pharmacist's record

日々の業務の向上のため、薬や病気について学んだことを記録します。細心の注意を払っていますが、古い情報が混ざっていたり、記載内容に誤りがある、論文の批判的吟味が不十分であるといった至らない点があるかもしれません。提供する情報に関しましては、一切の責任を負うことができませんので、予めご了承ください。また、無断転載はご遠慮ください。

インターネットで収集した医療情報の質は検索エンジンによって異なる?

例のテレビ番組はまた炎上しそうな雰囲気ですが、テレビだけでなくインターネットでの情報収集も危ういですよね。

過去にSNSで「日本語で検索vs英語で検索」てな感じのやりとりをさせていただいた記憶がありますが、個人的には「医療情報を収集するなら英語で検索したほうがよい」と思っています。日本語で検索すると、あやしい広告サイトが上位にヒットするのはみなさん経験されていることかと思います(過去にこのブログで同じようなことを書いたかもしれません)

なんと、インターネットの情報の質について取り上げた論文がありました。国立がんセンターの先生の論文です

Differences in the quality of information on the internet about lung cancer between the United States and Japan. - PubMed - NCBI
J Thorac Oncol. 2009 Jul;4(7):829-33.

使用した検索エンジンは以下の3つ
Google Japan (Google-J), Google United States (Google-U), and Yahoo Japan (Yahoo-J).

検索ワードは、
"lung cancer" in Japanese and English

上位にヒットした50サイトを評価しています

おもしろい比較研究ですね。
たしかに“がん”に関してはさまざまな情報が錯綜している印象があります。

結果はどうでしょう?


米国のgoogleでヒットしたうちの80%が適切な治療法について記述しているのに対して、日本のgoogleとYahooは50%以下で、10%以上が代替療法を宣伝している。
日本のgoogleとyahooは10%以上が広告サイト

だそうです…。

この論文は2009年発表です。
今は2017年。この格差はどう変化したのでしょうね。ひどくなっているのかな…?

ためしに私がよく利用しているYahooで「肺がん」で検索してみると、

がんセンターのサイトも上位にあがってくる一方で、免疫療法の紹介をしている医療機関のサイトなどもあり、ネットで情報を得ようとした人たちは混乱するでしょうね。
広告はあやしいのばかり。

医療情報リテラシーの向上のため、このような広告は一掃するぜ!と方向転換したら、その検索エンジンが好きになっちゃいそうですが、広告で収入を得ているのでしょうし(常識に疎いので見当違いだったらすみません)、悩ましいところなのでしょうか。

昔だったらスマホで海外の医学論文を読めるなんて考えられなかったことだと思いますし、ITの世界は格段に進歩しているのですが、ネットの情報を活用する上では細心の注意を払わないと、おかしな情報を取り込んでしまったりする危険性を孕んでいるのはあいかわらずという感じがしますね。

テレビもあいかわらずですし、週刊誌どころか新聞だってありえない広告が普通に載ってたりしますよね。
この状況はいつまで続くのでしょうか…。

私は地道に一次資料を基に情報を発信していこうと思ってますが、メディアの影響力の凄まじさには圧倒されるばかり。
少しでも正しい情報が世間のみなさんに伝わるように微力ながら発信を続けていこうかなと思っています。
(そんなこと言いながら、非医療従事者にはわかりにくい記述ばかりの医療者向けの内容になってしまっていますが…)

コラーゲンと褥瘡の件についてpubってみた。

うーむ。また炎上しそうですね(番組、見てないのですが)。

普通に気になったのでpubってみました。

「Collagen」「pressure ulcer」の2つのワードを含む文献をサーチしてみました。ヒットが少なかったので、検索項目を広げて気になる文献をチラ見。

が、コラーゲンの局所療法の文献が多いですね。
それは今回はスルーしましょう。

コラーゲンサプリメントのRCTが1つ見つかりました。
残念ながらアブストしか閲覧できません。
Pressure ulcer healing with a concentrated, fortified, collagen protein hydrolysate supplement: a randomized controlled trial. - PubMed - NCBI
Adv Skin Wound Care. 2006 Mar;19(2):92-6.
研究デザイン:Randomized, prospective, controlled, multicenter trial
セッティング:23 long-term-care facilities in 4 states 
P:89 residents with Stage II, III, or IV pressure ulcers
E:standard care plus a concentrated, fortified, collagen protein hydrolysate supplement (n = 56) コラーゲン加水分解
C:standard care plus placebo (n = 33)
[1日3回 8週間]
O:Change in PUSH tool scores in each group at 8 weeks

PUSHについてはこちらを参照
PUSH Tool | The National Pressure Ulcer Advisory Panel - NPUAP
17点満点で点数が高いほうが重症


89名中71名が試験完了

脱落18名のうち、実薬が何名でプラセボで何名かはアブストに記載なし
脱落例も解析に含まれたのかどうかアブストに記載なし


<結果>
After 8 weeks of treatment, residents who received standard care plus the concentrated, fortified, collagen protein hydrolysate supplement had significantly better PUSH tool scores compared with those who received standard care plus placebo (3.55 +/- 4.66 vs 3.22 +/- 4.11, respectively; P < .05).

えーと、これは…。
PUSHスコアが通常ケア&コラーゲンサプリのほうがベターであったと。
点数は、3.55vs3.22
点数が高いほうが重症のはずなので、ベースラインからの変化ということでしょうか。

通常ケア&コラーゲンのほうが3.55点改善。
通常ケア&プラセボは3.22点改善。

ということでしょうか。

17点満点で0.3点の差?
P値は0.05を切ってるそうですが、どうもピンときませんね。

私、解釈まちがっているのでしょうか…。

結語に「治癒率が約2倍」と書いてあったりして…。

これはちょっとフルテキスト読んでみたいところですね。
プラセボつかってるので患者さんは盲検化されてるのでしょうけど、割り当ての隠蔽化もちゃんとされてるんですかね~。

人数もあまり多くないですし、1:1のランダム化ではないです。
患者背景も見てみたいところ。
通常ケアの内容はどんな感じなんでしょうね。



ちなみに、国内でもプラセボ対照のRCTをやってるみたいです。
Jpn Pharmacol Ther 2015 43(9)1323-8
アブストは閲覧できますが、結果がP値しか記載されていないのでどの程度有効であったかはわかりません。
エンドポイントは前述のPUSHとPressure Score Status Tool(PSST) scoreを用いたそうです。



褥瘡の治療/予防のための栄養療法の介入についてのコクランレビュー
Nutritional interventions for preventing and treating pressure ulcers. - PubMed - NCBI
Cochrane Database Syst Rev. 2014 Jun 12;(6):CD003216.

とくにコラーゲンについては触れられていませんが、全文読んでみると、さきほどとりあげた文献もピックアップされておりました
フォレストプロットものってます(1RCTのみですが)

risk of biasは自分が感じたのとほぼ同じ評価。
そして、このRCTについて重要なことが記載されています。それはまさにさきほど私が?マークを連発したresutの解釈の謎が解ける内容でした。

あえて、その点についてはここでは書きません。
ぜひ、コクラン全文に目を通してみて頂きたいです。


そして、どうやらこのRCTを根拠としてガイドラインで推奨度C1となっているようです(けして高い推奨度ではないですが。C1とは根拠は限られているが行ってもよいという解釈)。
どの程度有効なのか判断するには原著にあたるのが通例かと思いますが、アブストの記載内容がわかりにくいので、コクランもチェックした上でご判断いただいたほうが良いと思います。

抗インフルエンザ薬の併用は有用? 地域医療ジャーナル 2017年3月号 vol.3

地域医療ジャーナル3月号です。

cmj.publishers.fm

インフルエンザについて取り上げました。

この記事が掲載されるころには、インフルエンザなんて下火になっていて、なにをいまさら…という感じになるかと思いきや、まだまだ猛威をふるっております。
はやく終わって欲しいですね…。



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昨日、休憩中に朦朧とした意識の中、ブログを書いていたら、上記の中途半端なところでアップしてました…。

よって、ちょっとだけ書き足し。

今回びっくりしたのは、こちらですね。

cmj.publishers.fm

発熱・咳嗽・喀痰などの症状のある患者さんに水分摂取をすすめてますが…、

水分摂取をすすめることの効果はいかほどなものか?
結果は、上記記事をご参考ください。

まさか…と思いました。

かぜの研究って奥深いですねぇ。
まだまだわからないことばかり。


ところで、風邪をこじらせないよう病院へ!という方も多いでしょう。
二次感染予防のためにも抗菌薬~という声も。
(NNT12255ていう観察研究が有名ですね PMID:23508604)

ただ、この流行期に受診するのって、他の感染症をもらってしまうという二次感染リスクのほうが高いんじゃないかなぁという印象があります。
(風邪薬ひいたあとに今度は胃腸炎になったりとか。)

P:かぜやインフルエンザの流行期に呼吸器感染症症状を呈した健康成人が、
E:受診して抗菌薬や対症療法薬を処方してもらう
C:受診せず自宅療養
O:症状持続期間、別の感染症の発症

こんな研究ってすでにありますかね。
自宅療養が勝ってしまうような気がするのですが。

ただ、自宅療養ではまずいっ!受診したほうがいい!ていう見極めが大事なんでしょうね。
そのラインを徹底的に解明して、風邪や胃腸炎の受診すべきか否かクライテリアみたいなのをつくって、なるべく自宅療養ですませられればみんなハッピーなんじゃないかなーと思います。
風邪や胃腸炎で受診するのって単純にしんどいのでなるべく家で寝ていたいですよね。

もちろん医師の診察を受けて、「大丈夫、ただの風邪だよ」という一言の安心感は絶大なものがあるので、一概には言えないですけど。

風邪や胃腸炎で受診して、薬局にくる患者さんには、対症療法の薬と一緒に安心感を与えたいものですね。