pharmacist's record

日々の業務の向上のため、薬や病気について学んだことを記録します。細心の注意を払っていますが、古い情報が混ざっていたり、記載内容に誤りがある、論文の批判的吟味が不十分であるといった至らない点があるかもしれません。提供する情報に関しましては、一切の責任を負うことができませんので、予めご了承ください。また、無断転載はご遠慮ください。

初心者向け抄読会&レクチャーをやってみた

鉛よりも重い腰をあげて、初心者向け抄読会&レクチャーをやってみたのでご報告。

みなさん、身の回りで普及活動をしているみたいですが、どうやってるのか誰も開示してないですよね。
どんなスライドを用意してどんな流れでやってるんでしょうか…。

まあウチは隠すほどレベルのことはやってないので、スライドも抜粋してご紹介。
ところで、パワーポイントなんてろくにつかったことないので超適当です。べしゃりも適当でしたが。
みんな集まれるのなんて日曜しかないんだからね。日曜にまじめにレクチャーなんてするわけないんです。適当ですよ、適当。

さて、スライド(といっても機材なんてないので印刷配布です笑)は導入が大事なんじゃないかって気がするんですよね。
私がつくった1枚目はこちら

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架空の商品名を伏せたのは深い意味はありません。
で、これを踏まえて次の問いかけ
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いい感じに意見が分かれてくれてなによりでした。
「そもそも、このお客様の声ってのが疑わしい」というお手厳しい声があがるなか、
「この成分が配合されているなら飲んでみてもいい」という声も。ヘンな怪しい成分なら躊躇するけど、ビタミンやミネラルならまあ悪いことはないだろうという考え。なるほど。いろんな意見が出て、いい感じですね。

で、ひきつづいてこちら

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そして、ふたたび購入してみたいと思うかどうかの問いかけ。
けっこう効いているような感じがしますが…
プラセボ効果なんじゃないか!?」
お、出ました!プラセボ効果はけっこう有名ですよね。この概念は大事です。

さらにパワーアップして、

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で、購入してみたいかどうか。
……
このあたりでどんな意見がでたか私がメモるのを忘れてしまっているわけで。
年4回と6回だったら効果が微妙では?なんて気も。。

さて、こんな導入ではじめたのですが、
ざっくり言うと、
①は怪しい健康食品のサイトでありがちな内容ですよね。
要はいいとこどりのデータ。飲んだけど効かなかった人もたくさんいるのでは?ってなりますね。

②それならば効いた人、効かなかった人の割り合いを!
パッと見、けっこう効くんじゃん?って気がしますが…。
もちろんこれも微妙…。
ご指摘のとおりプラセボ効果もあるでしょう。こんなサプリを飲み始めればうがいや手洗いなんかも意識しだすかもしれません。
最大の問題点は、比較対照がないこと。飲んでいる人だけのデータなので、何と比較しているのか?という問題になる。で、何と比較しているかというと飲む前と比較している。前後比較ということですね。アウトカムが風邪なので、あらゆる因子がからんでしまいます。
観察期間が不明ですが、たとえば風邪流行期が過ぎた時点(春ごろ?)で試験開始すれば、自然と風邪引きにくくなったと感じてしまう購入者もいたりして…笑。
あとはYes/Noの自己評価なので、ちょっと評価があいまいですね。ますますプラセボ効果が出そうな感じ。
なんか効いてるかもぉ!って。

③このサプリを飲んだ人と飲まなかった人を比較だぁ!これでどうだぁ!!
まあ、飲まなかった人、ということなのでプラセボ効果は除外できません。
でも、ここで言いたかったのはその問題ではなくて。
おそらくこれがとっても大事なんだけど、ここが一番ご理解いただいてない部分かと。
この利用者100名と非利用者100名の背景がまったくわからないことが問題ですね。
これはいわゆる「ランダム化」をすればよいのですが、怪しい健康食品が載せてくるデータだとそのあたり適当かもしれません。非利用者が風邪をひきやすい集団かもしれませんよね。


で、ここから研究デザインについてのお話。
どこかのガイドラインから抜粋して、エビデンスレベルを。

ステマティックレビュー/メタアナリシス
ランダム化比較試験
コホート研究
症例対照研究(ケースコントロール
前後比較研究など対照群を伴わない研究
症例報告、ケースシリーズ
専門家の意見

まあ、だいたいちゃんとやれば、こんな順番になりますよと。
そして、簡単に各研究デザインについて解説。

では、最初のお題はどこに分類されるか?
①は症例報告かな?
②は前後比較
③は…前向きコホートでしょうか…。

症例報告の論文はとても勉強になりますし、おもしろいですが、あやしげな商品の売り込みに根拠としてつかっちゃ駄目って感じしょうか。

有効性を検討するならやっぱりランダム化比較試験だよってことで、論文へ。

まずこんなふうに読むんだよってことで、JJ CLIPの10分で読めるランダム化比較試験のワークシートを活用させていただいて、ACCORD試験を私主導で読んでみました
(青島先生、許可を頂きありがとうございます!)

Effects of intensive glucose lowering in type 2 diabetes. - PubMed - NCBI
N Engl J Med. 2008 Jun 12;358(24):2545-59. PMID;18539917

まあ、びっくり仰天した論文を選んだほうがいいかなってことでこれをピックアップ。
(しかし、これフローチャートが本文にないっていうね。あわててサプリメンタリを出して、みんなに見せるなど。)

ここで、PECO、真のアウトカム/代用のアウトカムなどを。リスク比とかNNTとか、信頼区間とか、ITT解析とか。そんな話をしましたかね。もう何を話したのか忘れつつありますが

このあたりでもう疲れてきましてね(誰が?→私が。)
大急ぎでシナリオへ。

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さて、ここでシナリオのPECOを考えて…

その日本の研究とはなんや?ってことで、見つけたのがこれ

Effect of vitamin C on common cold: randomized controlled trial. - PubMed - NCBI
Eur J Clin Nutr. 2006 Jan;60(1):9-17. PMID;16118650

これをまたワークシートをつかって読んでいこう!
ところが、適当に自分で選んでおいてアレですが、なんかややこしい論文でした。

アブストの結果は相対リスク0.34ですって!?
タイトルにいきなりRCTと書いてありますが、さてどうでしょう…?
プライマリアウトカムは??

と、ひととおり読んでみて、シナリオに戻ってどうする?
悩ましいですねぇ~。

ついてに他の研究ではどうだったのか気になるよねってことで、コクランレビューも紹介
ちなみにこれはvitamin c common coldでネット検索すれば1ページ目にあがってくる論文です。

Vitamin C for preventing and treating the common cold. - PubMed - NCBI
Cochrane Database Syst Rev. 2013 Jan 31;(1):CD000980. PMID;23440782

さて、このシナリオとビタミンC論文の解釈、現場への適用に関して、自分なりにいろいろお話したような気がしますが、それは秘密にしておきます(というか何を話したか忘れました)。

で、おひらき。

となると、なんだよ、もやもやして終わりかよってなりそうな不安もあり、実際、現場でどんなふうに一次情報を活用しているかっていうのをPCをつかってご紹介。
大学病院の処方で小児への適応外使用を例にあげて、小児用量を海外論文から引っ張ってきて妥当かどうか照らし合わせるのが検索で瞬殺だったよって話をしました。検索ワードも教えました。

ほかにも最近の事例をいくつか紹介し、手の届かないところにも一次情報なら手が届くっていうのを紹介して、全員疲れ果てたところで終了。おつかれーって感じでした。


いろいろと突っ込みどころがありそうですが、休日のゆる~い勉強会ですからね、こんなもんですよ。
事前にちゃんとお題論文読んでおかないといけないな、という反省はありました汗

なにはともあれ、勉強になりましたね。
説明するのって大変~。
また似たようなことをやるのであれば、もうちょっとブラッシュアップできるでしょうか。
別のメンバーを集めて、またやるのか。それとも第二回をやるのか…。
気の向くままにやるだけなので、とりあえずは終了!

音楽の話をしよう Massive Attack × Young Fathers

massiveattack.tokyo

行ってきました。

豊洲PIT

はじめての箱

こんなところにライブをやるところがあったとは…。

まずはYoung Fathersのライブ。めちゃくちゃかっこいい。
Young Fathersのことはリアルタイムでは知らなかったのですが、彼らが始動したのは2014年くらいから。これをスルーしていた自分のアンテナが完全に折れていることを自覚。

まだ観てないのですが、トレインスポッティングの続編に起用されたと聞いて、まさにトレインスポッティングの世界観にぴったりだなと。
Young Fathers大好きになりました。


そして、帝王Massive Attack
ホレスアンディも登場。もうテンション高まる。
2010年のフジロックも最高でしたが、今回もやはり彼らは裏切らない。
彼らの音はやはり唯一無二。圧倒的。

Young Fathersもふたたび登場し、Voodoo In My Blood
血液が妖しく煮えたぎっていくような…。

もう戻れないところまでつれてってくれ!て感じでした

そして、ラストは大好きなSplitting the Atom
もうね、生きてて良かったと思いました。

彼らのすばらしい音楽をぜひきいてみてほしいです
Mezzanine - Massive Attack
ホープ・サンドバル参加の「The Spoil」のMVが見れます。
なんと、ケイト・ブランシェットが出演。

そして、冒頭の東京公演のホームページで閲覧できる、Voodoo In My Bloodはここ数年でもっともインパクトがあるMVでした。
この演技…、無名の人ではないだろうなと思って調べてみたら、出演は映画『ゴーンガール』のロザムンド・パイク

さすが、Massive AttackともなるとMV出演者が豪華すぎますね。

さて…、
ライブが終わり、もう完全に抜け殻です。

そういえば、Massive Attackのライブ冒頭で、スクリーンに「なんのために生きているのか」と日本語で表示されてドキッとしました。
ここ最近ずっと考えていたことだったので心臓止まるかと思いました。

答えは…ひとつしかない。
それは質問を投げかけてきた彼らが教えてくれました。

物忘れにオンジは有効? 

話題のオンジ(遠志)製剤について。

OTCで売られているんですねー。
効能は?
「中年期以降の物忘れの改善」

な、なんと…これは自分に必要なものなのではないか…。
そう思ったのは私だけではないはず。

漢方メーカーさんのサイトに飛んでみると、まあそれっぽいことがいろいろ書いてあります。
「心(しん)」だとか「血(けつ)」だとか、何度、読み返してもまったく頭に入ってこないので、私、物忘れ以前の問題かもしれません。

で、ハロウィンの日に出された厚生労働省通知がこちら
http://wwwhourei.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T171106I0020.pdf

そう。
そりゃ、そうなりますよ
物忘れに効くだなんて表示されてる一般用医薬品があれば、認知症に効くんだ!と思いますよね。

物忘れと認知症は違うということでリンク先へ飛んでみると、
正常な物忘れと認知症による物忘れの違いなんてものが書いてあったりするんですけどね…

「"正常"な物忘れ」ってなに?
それは病気なんですか?症状なんですか?

"正常"な○○に医薬品が有効ってどういうことなんでしょうね。自分にはよくわかりません。
なんらかの異常があって、それを薬で治療するんじゃないの?
屁理屈をこねるんじゃない!と言われそうですが(汗)

まあ、年相応に物忘れが増えていくという現象を防げるなら、それはそれで凄いので、"本当に"オンジが物忘れに効くのかPubってみましょう

オンジの英語名は…
日本薬局方を確認してみると、
オンジは、イトヒメハギPolygala tenuifolia Willdenow(Polygalaceae)の根又は根皮だそうです。

Pubってみると、いろいろ出てきたので、Clinical Trialで絞り込むと2つの試験が出てきました。

Effects of BT-11 on memory in healthy humans. - PubMed - NCBI
Neurosci Lett. 2009 Apr 24;454(2):111-4.PMID;19429065
DB-RCT
P:healthy humans
E:BT-11(オンジに含まれる成分らしい)
C:プラセボ
O:The Korean version of the California Verbal Learning Test (K-CVLT) and the Self-Ordered Pointing Test (SOPT)
試験期間:4週

被験者数がアブストに載ってないですね。
アウトカムがよくわかりませんが、assess verbal memory and working memoryってことなので、記憶力を評価するためのテストのようです。

プラセボよりも結果がよかったそうなのですが、どの程度よかったのか一切書いてないのでフルテキスト読んでみないとなんともいえませんね。


BT-11 is effective for enhancing cognitive functions in the elderly humans. - PubMed - NCBI
Neurosci Lett. 2009 Nov 13;465(2):157-9. PMID;19699261
Roots of Polygala tenuifolia Willdenowの抽出物のBT-11はVitroで inhibited acetylcholinesterase activitiesがあると。
DB-RCT
P: the elderly humans(認知機能がどうかはアブストに記載なし)
E:BT-11-treated group (n=28)
C:the placebo-treated group (n=25).
O:the Consortium to Establish a Registry for Alzheimer's Disease Assessment Packet (CERAD) and the Mini-Mental State Examination (MMSE).

ようやく馴染みのあるアウトカムがでてきました
MMSEはどうだったんでしょうね。
が、しかし…。アブストにMMSEの結果は記載なし。
記載がないってことは駄目だったんでしょうか。

CERAD scoresはよくなったと書いてあります。
結論には高齢者の認知機能(記憶力を含む)を増強でき、疾病の治療や予防にも有益じゃないかとまで書かれています。

フルテキスト読んでみないとなんとも評価しがたいところですね
ちなみに、これらはどちらも2009年の報告。
それ以降、続報は無し…。


これだけではちょっとなんとも言えないような気が。
Pubmedでこれしか見つからなかったので、オンジを認知症患者に投与したRCTはどうやら存在しないみたいですね。
(やってみたけどネガティブだったから報告されていないという可能性はある)


ところで、OTCの効能効果の承認とかまったく知らないのですが、厚生労働省が認めたってことですよね?オンジには中年以降の物忘れに効果があると。
その根拠ってなんなんでしょ。

薬生審査発1225第6号「生薬のエキス製剤の製造販売承認申請に係るガイダンスについて」(平成27年12月25日付)
https://www.pmda.go.jp/files/000209984.pdf
オンジ、載ってますね。
根拠を見てみると、Pubって見つけた上記のRCT2つが筆頭に載っており、他は文献はClinical Trialではない模様。
いわゆるRCTはこの2つしかないということですね。

効能効果を認めたということはこれらのRCTの質は問題なかったということでしょうか。
俄然、全文読んでみたくなりますね。

ただ、オンジは中年期以降の物忘れに効能効果を認めつつ、認知症の予防や治療には効果を認めていないというのが厚生労働省の見解。
2つ目のRCTの背景に記載されていたように、コリンエステラーゼ阻害作用が作用機序だとしたら、認知症にもいけそうな気がしなくもないですが、もちろん臨床試験をきちんと行わないといけません。
そもそもコリンエステラーゼ阻害薬の効果はどの程度かっていうと、けっこう微妙なところですよね。莫大な医療費をつかってルーチンで延々と投与する価値のあるものなのかはきちんと吟味する余地がありそうな気もしますが。。。

ちなみにこのオンジという生薬は人参養栄湯に入っているそうです。
認知症にも効くという触れ込みでこの漢方を売り込んでいるメーカーさんがいるとかいないとか…。

Effect of ninjin'yoeito, a Kampo (traditional Japanese) medicine, on cognitive impairment and depression in patients with Alzheimer's disease: 2 ye... - PubMed - NCBI
Psychogeriatrics. 2016 Mar;16(2):85-92.PMID:25918972
みなさまのところにも、こんな文献の結果を都合よく利用して、メーカーさんがアピールしにきますよ~。
Alzheimer's Disease Assessment Scale-cognitive component-Japanese versionとかいうスコアが改善したらしいですが、ランダム化も盲検化もされていないですし、MMSEは有意差無しですからね。慎重に評価しましょう。

プラセボ効果を上回るレベルの有効性があるといえるかどうか、個人的にはまだ保留ですね。
認知機能が落ちている患者さんで、人参養栄湯の適応となるような病状の場合、認知機能にもいいですよー!とプラセボ効果を狙うのはアリなのかなぁ…という気もしなくもないのですが、みなさまいかがでしょうか?

さて、今回の記事の内容も、1ヶ月もすれば私の頭の中から消え去りそうな予感。
忘れるって必ずしも悪いことではないような気がするんですけどね(勉強したことを忘れるのは不味いですが)
長いこと生きてきたら、そりゃあ嫌なことがたくさんあります。生きるための防衛本能として、忘れる=嫌なことを消去するという機能が備わっているんじゃないかと肯定的に考えてるのですが、強烈な嫌な出来事はさすがに忘れることができないかもしれませんね。ただ、鮮度は薄れていくとは思います。
自分の記憶力が天才的によかったら、ちょっとした失敗も永遠と覚えていてクヨクヨするかもしれません。天才なら失敗しないかもしれませんが…。

年相応に物忘れが増えていくことを病気として問題視するかどうか…、というのが今回の主題かもしれません。
私はやむをえないと思うので、小規模DB-RCTで効果アリとなっていても服用しませんね。劇的に効くとは思えないですし。
重要なのは、自分の物忘れが増えてきたということを自覚し、対策できているかどうか、でしょう。
業務上、物忘れは大きな問題となりますが、いろいろと根回しをすれば良いんです(十分できてないですが)。
たとえば、年に一度の提出物とか、たまにやる業務ありますよね。2年に1回とかもう絶望的です(行政関係の更新とか)。はい、もう絶対忘れる。
自分は次にこの手続きをやるときの自分のために、スケジュールに入れておきますし、やり方も残しておきます。絶対忘れるとわかっているので。未来の自分へのメッセージですね。「おおお!ありがとう昔の俺よ!」と歓喜することがしばしば。

このブログだって、自分のために残しているようなものです。そういえばこの件は調べてブログに書いたような…と思って検索すると、おお、調べてあるゥゥ!ってなりますし。検索機能もアツいですよね。ブログ以外にもアプリで管理していますが、PMIDを検索するのは必須。いざ読もうと思ったら、過去にチェック済だったりして…。

認知症のケアで大事なのは、とにかく薬を飲ませろ!ということだけが大事なのではなく、まわりのケア・サポートが大事であるのと同じで、物忘れのケアとして大事なのは、日常に支障をきたさないような未来の自分への対策ではないかと思う今日この頃です。
(あっ、今日○○を買うの忘れた。。。明日、買いに行かなくては。買いに…。明日の自分にメールを…)