分の意見とばかりに主張する…。

これ、やってることはまったく同じですよね。結局他人の言葉を鵜呑みにしているだけですから…。

うーん、残念な一例ですね、これは。

はい、この一例、過去の私です

EBMに触れたばかりの人に多い印象なのですが、気のせいでしょうか…。

食レポを一切見ずに(論文を読んだ人たちの批判的吟味の内容を知らずに)、自分で試食をして本当に同じ結論に至るのかな…?と思ってしまいますよね。
EBMマスターたちが不味い不味いって言ってるから、不味いように感じているだけで、本当はその料理の味なんて何もわかっていないのでは?と。
(これ、ほんと私の後頭部にブーメランとなって突き刺さりまくりです)

もちろん食レポなんて見るなというわけではありません。とても勉強になります。「おぉ!その視点は見落としていたぁ!」と感銘をうけるレポも多々あります。いろんな見方があるので新しい価値観などを与えくれます。自分自身の味覚そのものに影響するくらい考え方が引っくり返ることもあるでしょう。とくに尊敬している人の食レポには感化されやすいことかと思います。

ただ、ここがまた問題だと思っていて…
自分は尊敬している人の主張こそじっくり吟味するようにしています。
憧れの先生が言うことなんだから正しいに決まっている、という感情はバイアスとなりえますので、憧れや尊敬は情報の吟味においては邪魔だと感じます。尊敬している人だからこそ、あれ?と思ったら、自分が納得のいくまで安易に同調してはいけないと。
ちょっと共感できないな、という場合は、自分の解釈がおかしいのかもしれないという気持ちも持ちつつ、だからといって自分の考えを棄却せずに保留にしておくようにしています。納得のいくまでは保留です。
もちろん、意見交換できれば最高でしょうね。論文抄読会というのはいろんな価値観に触れるという意味で勉強になるんだろうな、と思います。


ただ、たまにワークショップとかに行くと、「ムムム、これは…」と思うことも。
ある薬に関する論文がテーマだったんですが、主催する先生方はみんな否定的なんですね。はっきりと口にせずとも、そういう空気感はヒシヒシと伝わってきました。もうそういう方向に持っていこうとしているのがみえみえで、参加者も全員その考え方に傾倒していくのがまるで目に見えるかのようで…。
もちろん主催者側の先生方は原著を読んで吟味して、その薬の評価に対して意義あり!との考えをお持ちなのですから、正しい論文の読み方・評価の仕方を広く伝えようとしてそのような空気感になってしまうのでしょう。そして、そのような試みは大変すばらしいことなのですが、もうちょっとフラットにしないと、意見の押し付けになっちゃうのでは?という気もしてしまい、メーカーさんの講演会と類似した空気(ベクトルは逆ですが)を感じ取ってしまいました。

これを解消するためには、「とにかくどんな意見でもカモン!」という空気をつくらないと駄目ですよね。私の知る限りではJJ CLIPのジャーナルクラブはとてもフラットな意見交換の場となっているように感じています。あの空気感はすごいですね。反対意見もカモン!という空気ができあがっています。

えーと、JJ CLIPから話を戻しまして…。
偏った空気感に晒されることについてでしたね。
そうなると、結局は誰を(何を)信じるか、ということになってしまうのでは?という懸念があります。
環境にも大きく左右されるでしょう。どちらの意見の先生方に囲まれているか、によって考え方が変わってきてしまう可能性もあります。

なかにはメーカーさん主催の講演会などには参加するな、とまでおっしゃる先生方もいらっしゃいますね。
個人的には、これは反対で、ありとあらゆる食レポを見た上で、自分の舌できちんと味見できるようにならないといけないと思っています(大変ですけど)。

メーカーさん主催で発信される情報だってきちんとした研究結果などを基にしていますからね。勉強になると思いますよ。売り上げに繋がるような情報だけをつまんできたり、重視するポイントがズレている可能性はありますが、それこそきちんと教えてあげればいいだけです。

ケンカしてたら、双方から話を聞きますよね。片方だけから話を聞いたら偏ります。バイアスですね。
情報の解釈だって、主張がぶつかってるなら、すべての主張を見ておいたほうが公平に考えることができます。そして吟味する上で必須なのが味見(原著のチェック)だと思っています。

とにかくいろんな考え方に触れさせること、そして疑問点があればきちんとエビデンスベースで議論をする。
これが大事なのではないでしょうか。


というわけで、このブログはちっぽけな食レポのひとつにすぎません。異論もあって当然です。
このブログの中に、調べ物と類似のテーマがあったとしても、きちんと味見をしてから臨床現場に活かしていただけると幸いです。

そのうち機会があれば、知り合いのブロガーさんたちと、ひとつの料理(論文)をテーマに、「いっせーのせ!」で食レポ(論文抄読記事)を一斉アップするってのも面白そうだなと思ってます。ええ、まあやりませんけどね。私以外のみなさんでやってくれないかなぁ。。

当ブログの取扱説明書

いつか、書こうと思っていながら放置していた件なのですが、ちょっと書いておきます。

なぜ、ふと思い至ったかというと、、、

www.fizz-di.jp

書籍『薬の比較と使い分け100』の著者であるFIZZ先生のブログで、なんとこのブログを取り上げてくださっているではありませんか!
こそばゆいなと思いながらも、やりたい放題の当ブログはどんな感じに見えているのか参考にさせて頂きました。

そしてなんとこちらでも
keisyuke-blogyakkyoku.xyz

AHEADMAP広報のけいしゅけ先生のブログですね。

そこで、アッと思ったのですが、最近、音楽ネタばかりで、まったく論文抄読の記事を書いてないし、今後も書くつもりはない…じゃなくて、運営ポリシーとかきちんと書いていませんでしたね…。
ブログを開設したときに、注意書き的な感じで冒頭にちょろっと書いてあるのですが、とってつけたようなうすっぺらい中身のない注意書きでした。

では、運営ポリシーはというと…。


ハッ!


わからない…。

ちょっと挙げてみます

① 開設当初はポリシーがあったが、記憶を紛失した。
② ポリシーなんてものはない。フリースタイルこそモットーである。
③ このブログ記事を書きながら考え中である。
④ ①~③のすべて

④が濃厚ですが、そもそもポリシーってどういう意味だっけと調べてみると、ポリシーとは強い主義やこだわり、あるいは方針などを指すようです。

方針は…、そうですね。
医療に関して書くときは、出典を書いていると思います(ブログ開設初期は書いてないかも)。

ph-minimal.hatenablog.com

過去に記事にしたとおり、出典をあきらかにしていない医療情報は読まなくてもいいのでは?と書いてるくせに、自分が出典を書かないというのはめちゃくちゃですよね。
まあ、科学的根拠に基づかない臨床経験もとても勉強になりますけど、有効性や安全性を語るならやはり臨床試験などの一次情報を抜きにしては語れないでしょう。



あと、大事なことを今まで明確にしていませんでした。
このブログは誰を対象として、書かれているかという点です。

はっきり定めていたわけではないものの、
音楽に興味がある人を想定して書いていま…医療関係者を読者として想定して書いています。

ブログをはじめる前(EBMとか知らなかった頃)、わからないことがあれば、ひたすらググって調べていたのですが、医療関係者さんのブログがとても参考になりました。
疑問が解決したときには、両手をあわせて拝みながら「ああ、神様!」と感謝の気持ちを見ず知らずのブロガーさんに届けといわんばかりに叫んでいたものです。
そんなわけで、自分がブログで情報を発信するのであれば、見ず知らずの異国の地の医療関係者さんが当ブログを読んで、疑問が解決すればいいなぁと。
もちろん一般の方々が読んでも差し障りはないかと思いますが、一般の方々にもわかるような記載はしていません。

一般の方々に対して、専門家の観点から正しい知識を普及しよう!というのもアツい試みなので、そのような方針のブロガーさんにはぜひ正しい医療情報の発信を続けていただきたいものですが、自分はそちらはカバーしていません。
このあたりは賛否あるでしょうけど、こちら(「立てよ、薬剤師」→「「「「はい!」」」」 - pharmacist's record)に記載したとおり、このブログを含めてネットの情報は、"あなたのために書かれた情報ではない"ため、健康に関する疑問があれば、患者さん自身のかかりつけの医師・薬剤師を頼ってもらうのが良いと考えているからです。

まあ、そもそも、一般の方々にわかりやすく正しい知識を発信するのは超むずかしくて、自分には無理です。
わかりやすくするのが難しいというと誤解を招きそうですが、言い換えると、わかりやすく線引きするのが難しいです。
"わかりやすく"するには、曖昧な部分についても明確に線引きする必要があります(明確な線引きをしないと素人の方々の気を引くことはできない)。
医療情報はきわめて曖昧ですし、controversialです(←カッコつけて最近よく目にする英語をつかってみた。議論の余地があるとか意見が分かれているという意味です)。エビデンスといっても、白黒はっきりするわけではなく、"どのくらい曖昧なのか"がわかる程度のものですよね。曖昧さの程度がわかるというか…。

よって、同じエビデンスを基にしながらも、主張は異なったりというのも多々あります。
これについてもいろいろと思うところがあるのですが、このつづきは、「何を信じるか」というタイトルで近日中にアップすることとして、今回はこのへんで終了ということで。

あっ、取扱説明書になっていないし、ポリシーも書いてないですね
まとめますと、

このブログの対象:医療関係者
(一般の方々、とくに患者さんがお読みになる場合、このブログの内容はあくまで参考程度にとどめ、身近なプロに相談を

このブログの目的:医療関係者の方々の日々の業務の助けになること
(目的を達成できていないことは自明のことであるし、そもそも最近は趣味の話しか書いていない件について厳しいご指摘があることと思いますが、当初はこういう目的でやってました)