pharmacist's record

日々の業務の向上のため、薬や病気について学んだことを記録します。細心の注意を払っていますが、古い情報が混ざっていたり、記載内容に誤りがある、論文の批判的吟味が不十分であるといった至らない点があるかもしれません。提供する情報に関しましては、一切の責任を負うことができませんので、予めご了承ください。また、無断転載はご遠慮ください。

JJ CLIP #47「血糖測定で糖尿病の診断は正確にできるの?」

8月のJJ CLIP配信、みなさま視聴なさいましたか?

pharmasahiro.hatenablog.com

先月、このブログでも超ざっくりと取り上げましたが
糖尿病スクリーニング、HbA1cの特異度が低い件 - pharmacist's record
この糖尿病のスクリーニングの論文の抄読会でございました。

この難解な論文、せっかくですので再度まとめておきます
これPubmedのページにはリンクがないんですが、全文フリーだったんですね!
Efficacy and effectiveness of screen and treat policies in prevention of type 2 diabetes: systematic review and meta-analysis of screening tests an... - PubMed - NCBI
http://www.bmj.com/content/356/bmj.i6538

P:participants were aged ≥18 and had been identified as being in one of the “at risk” groups (impaired glucose tolerance, impaired fasting glucose, raised HbA1c, or a history of gestational diabetes).
E:HbA1cや空腹時血糖の測定
C:oral glucose tolerance test was the reference standard.
O:糖尿病前症の診断精度(pre-diabetes)

pre-diabetesの診断基準って何でしょうね?
本文探してみると、
In the US, the American Diabetes Association criteria recommend a diagnosis of pre-diabetes in people with a fasting plasma glucose concentration of 5.6-6.9 mmol/L or HbA1c of 39-47 mmol/mol (5.7-6.4%). WHO (World Health Organization) and the International Expert Committee recommend a fasting plasma glucose cut off of 6.0-6.9 mmol/L and HbA1c of 42-47 mmol/mol (6.0-6.4%)

ADAの一般向けサイト(わかりやすい!)
Diagnosing Diabetes and Learning About Prediabetes: American Diabetes Association®

このなかで一番信頼性が高いOGTTを診断の基準としたってことですかね。
(信頼性が高いのかどうかよく知りませんが、OGTTがリファレンスとなってます。)

文献は英語以外もサーチ
2名で独立して研究の同定や評価、解決しなければディスカッション。
未出版は探してないっぽい

データベースはMedline, PreMedline, and Embase.
PreMedlineてなんでしょうね?もしかして発表まえの文献とか???違うか…。
研究プロトコルなどもGoogle Scholaで追跡してるみたいですが、未出版を徹底的に探せてないんですかねぇ。
まあまあ多くの文献を集めてきているので、ちょっとくらい漏れててもそんなに結果に影響はなさそうな感じです。

元論文バイアスについてはQUADAS bias(診断精度研究の評価ツール)で評価しています。

で、結果はFig2のとおり。
http://www.bmj.com/content/bmj/356/bmj.i6538/F2.large.jpg
バイアス高い研究を除いても同じような結果みたいですね。
HbA1cの感度49%、特異度79%

スクリーニングとしては微妙ですね。
で、このFigにROC曲線も載っているんですが、、、

ん????

縦軸と横軸のバランスwwww

これおかしいですよね。縦軸と横軸の幅は同じにしてもらわないといけないんじゃないかと思うのですが…。
より対角線上に見える(スクリーニングの精度が低く見える)ような描き方になっているような気がするのは私だけでしょうか。。
こんなに精度が悪いんだよ!と視覚的に訴えたいのかな?という気がしてしまいます。
(まったくの見当違いの指摘でしたらご容赦ください!)

まあ、グラフの描き方は置いといて…

感度5割の特異度8割です。
陽性的中率:8割
陰性的中率:5割

ざっくりとLRに直すと…
LR+:2.5
LR-:0.63

スクリーニング検査なのに陰性的中率5割とはこれいかに。。。
(まあ、この的中率はどんな患者集団かによってかわってくるので誤解のないようご注意を。)

これはもしやスクリーニング検査の精度の低さが、↓このような重要なアウトカムの減少に繋がらない一因である可能性もでてきたといえるのでしょうか。
Screening for type 2 diabetes and population mortality over 10 years (ADDITION-Cambridge): a cluster-randomised controlled trial. - PubMed - NCBI
Lancet. 2012 Nov 17;380(9855):1741-8
いやいや、早期介入自体が微妙なんじゃないか?と思われる方もいらっしゃるでしょうかね。
糖尿病のようなスパンの長い疾患は結局のところ予後への影響がどうなのかよくわからないのが現状じゃないかと思います

まあ、なにはともあれ、HbA1cのスクリーニング検査の実力はこんなところのようです。
薬局で検査を実施している場合は、こういう情報もきちんと把握しておいたほうが良いと思います。

健康診断を年1回行っているのであれば、追加のスクリーニングにどれだけの意義があるのか…。うーん。微妙な気もしますけどね~…。

運動するときに予防的に鎮痛薬を飲んでもいいですか?  地域医療ジャーナル 2017年9月号 vol.3

cmj.publishers.fm

地域医療ジャーナル9月号です。

早いもので私が参加させていただくようになってからそろそろ1年…。
あっという間ですね。

今回はガラにもなくスポーツについて取り上げました。
世の中には鎮痛薬を飲んでからフルマラソンに臨む市民ランナーもいらっしゃるようです。
痛みを抑えて少しでもタイムを短縮!ということなのでしょうか。
そこまでしなくても…と思うのですが価値観は人それぞれ。
ただしこの長時間耐久運動の際に予防的に鎮痛薬を飲むことは推奨されていません。国内のメディア(主にネット記事)でもしばしば取り上げられています。(引用文献はBMJに掲載された観察研究 PMID23604350)

つい最近、小規模ではありますがRCTの論文が発表されたのでそれも踏まえてまとめてみました。よろしければご覧になってみてください。

そして、次号は特集号です。
テーマは「冷酷なエビデンス
たしかに、効果があると思っていた治療法がRCTやってみたらネガティブでした…みたいなエビデンスがチラホラ…。
現在、鋭意執筆中ですので乞うご期待。
記者全員が同じテーマで執筆ということで、さまざまな考え方がお楽しみいただけるのではないかと思っています。(私の思慮の浅さが露呈する恐れも…)

寝不足と転倒リスク

高齢者の転倒→骨折→ADL低下
という流れは、予後に多大な影響を与える問題かと思います。

眠剤の服用と骨折リスクについてはだいぶ前に取り上げました。
ph-minimal.hatenablog.com

筋弛緩作用が弱い眠剤は転倒リスクが低いという説をくつがえすような研究結果が多かったように記憶しています。

そこでふと思ったのですが、「転倒」とはなんでしょうね。

いやいや、転ぶことだろ! ていう話なんですが、どういうときに人は転ぶのでしょう?

筋力低下があれば転びやすいだろうなというのは自然な考え方ですが、意識がはっきりしていて認知機能も問題ないのであれば筋力が弱いなら弱いなりの行動をとって転ばないように気をつけるんじゃないかな?という気もします(もちろん筋力がなくて踏ん張れずに転ぶということもあるでしょうけど)

どちらかというと認知機能のほうが転倒に影響するような気がしてしまうのは私だけでしょうか?

実際、自分が転びそうになるのは、ボーッとしているときです。
筋肉痛(ケミカルブラザーズのライブによる)で足に力が入らないよぉ~というときに転びそうになるかというと、まったく平気。足がダメになってるという意識があるので、気をつけるからでしょうね。

眠剤による転倒リスクを示唆する文献は多いですが、寝不足と転倒の関連はどうでしょう?

2000年に実施された電話インタビュー調査
Sleep problems as a risk factor for falls in a sample of community-dwelling adults aged 64-99 years. - PubMed - NCBI
J Am Geriatr Soc. 2000 Oct;48(10):1234-40.

64~99歳を対象(男性555名、女性971名)

284名が過去1年以内に転倒あり

リスクファクターは女性、未婚、独居、低年収、歩行困難、複数の慢性疾患、高血圧、関節炎、夜間の睡眠問題など。

電話調査による横断研究のため、あくまで参考程度というところでしょうか。



最近の報告ですと…
Excessive daytime sleepiness and falls among older men and women: cross-sectional examination of a population-based sample. - PubMed - NCBI
BMC Geriatr. 2015 Jul 5;15:74.
研究デザイン:横断研究
P:60歳以上の高齢者
367 women aged 60-93 years (median 72, interquartile range 65-79) and 451 men aged 60-92 years (median 73, interquartile range 66-80)
E/C:日中の過度な眠気の有無
Excessive daytime sleepiness (EDS)
O:1年以内の転倒

EDSの評価はthe Epworth Sleepiness Scale (ESS)を使用
8種類の状況での眠気を0~3点の4ポイントスケールで評価。高いほうが眠気が強い。

この研究ではESS10点以上をEDSありと定義

転倒については自己報告。

<結果>
EDS
女性:13.6%
男性:16%

転倒
女性:32.3%
男性:20.8%

では、転倒との関連は?
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4491238/table/Tab2/
女性では、有意に増加
男性ははっきりしない

adjustment for use of a walking aid, cases of nocturia and antidepressant medication
との記載あり。
調整因子が少ないのはn数が足りなかったためでしょうか…?

こちらも横断研究なのでどう解釈していいのか…という感じですが、男性では日中の眠気と転倒の関連がはっきりしなかったのは意外でした。


こちらは台湾のデータ
Daytime sleepiness is independently associated with falls in older adults with dementia. - PubMed - NCBI
Geriatr Gerontol Int. 2016 Jul;16(7):850-5
研究デザイン:横断研究
65歳以上の高齢者を対象に転倒の発生を調査

認知症ありvsなし:(27.6% vs 15.3%, P = 0.006).

Among older adults with dementia, daytime sleepiness was the only sleep characteristic that was significantly correlated to an increased risk of falls (adjusted odds ratio 5.56, 95% confidence interval 1.95-15.91) despite controlling for possible risk factors.
認知症の高齢者において、日中の眠気が転倒リスクと関連(OR5.56)



こちらは前向きコホート研究
Sleep disturbances and risk of falls in older community-dwelling men: the outcomes of Sleep Disorders in Older Men (MrOS Sleep) Study. - PubMed - NCBI
J Am Geriatr Soc. 2014 Feb;62(2):299-305.
高齢者の睡眠障害と転倒の関連を調査

67歳以上の男性(平均76歳)3,101名

In multivariable-adjusted models, participants with excessive daytime sleepiness (ESS > 10) but not poor subjective sleep quality (PSQI > 5) had greater odds of experiencing two or more falls in the subsequent year (odds ratio (OR) = 1.52 95% confidence interval (CI) = 1.14-2.03).

こっちのほうがわかりやすいかも
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3945231/table/T2/
ESS10超えで転倒リスク増

調整因子は
age, race, clinic, body mass index, cognitive function, physical activity, lower urinary tract symptoms, instrumental activities of daily living, depression, long- and short-acting benzodiazepine use, antidepressant use, anxiety, comorbidities, and walking speed.
BZD(ベンゾジアゼピン)の使用も調整されているようですね。


さて、最後のほうかなり適当に読み進めてしまいましたが、やはり日中眠気(寝不足)も転倒リスクになりそうです
あたりまえといえばあたりまえかもしれませんが…

そうなると、夜に眠れなくて眠れなくてっていう不眠症の高齢者で日中眠くてたまらん!という場合…
これはすでに転倒リスクがあるといえますよね?
さて、このような方に、転倒リスクになりえるとされるBZDを投与することは、転倒リスクを増加させるのでしょうか?減少させるのでしょうか?
夜にぐっすり眠れるようになった結果、日中スッキリ!となれば、転倒リスクは減る?それともやっぱり夜間にトイレに起きたりするときに転倒してしまうリスクなどを考えるとリスク増???

悩ましいですね…

患者さんそれぞれの環境・病歴・服用歴・ADLなどを考慮しないと評価できないような印象です。
転倒というアウトカムについては、ありとあらゆることが複雑に絡み合って影響してくるような気がします。

転倒については今後もいろいろ調べていきたいところですが今日はここまで。眠くなってきました。眠いのに無理して起きてたら、トイレにいくときに転んでしまうかもしれないので無理せず寝ようと思います。
それにしても自分の部屋を見渡す限り、印刷した文献が散乱しているので、それを踏んづけて滑って転んでしまうリスクを孕んでいますね。整理整頓も転倒リスクを減らすかも!?





この「転倒」というテーマはもう少し追いかけてみたいと思います。