pharmacist's record

日々の業務の向上のため、薬や病気について学んだことを記録します。細心の注意を払っていますが、古い情報が混ざっていたり、記載内容に誤りがある、論文の批判的吟味が不十分であるといった至らない点があるかもしれません。提供する情報に関しましては、一切の責任を負うことができませんので、予めご了承ください。また、無断転載はご遠慮ください。

人工甘味料は脳卒中/認知症リスク?

みなさん、人工甘味料を意識して摂取していたりするのでしょうか?

人工甘味料ならカロリーを気にせずに甘いもの飲み放題(味は別として)!
身体にも良い!
だなんて、そんな都合のいいことがあるんだろうか…と思っていた矢先、こんな論文が発表されたようです。

Sugar- and Artificially Sweetened Beverages and the Risks of Incident Stroke and Dementia | Stroke
研究デザイン:A Prospective Cohort Study(community-based Framingham Heart Study Offspring cohort)
P:2888 participants aged >45 years for incident stroke (mean age 62 [SD, 9] years; 45% men) and 1484 participants aged >60 years for incident dementia (mean age 69 [SD, 6] years; 46% men).
E/C:人工甘味料の摂取量
O:認知症脳卒中
(アウトカムごとにそれぞれ2つのコホートを10年サーベイ


調整因子
Model 1 is reported in the online-only Data Supplement.
Model 2 adjusts for age, sex, total caloric intake, the dietary guidelines adherence index, self-reported physical activity, and smoking status.
Model 3 adjusts for age, sex, total caloric intake, systolic blood pressure, treatment of hypertension, prevalent cardiovascular disease, atrial fibrillation, left ventricular hypertrophy, total cholesterol, high-density lipoprotein cholesterol, prevalent diabetes mellitus, and waist to hip ratio.

フローチャートを見ると、フォローしたのは、
脳卒中コホート2690名
認知症コホート1395名
(examinations 5 (1991–1995), 6 (1995–1998)のどちらのデータもない例は除外している)

アブストより
97例の脳卒中、81名の認知症が発生

結果は、
When comparing daily cumulative intake to 0 per week (reference), the hazard ratios were 2.96 (95% confidence interval, 1.26–6.97) for ischemic stroke and 2.89 (95% confidence interval, 1.18–7.07) for Alzheimer’s disease

おー、なかなかですね。

本文のTableを見てみると、Sugarと違って、人工甘味料ははっきりと差がでています。
Sugarでは差が認められていないところが気持ち悪いですね。人工甘味料ってやっぱアレなのかな、という懸念がふつふつと。

ただ糖尿病などの脳卒中認知症リスクとなる疾患をお持ちの方々が人工甘味料を積極的に摂取しているだけなのでは?という気もします。Model3ではDMも調整因子と入っていますが…。

気になったのは調整因子の数です。model3は12個くらい。こんなにたくさん調整して良いのでしょうか。イベント発生数は脳卒中認知症も100未満。
調整因子の数=イベント数÷10までじゃなかったでしたっけ…?
(↑間違ってましたら、ご教授いただけるとうれしいです。)


あと今までずっと疑問に思っていたのですが
このような観察研究を見ると、有意差がついた疾患だけを取り上げて論文化しているのかな?という気もするのですがそのような傾向はあるんでしょうか。
影響なかったよ!というデータも同等に取り扱ってほしいですね。アクセプトされにくくなってしまうのかもしれませんが…。

・「あっ」と驚くような観察的データのみを取り上げて論文化。
・別のコホートでは同様の暴露・アウトカムについて解析しても有意差ないけど、インパクトないので論文化はされない。

こんな感じになってたりしたら、物事の評価がわけわからなくなってくるような気がします


うーん。やはり観察研究の評価はよくわかりませんね。

ただ、個人的にはこの論文結果はなんだか気持ちが悪いので、人工甘味料はちょっと控える方向になりましたね

自分は缶チューハイや炭酸ジュース(主にジンジャエール!)をしばしば飲みます。
近年、お腹まわりになにか余分なもの(認めたくはないが"脂肪"かもしれない…認めたくはないが!)がついており、カロリーを気にして氷○ゼロ!みたいなのを手にしていましたが、この論文が出てから、なんとなく普通のチューハイしか飲まなくなりました。ジンジャエールもオリジナルのみ。

観察研究の評価は難しいとは思うのですが、
・そもそも人工甘味料メインのカロリーオフの飲み物は美味しくない
・カロリーを気にするなら、食事量を減らせばよい
この2点から、人工甘味料メインの清涼飲料水は最近飲んでいません

カロリーオフってつい手にしてしまいますが、減量したいなら普通に食事量を減らすなり、カロリーの低いものを食べればいいんですよね。
というわけで、ここに明言しておきますが、私、減量開始しました。
職場スタッフにも宣言したので、ぜったい痩せます!焼肉控えます!お酒は控えませんが!

もしどなたかリアルでお会いしたときに、私のお腹が出ていたら、腹パンチしてください。

過敏性腸症候群にオススメの食事は? 地域医療ジャーナル 2017年5月号 vol.3

cmj.publishers.fm

地域医療ジャーナル5月号です。

音楽療法士の佐藤由美子さんの連載が始まりました!

音楽療法というとみなさんどのようなイメージを持っているでしょうか?
介護施設にお薬をお届けにあがったりしたときに、入居者と施設のスタッフ全員で手をたたきながら歌を歌っているというような光景を目にしたことがありますが、みなさんこれを音楽療法と思っている方が多いのではないでしょうか?

自分もそのように思っていましたが、これは完全に誤解で、音楽療法というのはこのようなレクリエーション的なものではないそうです。
詳細は佐藤さんの記事をご覧ください!


さて、ヘンなことを言いますが、音楽はとても力を持っていると思っています。
ですが、その力は解明できてはいない。そんな印象です。

ph-minimal.hatenablog.com

こんな臨床研究も出ていますし。
面白いですよね。
今後、音楽を絡めた研究も進んでいくのでしょうか。楽しみです。


さて自分はというと、ひきつづき過敏性腸症候群IBSをテーマに食事療法について書きました。
話題のFODMAP、どうでしょうね。
このあたり、患者さんの価値観に大きく左右されると思います。
くわしくは地域医療ジャーナル5月号をご覧ください。

6月号もほぼ書き終わっているのですが、テーマをがらりと変えて、もっと身近でコモンなものを取り扱いますのでお楽しみに。

ACEi/ARB投与により30%以上クレアチニンが上昇すると・・・

抄読会に参加(拝聴)しました。

zuratomo4.hatenablog.com

Serum creatinine elevation after renin-angiotensin system blockade and long term cardiorenal risks: cohort study. - PubMed - NCBI

気になっていたあの論文です。
みなさん、ブログのタイトルを見て、ピンときたことでしょう。

まず、PECO
P:Patients starting treatment with angiotensin converting enzyme inhibitors or angiotensin receptor blockers (n=122 363).
E:creatinine increases of 30% or more after starting treatment
C:without such increases
O:first time diagnoses of end stage renal disease, myocardial infarction, and heart failure, as well as all cause mortality.

プライマリケアのデータベース

アウトカムはICD10を元にしている
(日本のように○○薬を処方したいがために保険病名いれるみたいなことがイギリスで頻繁に行われているかどうか不明)

交絡因子の調整
Adjusted for age, sex, comorbidities (diabetes mellitus, myocardial infarction, heart failure, hypertension, arrhythmia, peripheral arterial disease, and chronic kidney disease stage), co-medications (β blockers, calcium channel blockers, thiazides, loop diuretics, potassium sparing diuretics, and non-steroidal anti-inflammatory drugs), lifestyle factors (smoking status, alcohol intake, and body mass index), socioeconomic status, calendar period, and time since first prescription.

結果は、原著を。
http://www.bmj.com/highwire/markup/940107/expansion?width=1000&height=500&iframe=true&postprocessors=highwire_figures%2Chighwire_math

まあ、びっくりといえばびっくりですが、どうなんでしょうね。

たとえば、
クレアチニンが30%以上増加した患者をピックアップし、
ACEi/ARBをそのまま継続した人と、
ACEi/ARBを中断した人を比較して、
死亡やESRDが増加したら、うわっ!やっぱ30%以上増加したらRASiを止めなきゃ駄目じゃん!という知見が得られるのですが、この論文はそういう示唆ではないですよね。

予後が悪そうな人が、ACEi/ARBクレアチニンが上昇しやすいのか、
ACEi/ARBクレアチニンが大幅に上昇すると予後が悪くなるのか、
自分にはどちらが正しいのかわかりません。
この論文ではこの決着は出ないのではという気がしますがどうでしょう?


さて、ここからは経験と知識が不足している私のたわごとですので、鵜呑みにはしないようお願いします。

ふと思い浮かんだのが、
心不全に対するβブロッカーです
以前は禁忌ではないかとされていましたが、現在では心臓の負担を和らげて、予後が良くなるとされていると思います。でもやはり徐脈になったら減量してある程度の脈は保ちますよね。
徐脈になったらβブロッカーをばっさり切るかというと、そういうわけではなく、減量で対応ではないかと。

ACEi/ARBクレアチニン上昇は、徐脈みたいなものではないかと(極端すぎ? さすがに専門の方から怒られちゃいますかね)
糸球体内圧を下げることで糸球体ろ過率が低下。すなわち、糸球体への過剰な負担をおさえることで、腎機能を保護し、長期的な腎機能低下を予防する。ということだと認識しています。
糸球体内圧が下がりすぎたら、ちょっとやりすぎってことで、悪影響かもしれない? じゃあ30%以上クレアチニンが増加したら、ACEi/ARBはばっさり切るのではなく、減量というのも選択肢として考慮すべきではないかなと。

いや、わかりませんよ。減量すら不要なのかもしれません。

私の理解の範疇を超えています。


まず、
「投与前後のクレアチニンのモニターは大事」
これはまあ異論はないですよね。

この論文を踏まえて、
クレアチニンが30%以上増加したら、投与ストップ!」
これはちょっと微妙ですよねぇ。安易に一律に決めてしまっては駄目なんだろうなぁ。
もちろんベースラインのクレアチニンがどの程度かというのも大事だと思いますが…。

Use of angiotensin-converting enzyme inhibitors in patients with heart failure and renal insufficiency: how concerned should we be by the rise in s... - PubMed - NCBI
ちょっと古いですが、こういう論文もあります
30%以上、上回らないなら投与中止しないことを推奨。

30%をカットオフ値として、本当に中断していいのかどうか悩ましい問題ですね。

今日はここまでとさせていただきますが、もう少し詳しく調べてみたいと思います。

いやぁ、腎臓のスペシャリストの先生方にみっちり教えていただきたいところですね!
腎臓は難しいッ!