pharmacist's record

日々の業務の向上のため、薬や病気について学んだことを記録します。細心の注意を払っていますが、古い情報が混ざっていたり、記載内容に誤りがある、論文の批判的吟味が不十分であるといった至らない点があるかもしれません。提供する情報に関しましては、一切の責任を負うことができませんので、予めご了承ください。また、無断転載はご遠慮ください。

「立てよ、薬剤師」→「「「「はい!」」」」

ph-lelouch.com
「いやです、もう少し寝かせてください」と反射的に思ったアナタはすぐに休養をとってください。「有休なんてものは存在しない」って?そ、そうでしたか…、それは失礼しました。

さて、フラつき度MAXで家にたどり着き、お布団にズサーッと滑り込んでスマホを眺めていたら、るるーちゅ先生の熱いメッセージが発信されていました。

「ググれカス」ではなく「ググってもカス」ですか笑
いわゆるリテラシーってやつですかね。
国内の教育は情報詰め込み型なので、情報を吟味する能力に長けることのないまま社会に放り出されるという印象があります。「国内の教育は…」なんて出だしで書くと、さも、海外の教育に精通しているかのようにみえますね。実際はなんも知りませんけど。

さて、この通称「ググる」ですが、グーグルで検索した結果、上位に挙がってくるサイトが影響力を示すことになります。
が、しかし日本の検索エンジンは…、
ph-minimal.hatenablog.com
半年前の記事…

我々、医療従事者は、パッと見で、このサイトは怪しい…とピンときますが、一般の方にとっては難しいでしょうね。

一般の方はどんなことを気をつければいいんだろうなぁ…と考えてみたところ(実際は考えるフリをして過去のブログ記事を流し見ただけ)、こんなクライテリアが提唱されていました
ph-minimal.hatenablog.com
過去記事を引用します。
「医療情報の取り扱いとしてクライテリアを考えました!

1.出典(参考文献)があきらかでない医療情報は読まない。

なんという覚えやすいクライテリアなんでしょう!
まあ、実際はこれだけでは不十分でしょうけど、このクライテリアだけでかなり厳選できるように思います。

もちろん、過去記事で書いたとおり、これを踏まえたうえで、かかりつけの医療従事者に助けを求めるのがベストだと思っています。ネットに書いてあること(このブログを含む)を安易に鵜呑みにしないほうがよいです。

なぜなら、

ネットに書いてあることは、"あなた"のために書かれたものではないからです。

一方、かかりつけの医師・薬剤師は、"あなた"に情報を提供します。誰を信じるべきかは一目瞭然かと思うのですが、テレビやネットの内容を信じてしまうのは不思議ですね。
不思議ではあるのですが不思議のまま終わりにせず、ここをきちんと掘り下げることが重要だと考えています。
で・す・が、そろそろ眠くなってきました。あとは、るるーちゅ先生の声で立ち上がったであろう多くの薬剤師ブロガーさんたちにお任せしましょう。おやすみなさいzzz。

NOACの出血リスクは相互作用が懸念される他剤との併用により上昇する?

Association Between Use of Non-Vitamin K Oral Anticoagulants With and Without Concurrent Medications and Risk of Major Bleeding in Nonvalvular Atri... - PubMed - NCBI
JAMA. 2017 Oct 3;318(13):1250-1259.PMID:28973247

目的:NVAFに対するNOACの出血リスクを併用薬(NOACと代謝経路を共有する薬剤)の有無で評価

研究デザイン:Retrospective cohort study
(台湾のデータベースを使用 91 330 patients with nonvalvular atrial fibrillation who received at least 1 NOAC prescription of dabigatran, rivaroxaban, or apixaban )

P:NVAF
E:NOAC+代謝経路を共有する薬剤
C:NOAC単剤
O:出血リスク

検討した併用薬は、
atorvastatin; digoxin; verapamil; diltiazem; amiodarone; fluconazole; ketoconazole, itraconazole, voriconazole, or posaconazole; cyclosporine; erythromycin or clarithromycin; dronedarone; rifampin; or phenytoin.

アウトカムの「出血」の定義は、
Major bleeding, defined as hospitalization or emergency department visit with a primary diagnosis of intracranial hemorrhage or gastrointestinal, urogenital, or other bleeding. 


<結果>
NVAF91330名(平均年齢75歳、男性56%)
NOAC exposure: dabigatran, 45 347 patients; rivaroxaban, 54 006 patients; and apixaban, 12 886 patients
4770 major bleeding events occurred during 447 037 person-quarters

出血リスクが増加した併用薬は以下のとおり
adjusted incidence rates per 1000 person-years of major bleeding
38.09 for NOAC use alone vs 52.04 for amiodarone (difference, 13.94 [99% CI, 9.76-18.13])
102.77 for NOAC use alone vs 241.92 for fluconazole (difference, 138.46 [99% CI, 80.96-195.97])
65.66 for NOAC use alone vs 103.14 for rifampin (difference, 36.90 [99% CI, 1.59-72.22);
56.07 for NOAC use alone vs 108.52 for phenytoin (difference, 52.31 [99% CI, 32.18-72.44]). 

出血リスクが減少したのは
atorvastatin, digoxin, and erythromycin or clarithromycin 

有意差がなかった併用薬は
verapamil; diltiazem; cyclosporine; ketoconazole, itraconazole, voriconazole, or posaconazole; and dronedarone


結果を考察する前に…

各薬剤のプロファイルは?

Drug Development and Drug Interactions: Table of Substrates, Inhibitors and Inducers
上記FDAのサイトを調べつつ、添付文書もチェック。
《》内は添付文書の記載。特筆すべき内容がなければスルーしてます。

・ダビガトランdabigatran:P-gpの基質
《P-糖蛋白の基質である。本剤は肝薬物代謝酵素P-450による代謝を受けない》
・リバーロキサバンrivaroxaban:CYP3Aの基質(中程度の感度)
《チトクロームP450 3A4及び2J2(CYP3A4及びCYP2J2)により代謝される.また,本剤はP-糖蛋白及び乳癌耐性蛋白(BCRP)の基質》
・アピキサバンapixaban:FDAサイトに記載なし(新しいから???)
《主にCYP3A4/5によって代謝される。また、本剤はP-糖蛋白及び乳癌耐性蛋白(BCRP)の基質となる》


・アトルバスタチンatorvastatin:CYP3Aの基質(中程度の感度)、OATP1B1/OATP1B3の基質
ジゴキシンdigoxin:P-gpの基質
・ベラパミルverapamil:CYP3Aを阻害(中等度)、CYP3Aの基質(中程度の感度)、P-gpを阻害
《肝代謝酵素CYP3A4で代謝される。また、本剤はP‐糖蛋白の基質であるとともに、P‐糖蛋白に対して阻害作用を有する》
・ジルチアゼムdiltiazem:CYP3Aを阻害(強)(P-gp inhibitorと注釈あり)
・アミオダロンamiodarone:CYP2C9阻害(中等度)、CYP2D6阻害(弱)、P-gp阻害
《主として肝代謝酵素CYP3A4で代謝される》
・フルコナゾールfluconazole:CYP2C19阻害(強)、CYP2C9阻害(中等度)、CYP3A阻害(中等度)
・ケトコナゾールketoconazole:CYP3A阻害(強)、P-gp阻害(vitro)
・イトラコナゾールitraconazole:CYP3A阻害(強)、P-gp阻害
・ボリコナゾールvoriconazole:CYP3A阻害(強)、CYP2B6阻害(弱)、CYP2C9阻害(弱)、CYP2C19(弱)
・posaconazole:国内未発売のためスルー!
・シクロスポリンcyclosporine:CYP3A阻害(中等度)、P-gp阻害、BCRP阻害、OATP1B1/OATP1B3阻害
・エリスロマイシンerythromycin:CYP3A阻害(中等度)、OATP1B1/OATP1B3阻害
クラリスロマイシンclarithromycin:CYP3A阻害(強)、P-gp阻害、OATP1B1/OATP1B3阻害
・dronedarone:国内未発売のためスルー!(心房細動につかう抗不整脈薬らしい・・。アミオダロンとhead to headでやってる)
・リファンピシンrifampin:CYP1A2誘導(中等度)、CYP2B6誘導(中等度)、CYP2C8誘導(中等度)、CYP2C9誘導(中等度)、CYP2C19誘導(強)、CYP3A誘導(強)、OATP1B1/OATP1B3阻害
《チトクロームP450 3A4(CYP3A4)をはじめとする肝薬物代謝酵素、P糖蛋白を誘導する作用がある》
・フェニトインphenytoin:CYP3A誘導(強)、CYP1A2誘導(中等度)、CYP2C19誘導(中等度)、CYP2C9の基質(中程度の感度)、CYP2C19の基質(強、S-mephenytoin)
《薬物代謝酵素CYP2C9及び一部CYP2C19で代謝される。また、CYP3A、CYP2B6及びP糖蛋白の誘導作用を有する》


ぐぬぬ…、疲れた。
(転記ミスの可能性もゼロではないので、臨床判断の際には、原典をご確認ください。)

ちょっと気になったのは、リファンピシン、フェニトインともに、添付文書にはP糖たんぱく誘導との記載があるが、FDAのサイトには記載がないこと。


と、まあこんな感じなのですが、いかがでしょう?
個人的には何がなにやら…という結果です。

アブストに記載されているデータは、NOACとしてひとくくりにして評価されてしまっており、あまり有用なデータとはいえないように思います。
前述のとおり、NOACの代謝経路は同一ではないので、それをまとめてしまったら元も子もないような…。
(大きな違いは、ダビガトランがCYPの影響を受けないとされていることでしょうか)

傾向スコアを使用して調整したみたいですが、交絡まみれでわけがわからなくなってんじゃないの?という気もしますね。

作用機序から予想される結果と相反するものもあります。

たとえばこのアブストのデータにより、リファンピシンはNOACの出血リスクを高めると言えるのでしょうか…?
リファンピシンは各種CYPの誘導、P-gp誘導、OATP阻害とされていますが、これだとNOACの効果を弱めるのではないかと推測されますが、コホート研究の結果は出血リスク増大となりました。では、リファンピシンはNOACの作用を強めるか?と言われれば、それは違うのではないかと。

CAM,EMは有意差がなかったからといって、NOACの作用に影響しないと言えるのでしょうか?
CYP3A阻害作用による影響を無視できるかどうか、この研究だけでは判断できないように思います。

シクロスポリンも有意差無しとのことですが、CYPもP-gpも阻害…。本当に影響はないのでしょうか?

この研究、どのように解析したのかわかりませんが、後ろ向きコホートということで、リアルワールドのデータを使用しているということになります。ということは、併用薬を考慮して投与量を調節した上でのNOAC使用のデータだと考えられます。
もしかしたら、リファンピシン飲んでいるから本来低用量とすべき症例に高用量で投与したり…ということもあったのかな?などいろいろ考えさせられます。

このアブストの結果をみた自分の感想としては、薬物動態的に相互作用を起こしうる薬剤との併用は要注意。投与量を調節すること自体が難しい
という印象を受けました。

NOACの登場以降、ありとあらゆる論文が量産され、わけがわからない状況となっており、なにがベストなのかといろいろ悩まされます。個人的にはこのNOACが良い・悪いというのではなく、各薬剤のプロファイルからコントロールしやすいものを選ぶのが良いのではないかと考えています。
(CYPに影響するような薬剤をたくさん使っている患者さんには、ダビガトランが使いやすいなど。)

RCTではおそらく相互作用のある薬剤が投与されている患者さんは除外されてるのではないでしょうか?(すみません、ちゃんと調べてないのであくまで推測です。NOACに都合の悪いデータがでたら困るので、除外されてそうな印象)
ですが、リアルワールドではそんなことは不可能でしょう。なにかしら相互作用をおこしうる薬剤を投与されていることのほうが多いのではないでしょうか。服用している薬がどのNOACとも相互作用をおこしうるのであれば、ワルファリンでのコントロール(PT-INRをチェック)のほうがイケてるかもしれません。

やみくもにどのNOACがベストか、といった解析をするのではなく、○○を服用している患者さんにはこのNOACが使いやすい(あるいはNOACは全滅でワルファリンがベスト!など)というようなことを紐解いていくべきではないかと思っています。


さて、ひさしぶりにNOAC関連の文献をピックアップしました
NOACについては、さまざまな研究結果が出てきて、とてもこの領域は追いきれないなと思い、NOAC論文はあえてスルーしてきたという経緯があります。

では、なぜ今回、NOACをとりあげたかというと…


https://aheadmap.jimdo.com/過去のお知らせ/
このブログをお読みになられている方は、すでにご存知かと思いますが、黄川田先生(通称;ニンジャ先生)がご逝去されました。
ニンジャ先生が運営されていたブログ(【薬局薬剤師の記録的巻物】)は薬局薬剤師がエビデンスベースで情報発信をする先駆けとなり、多くのフォロワーを生みました(私もそのひとり。ブログを開設するにあたって、はてなブログを選んだのはニンジャ先生の影響です)。
いろいろと忙しいとき、エビデンスベースの勉強なんてやめてしまおう(3次資料のほうが楽だし)!ブログもやめちまえ!と何度も思いましたが、絶え間なく情報発信を続けるニンジャ先生をみて、くじけずに続けてきたように思います。

一昨日、JAMAのメールで、今回とりあげた論文を見たとき、「ああ、NOACか。併用薬関連で面白そうだけど、自分はNOACは苦手だし、ニンジャ先生が取り上げてくれるだろう」と思い、ハッとしました。ニンジャ先生は以前よりNOAC関連を漏らさずピックアップしていたように思いますので、今回もニンジャ先生が…と思ったのです。ニンジャ先生がご存命なら、間違いなくこの論文を取り上げたことでしょう。
といった経緯から、僭越ながら、ニンジャ先生のかわりに私が取り上げた次第です。

薬剤師による論文関連の情報発信が増えてきたことですし、私はマイペースで更新を続けていこうと思っています。
あとは我々に任せて頂いて、ニンジャ先生はゆっくりとお休みください。
おつかれさまでした。

滲出性中耳炎 モンテルカストvsモメタゾン点鼻vs無治療

Montelukast versus inhaled mometasone for treatment of otitis media with effusion in children: A randomized controlled trial. - PubMed - NCBI
Electron Physician. 2017 Jul 25;9(7):4890-4894.PMID:28894551

背景として、
In otitis media with effusion(OME), several medications are recommended, including antibiotics, antihistamines, and inhaled and oral corticosteroids, but the treatment response is controversial
ということで検討してみたと。

脱線しますが、controversialって最近ふつうに会話の中でもよく使われてる感じでしょうか。「その意義についてはcontroversialだね」って自分も日常で使いそうになるけど、職場でそんな単語つかったら「は?」てなりそうなので自粛してます。でも他職種とやりとりする上ではそういう言葉も知っておかないとついていけないと思うんですけどねぇ。

さて研究の概要を。

ランダム化:あり
盲検化:なし(研究者・評価者は盲検化)

P:2~6歳の滲出性中耳炎otitis media with effusion
E1:モンテルカスト4ml/1日1回 59名
E2:モメタゾン点鼻 40名
C:無治療 44名
O:tympanometry
介入期間:1ヵ月
スポンサー:Hormozgan University of Medical Sciences

ティンパノメトリー:鼓膜の動き易さ(弾力性)を計るもの

患者除外基準
ステロイドやモンテルカストを使用している患者、または両剤で過敏症の既往のある患者
慢性肺疾患、心疾患、免疫不全
アレルギー性鼻炎

サンプルサイズの計算なし

脱落(lost)がなんとゼロ。
介入中断も無し

結果
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5587009/table/t2-epj-09-4890/
ほとんど差はないように見受けられます。

オープンラベルですが、アウトカムが鼓膜の弾力性ですから、プラセボ効果の影響は少ないのかなという気がします(根拠なし)。不眠とか痛みとかはプラセボ効果がそこそこ影響しそうですけど。
まあ、でもどっちみち差がないですからね…。

考察を見てみましょう。

Although OME can be asymptomatic, without treatment it may lead to auditory problems or learning disorders.
滲出性中耳炎は症状がないこともあるが、治療しないと、聴覚障害学習障害につながる恐れがあるそうです。

過去の研究にも言及されているようなので、いくつかピックアップ

こちらは2~12歳対象でモメタゾンで有効性を示したスタディ
A double-blind randomized placebo-controlled trial of topical intranasal mometasone furoate nasal spray in children of adenoidal hypertrophy with o... - PubMed - NCBI
Am J Otolaryngol. 2014 Nov-Dec;35(6):766-70. PMID:25151658
治療期間が長いです
0, 8 and 24 weeks


これはモンテルカスト 2~12歳
The effect of montelukast sodium on the duration of effusion of otitis media. - PubMed - NCBI
Clin Pediatr (Phila). 2004 Jul-Aug;43(6):529-33.PMID:15248005
アモキシシリン+モンテルカスト(29名)vsアモキシシリン+プラセボ(31名) 30日間
the duration of the effusion of otitis mediaを減らせるかどうかを検討
抗菌薬にかぶせての使用ですね。

At a 4-week follow-up visit, 5 ears (16%) were free of effusion in the placebo group and 17 (58%) in the montelukast sodium group
フォロー4週ですが、有効だった模様。


各研究結果も割れてるようですね。
小児の滲出性中耳炎については国内のガイドライン(2015年版)がありますが、LTRAは記載がないので推奨か非推奨か不明(評価できないということでしょうか?)、ステロイド点鼻はアレルギー性鼻炎の合併がない限り有効性は認められていないとのこと。

なるほど。
ということは今回のモンテルカストvs点鼻ステロイドvs無治療のRCTの結果はまあ想定内って感じですかね。
ただ注意すべきは「アレルギー性鼻炎の患児は除外されている」ことでしょうか。アレルギー性鼻炎合併の滲出性中耳炎には有効なんですかねぇ。ちょっと調べてみたいところですが、また今度にします(←二度と取り上げないフラグ)。